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第4章 魔王なら出来て当たり前
56.何もない異世界の思惑
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飛ばされた先へ結界を展開する。終点となる魔力の手前に作った出口へ結界を張り、触れた者すべてに適用した。これで外部に空気がなかろうと、海の底だろうと守られる。難しい作業を慣れと経験で調整しながらこなし、ぽんと現れた先で……見たことのない景色に唖然とした。
「これは?」
「えっと……」
困惑したのは、ルーサルカやシトリーも同じだ。ヤンに至っては大口開けて固まっていた。
「……異世界、というやつか」
アベル達から概念は聞いている。そもそも、別の世界があってもなくてもルシファーに興味はない。手の届く範囲の魔族を守れるなら、それ以外は関係なかった。だが、日本人を含めた人族はすべて「異世界」からやって来たと考えられる。その後繁殖して現地に根付いた人族がほとんどだが、祖先を辿れば異世界出身だった。
初代の勇者がやたら強かったのも、異世界の補正? ではないかとアベルは仮説を立てていた。ルシファー達にとって、異世界は完全に未知の空間なのだ。どんな強者がいるのか、色の法則が適用されるか。さまざまな部分が未知数だった。
真っ白な空間に、色がいくつかある。アスタロトが纏う黒、子ども達の服に使われた赤、青、オレンジなどの原色。だがそれ以外に生きた存在は見当たらなかった。
「ここは何のための場所だ?」
首を傾げながら、少し先にいる子ども達へ向かって足を進めた。天井も床も分からない。念のため、結界を使った硬い床を作り出して広げた。色がない空間で透明の結界は踏み外す可能性があるため、目立つよう緑を敷き詰める。
芝の大地をイメージしたせいか、大公女達も恐る恐るだが足を踏み出した。数歩歩いて安全だと確認した途端、シトリーとルーサルカが走り出す。
「おいで、ケガはない?」
「ママよ」
二人が駆け寄った先で、気づいた子ども達が表情を変える。緊張が解けず固まったままの子と、笑顔を浮かべた子に分かれた。母親の姿を見て、涙ぐむ子もいる。
駆け寄った二人は、自分の子だけではなく他の子も抱き寄せた。温もりにほっとしたのか。大泣きを始める子が出ると、他の子も釣られる。大合唱となった空間で、アスタロトがほっとした顔を見せた。
「どうしようかと思いましたが、連れて来ていただき助かりました」
「考えなしに突っ込むなど珍しいな。戦闘じゃなければ、お前の出番はないと思うぞ。アスタロト」
苦笑いする彼の肩を叩き、子ども達を確認する。8人、数は揃って……ん? もう一度数え直し、間違いないと頷いた。
「帰りたい」
「怖い」
「なんか吸われてる」
最後の子の発言に、ルシファーとアスタロトは顔を見合わせた。しゃがんだルシファーが視線を合わせ、涙を拭く女の子に微笑みかける。彼女を手招きして、慣れた所作で抱き上げた。保育園を終えるくらいの年齢で、水色の瞳に青い髪……となれば、ルーシアの長女だろう。
「名前を聞いてもいいかな? オレはルシファーだ」
「ライラ」
「ライラ、いい名前だ。何か吸われてる感じがするのか?」
「うん……魔力をちょっとずつ」
次の瞬間、パチンと指を鳴らして結界を作る。ドーム状にしたが、存在するか分からない地面が危険な可能性を考慮して球体に直した。これでぐるりと周囲が隔絶された状態だ。
「これでどうだ?」
「もう平気、です」
母であるルーシアの教育が厳しいようで、落ち着いたら言葉遣いを直し始めた。微笑ましくなり、青い髪を撫でてやる。にっこり笑う少女は愛らしかった。
「敵の姿は見えませんが、魔力を目的とした誘拐でしょうか」
アスタロトは周囲を警戒しながら、義娘達を守るために剣を抜いた。
「これは?」
「えっと……」
困惑したのは、ルーサルカやシトリーも同じだ。ヤンに至っては大口開けて固まっていた。
「……異世界、というやつか」
アベル達から概念は聞いている。そもそも、別の世界があってもなくてもルシファーに興味はない。手の届く範囲の魔族を守れるなら、それ以外は関係なかった。だが、日本人を含めた人族はすべて「異世界」からやって来たと考えられる。その後繁殖して現地に根付いた人族がほとんどだが、祖先を辿れば異世界出身だった。
初代の勇者がやたら強かったのも、異世界の補正? ではないかとアベルは仮説を立てていた。ルシファー達にとって、異世界は完全に未知の空間なのだ。どんな強者がいるのか、色の法則が適用されるか。さまざまな部分が未知数だった。
真っ白な空間に、色がいくつかある。アスタロトが纏う黒、子ども達の服に使われた赤、青、オレンジなどの原色。だがそれ以外に生きた存在は見当たらなかった。
「ここは何のための場所だ?」
首を傾げながら、少し先にいる子ども達へ向かって足を進めた。天井も床も分からない。念のため、結界を使った硬い床を作り出して広げた。色がない空間で透明の結界は踏み外す可能性があるため、目立つよう緑を敷き詰める。
芝の大地をイメージしたせいか、大公女達も恐る恐るだが足を踏み出した。数歩歩いて安全だと確認した途端、シトリーとルーサルカが走り出す。
「おいで、ケガはない?」
「ママよ」
二人が駆け寄った先で、気づいた子ども達が表情を変える。緊張が解けず固まったままの子と、笑顔を浮かべた子に分かれた。母親の姿を見て、涙ぐむ子もいる。
駆け寄った二人は、自分の子だけではなく他の子も抱き寄せた。温もりにほっとしたのか。大泣きを始める子が出ると、他の子も釣られる。大合唱となった空間で、アスタロトがほっとした顔を見せた。
「どうしようかと思いましたが、連れて来ていただき助かりました」
「考えなしに突っ込むなど珍しいな。戦闘じゃなければ、お前の出番はないと思うぞ。アスタロト」
苦笑いする彼の肩を叩き、子ども達を確認する。8人、数は揃って……ん? もう一度数え直し、間違いないと頷いた。
「帰りたい」
「怖い」
「なんか吸われてる」
最後の子の発言に、ルシファーとアスタロトは顔を見合わせた。しゃがんだルシファーが視線を合わせ、涙を拭く女の子に微笑みかける。彼女を手招きして、慣れた所作で抱き上げた。保育園を終えるくらいの年齢で、水色の瞳に青い髪……となれば、ルーシアの長女だろう。
「名前を聞いてもいいかな? オレはルシファーだ」
「ライラ」
「ライラ、いい名前だ。何か吸われてる感じがするのか?」
「うん……魔力をちょっとずつ」
次の瞬間、パチンと指を鳴らして結界を作る。ドーム状にしたが、存在するか分からない地面が危険な可能性を考慮して球体に直した。これでぐるりと周囲が隔絶された状態だ。
「これでどうだ?」
「もう平気、です」
母であるルーシアの教育が厳しいようで、落ち着いたら言葉遣いを直し始めた。微笑ましくなり、青い髪を撫でてやる。にっこり笑う少女は愛らしかった。
「敵の姿は見えませんが、魔力を目的とした誘拐でしょうか」
アスタロトは周囲を警戒しながら、義娘達を守るために剣を抜いた。
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