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第4章 魔王なら出来て当たり前

57.閉じ込められたと考えるべきでしょう

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 魔力が吸われる対象と思われるのは、子ども達だけだった。全員の魔力量を計測し、その上で結論を出したアスタロトが渋い顔で溜め息を吐いた。

「魔力目当ての誘拐、で間違いなさそうですね」

「敵の姿がないのは気持ち悪いが、安全に引き上げることが優先だ」

 敵を倒してしまえば今後の憂いは断てるが、現実問題、敵の姿がない。気配も魔力も感じられない状況で、戦うことは不可能だった。空間を攻撃して、うっかり自分達が巻き込まれないとも限らない。一番は子どもや女性の安全なのだ。引き上げる案にアスタロトも賛成した。

「わかりました。私はもう少し調べて帰ります」

「お義父様は一緒ではないのですか?」

「安心しなさい。私を傷つけるなら、大公以上の実力が必要です」

 そんな強者は片手に足りる。魔王夫妻と残る3人の大公のみ。だから安全だと諭して、アスタロトはルシファーに娘や孫を託した。一か所に子ども達を集め、結界で二重に包む。その上で、ルーサルカとシトリーを包んで魔法陣を展開した。

 到着地をリリスにしようとして、躊躇う。授乳中だったら気が引ける。城門前か中庭が好ましいと考え、鳳凰のアラエルを終点に決めた。万が一にも彼が火口に出掛けていたとして、結界があれば問題ない。大量の枝の中から選ぶように設定し、魔法陣を発動させて飛んだ。

 ……はずだったが?

「これはまいったな」

 終点となる魔力の設定は出来るのに、転移魔法で移動した距離はほぼゼロだった。同じ場所に立ち尽くしている。だが魔力は確実に消費された。その感触はあるが、ならば魔力はどこで消費されたのか。魔法や魔法陣で消費される魔力は、起きた現象への対価だった。魔力を消費したのに現象が起きないのでは、バランスが崩れてしまう。

「ルシファー様?」

 不思議そうなアスタロトに、見える範囲でいいから転移してみろと告げる。首を傾げながらも実行したアスタロトは、一瞬消えて現れた。いる場所は同じだが、外から見ていると僅かな時間だが消えている。この一瞬のために魔力が消費されたのか?

「……おかしいですね」

「お義父様、何をしたのですか?」

 きょとんとしたルーサルカの指摘に、アスタロトが溜め息を吐いた。

「これは閉じ込められたと考えるべきでしょう」

「こんな危険な場所に閉じ込められるとは、運がないな」

 アスタロトの予測に同意しながら、ルシファーはさほど危機感を持たなかった。というのも、大抵の出来事は魔力で片が付く。その環境に慣れていた。さきほどアスタロトが一瞬消えたのなら、普段より大量の魔力を注ぐことで正常に作動するのではないか? と仮説を立てる。

 相談したアスタロトは眉を寄せた後、試すことを提案した。近距離で見える距離、数歩の距離を移動するのに通常の何倍の魔力量を消費するか。それによっては帰還に時間がかかることも想定しなくてはならなかった。

「僕達、帰れないの?」

 イザヤとアンナの長男は、不安そうに呟いた。確かルイと名付けられたはずだ。生まれた時にうっかり「兄妹」と表現したらアンナに切れられ「姉弟」として登録された経緯がある。長男と長女であることは間違いない。黒髪にぽんと手を乗せ、ルシファーは視線を合わせて屈んだ。

「ルイ、姉のスイを守るのは君の役目だ。ちゃんと帰れるようにするのは、オレの仕事だぞ。安心しろ、これでも最強の魔王だからな」

 ほっとした様子で、ルイと呼ばれた少年は頷いた。双子の姉の手をしっかり握って離さないあたり、なかなか根性がある。勇者であるアベルを「おじさん」と呼ぶこの双子は、意外にも剣術に才能があった。

「必ず帰れるようにするから、頼まれてくれるか? お互いだけじゃなく、他の子も助けてやって欲しい」

「わかりました」

「任せて」

 双子はそっくりな顔で笑った。彼と彼女の黒髪を撫でて立ち上がり、アスタロトと今後の相談に入る。後ろで二人の大公女達は顔を見合わせ、子ども達全員に話しかけ始めた。不安そうな子ども達を落ち着かせる間に、相談は纏まる。

「では、二倍から始めます」

 帰るための手段を模索する大人を、子ども達は大人しく見守った。
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