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第4章 魔王なら出来て当たり前

50.育児の参考にならなかった

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 魔王夫妻が出掛けた魔王城では、新しい保育園に作られる幼児専用クラスについて会議が始まっていた。シトリーが招集したのは、ベルゼビュート大公を筆頭に大公女全員である。皆が我が子を連れて集まった。お陰で保育園の部屋に似て騒々しかった。

「こらっ、それはダメ! あっ」

 ルーシアが止めるも間に合わず、我が子が壁に穴をあける。その横でルーサルカの長男が、はいずり回る下の子の足を掴んでいた。

「お母さん、何とかして」

「今行くわ」

 駆け付けたルーサルカが、我が子を抱き上げる。ほっとした顔で床に座り込んだ息子を褒めて頭を撫でた。

「助かったわ、さすがお兄ちゃんね」

 騒動をぐるりと見回して、シトリーは早くも問題点に気づいた。子どもがいると会議にならないのは当然だ。だが連れてきてもらったのは、この状況を知りたかったから。魔族の子は体が丈夫で、預けた半日の間に病気になる心配はほぼない。心配になるのは、建物の方だった。

 ここは魔王城で自動修復魔法陣が足元にあるから、数時間経てば凹んだ壁も元に戻る。穴が空いた壁も一晩あれば回復するはずだった。これと同じ機能をつけなければ、保育園は数日で倒壊するだろう。

「やっぱり、建物の強度ね」

「それはドワーフに相談したらどうだ?」

 レライエがもっともな意見を出した。この時点で我が子が卵のレライエが一番余裕がある。シトリーの独り言に反応できたのも、彼女だけだった。

「あら、やったわ」

 ベルゼビュートが大きく肩を落とす。壁を突き破ったベルゼビュートの子を先頭に、隣の部屋に侵略を始めた子ども達を魔力で包んだ。それから部屋に戻して、しっかり言い聞かせる。

「壁を壊してはいけないの。お尻を叩くわよ!」

「暴力はいけませんわ、ベルゼビュート大公閣下」

「敬称は要らないし、これは躾よ。うちの子は特にそうね。すぐに精霊が甘やかすから、悪いことをしたら叱らなきゃ」

 むっとした口調でルーシアに言い返したところで、ふと彼女らは気になった。

「魔王陛下はどうやって育ったんですか?」

「育児の参考にしたいわ」

 ルーサルカとルーシアへ、ベルゼビュートは低い声で言い聞かせた。

「そこに興味を持っても得るものはないわ。だって……あのアスタロトとベールが育てたのよ? あたくしも少し手伝ったけど、ほとんどはあの二人が面倒を見たのよ。拾った時点で10歳くらいの見た目だったけど、凄い生意気だったわ。あの二人としょっちゅうケンカして、火口に吊るされて落とすと脅されたり、隣の大陸まで強制的に投げ飛ばされたり……あら、どうしたの?」

「いえ」

 短く答えるシトリーの顔色は青かった。教育や面倒を見るという言葉に、そんな虐待行為まで含まれていたなんて。いくら魔王陛下の魔力量が多くて丈夫でも、子ども時代に火口から落とすのはやり過ぎだと思う。

「お義父様らしいけど、それで陛下は大公お二人に弱いのね」

「私が同じ育て方されたら、反発するが?」

 ルーサルカは納得した様子だが、疑問を呈したのはレライエだ。彼女は勝気な性格なので、もし幼い頃に乱暴な扱いをされたら、仕返しをすると明言した。

「……わかった。子どもはそれぞれの個性と性格に合わせて対応しないと、将来に遺恨を残すのね」

 シトリーは悟りを開いたような顔で溜め息を吐く。ある意味、それ以外に纏められなかったとも言う。ここに魔王妃リリスがいなくて良かった。全員が共通した思いで、我が子を魔力の網から回収する。会議はその後も続けられたが、最終的な結論は決まっていた。

 言葉が通じる年齢になるまで幼児を預かることは、施設の破壊とイコールである。幼児クラスの設立は、もう少し先になりそうだった。
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