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第4章 魔王なら出来て当たり前
45.災害復興担当の怠慢が発覚?
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幻獣達は各種族の個体数が少ない。さらに生息条件が近いため、まとまって暮らしていた。互いに助け合う精神も強く、家族単位で近所に暮らしている感覚が近い。仲裁が必要になるケンカも滅多になく、穏やかに暮らすのが幻獣だった。
そんな彼らの特色の一つとして、幸運を招く性質がある。小さな幸運を積み重ねる彼らの暮らしは、生息地の天候も好ましい状態を作り上げた。いや、この地域を引き当てたこと自体、幸運の証だろう。完全ではなくても問題ない。この状態を幻獣達は好むのだ。その地域に荒天が続けば、驚いて助けを求めるのも当然なのだが……。
「アムドゥスキアスはどうした?」
災害復興担当の役職を与えられた翡翠竜の名を口にする魔王へ、大公ベールが溜め息を吐いた。額を押さえて呻くと、ぼそりと吐き捨てる。
「すでに出動を要請しました。まだ来ていませんが」
つまり、ベールの呼び出しを無視したのか。なかなかに根性が据わってる。オレなら絶対にやらないけど……自分を棚に上げてルシファーはぶるりと身を震わせた。
「アドキスなら、ライとの記念日が近いと浮かれてたわ」
思わぬところから、彼の情報がもたらされる。側近レライエの夫なので、顔を合わせる機会が多いのだろう。リリスはけろりと白状した。魔族には誕生日を祝う習慣がない上、長寿なのでざっくりした数え方をする。その分だけ、記念日を大切にする者がいた。翡翠竜もその類いだろう。
「後で捕まえて文句を言わなければ」
むっとした口調でルシファーが呟く。仕事を放り出すなど羨ましいぞ許すまじ、そんな本音が滲んでいた。
「ライに言い付けるといいわよ。それが一番効果的だわ。仕事をしない夫なんて最低だ、とか」
「ぐっ……うう゛」
言葉の刃がぐさりと、ルシファーの胸に突き刺さる。仕事をしない夫なんて最低……その言葉は翡翠竜を泣かせる前に、魔王を傷つけていた。しっかり心当たりのあるルシファーである。ふらりとよろめきながらも、リリスの腰を抱いて彼女の安全を確保していた。
「陛下、己の行いを正せぬ者は報いを受けるのです」
達観したベールの指摘に、黙して頷いた。うっかり口を開くとさらなる被害を受けそうだ。こういった危機に関する察知能力は働いている。リリスをエスコートすることに注力した。それ以外を無視した魔王の結界に、何かが衝突する。
がんっ! ごん……ぱた。
ぶつかった何かは、バウンドして落下した。足元に転がるのは、虹蛇の子どもらしい。まだ幼く卵から孵って間もない子蛇だった。ルシファーの両手で掬い上げられる程度の大きさである。ひょいっと摘んだルシファーが、結界越しに子蛇を撫でた。だがすぐにベールに奪われる。
「貴重な種族なのですから、扱いは慎重にお願いいたします」
「すまん」
手荒に見えたらしい。虹蛇の子は、上の木の枝から落ちたようだ。落下した先に魔王がいたのは、運がいいのか。ケガもなく気を失っただけだった。
「妙なことです」
「ああ。親はどこだ?」
ベールの指摘に、ルシファーも同調する。虹蛇は我が子に対する執着の激しい種族だ。以前に人族に襲われ我が子を奪われた母は、喉元を貫く剣を承知で我が身を裂いて自由を得た。息絶える前に我が子を取り返そうと、血塗れの姿で追った程の深い愛情を持つ。
まだ赤子と呼べる大きさの子蛇が、生息地の洞窟の外を歩いているのは奇妙だった。まさか、生息地でトラブルが?
「僕が先に見てくるね」
背にドラゴンの羽を出し、ルキフェルが単独で飛び出した。慌てたベールが後を追う。残されたリリスとルシファーは顔を見合わせ、子蛇を覗き込んだ。
「あぶぅ」
指をにぎにぎと動かすイヴは元気で、置いて行かれた虹蛇の子を魔力で引き寄せた。大切そうにおくるみの中にしまうイヴの姿に、夫婦は小さく笑った。ぱちんと指を鳴らし、ルシファーが生息地の手前へ転移する。すでにルキフェルが飛び込んだらしく、中から足音が聞こえた。
そんな彼らの特色の一つとして、幸運を招く性質がある。小さな幸運を積み重ねる彼らの暮らしは、生息地の天候も好ましい状態を作り上げた。いや、この地域を引き当てたこと自体、幸運の証だろう。完全ではなくても問題ない。この状態を幻獣達は好むのだ。その地域に荒天が続けば、驚いて助けを求めるのも当然なのだが……。
「アムドゥスキアスはどうした?」
災害復興担当の役職を与えられた翡翠竜の名を口にする魔王へ、大公ベールが溜め息を吐いた。額を押さえて呻くと、ぼそりと吐き捨てる。
「すでに出動を要請しました。まだ来ていませんが」
つまり、ベールの呼び出しを無視したのか。なかなかに根性が据わってる。オレなら絶対にやらないけど……自分を棚に上げてルシファーはぶるりと身を震わせた。
「アドキスなら、ライとの記念日が近いと浮かれてたわ」
思わぬところから、彼の情報がもたらされる。側近レライエの夫なので、顔を合わせる機会が多いのだろう。リリスはけろりと白状した。魔族には誕生日を祝う習慣がない上、長寿なのでざっくりした数え方をする。その分だけ、記念日を大切にする者がいた。翡翠竜もその類いだろう。
「後で捕まえて文句を言わなければ」
むっとした口調でルシファーが呟く。仕事を放り出すなど羨ましいぞ許すまじ、そんな本音が滲んでいた。
「ライに言い付けるといいわよ。それが一番効果的だわ。仕事をしない夫なんて最低だ、とか」
「ぐっ……うう゛」
言葉の刃がぐさりと、ルシファーの胸に突き刺さる。仕事をしない夫なんて最低……その言葉は翡翠竜を泣かせる前に、魔王を傷つけていた。しっかり心当たりのあるルシファーである。ふらりとよろめきながらも、リリスの腰を抱いて彼女の安全を確保していた。
「陛下、己の行いを正せぬ者は報いを受けるのです」
達観したベールの指摘に、黙して頷いた。うっかり口を開くとさらなる被害を受けそうだ。こういった危機に関する察知能力は働いている。リリスをエスコートすることに注力した。それ以外を無視した魔王の結界に、何かが衝突する。
がんっ! ごん……ぱた。
ぶつかった何かは、バウンドして落下した。足元に転がるのは、虹蛇の子どもらしい。まだ幼く卵から孵って間もない子蛇だった。ルシファーの両手で掬い上げられる程度の大きさである。ひょいっと摘んだルシファーが、結界越しに子蛇を撫でた。だがすぐにベールに奪われる。
「貴重な種族なのですから、扱いは慎重にお願いいたします」
「すまん」
手荒に見えたらしい。虹蛇の子は、上の木の枝から落ちたようだ。落下した先に魔王がいたのは、運がいいのか。ケガもなく気を失っただけだった。
「妙なことです」
「ああ。親はどこだ?」
ベールの指摘に、ルシファーも同調する。虹蛇は我が子に対する執着の激しい種族だ。以前に人族に襲われ我が子を奪われた母は、喉元を貫く剣を承知で我が身を裂いて自由を得た。息絶える前に我が子を取り返そうと、血塗れの姿で追った程の深い愛情を持つ。
まだ赤子と呼べる大きさの子蛇が、生息地の洞窟の外を歩いているのは奇妙だった。まさか、生息地でトラブルが?
「僕が先に見てくるね」
背にドラゴンの羽を出し、ルキフェルが単独で飛び出した。慌てたベールが後を追う。残されたリリスとルシファーは顔を見合わせ、子蛇を覗き込んだ。
「あぶぅ」
指をにぎにぎと動かすイヴは元気で、置いて行かれた虹蛇の子を魔力で引き寄せた。大切そうにおくるみの中にしまうイヴの姿に、夫婦は小さく笑った。ぱちんと指を鳴らし、ルシファーが生息地の手前へ転移する。すでにルキフェルが飛び込んだらしく、中から足音が聞こえた。
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