【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
29 / 530
第3章 昔話は長いもの

28.昔懐かしい、やや気恥ずかしい記憶

しおりを挟む
 かつて、魔王ルシファーがまだ少年だった頃――世界はもっと殺伐としていた。幻獣や神獣を始めとし魔獣も従える幻獣霊王ベールと精霊達を統べる女王ベルゼビュート、吸血種から獣人まで支配するアスタロトの間で戦いが繰り広げられる。その最中に突然現れた強大な魔力が、純白の髪を持つルシファーだった――。

 薔薇が咲く魔王城の温室で、ルシファーは懐かしさに目を細めた。昔話がちらりと出て、リリスが興味を持ったのだ。仕事があると逃げたアスタロトやベールを除き、大公女達やルキフェルは目を輝かせて先を促した。

 ――圧倒的な強さを誇る3人の強者は、それぞれに淡色の外見を誇る。銀髪に青い瞳のベール、続いて金髪と赤い目のアスタロト。魔力では劣るが精霊の力を取り込めるピンクの髪と瞳を持つベルゼビュート。誰が勝っても負けても不自然ではない、微妙な均衡を保つ力関係に、純白の子どもは一石を投じた。

「この子ども、今のうちに始末した方がよさそうです」

「おやおや短絡的なことですね。コレは私がもらい受けましょう」

 脅威に感じたベールが攻撃を仕掛けようとすれば、手駒として利用を目論むアスタロトが邪魔をした。そんな二人の争いに、彼らを倒そうとベルゼビュートが介入する。

「あんた達、両方とも邪魔なのよ!」

「同感です」

「本当に、ここだけは意見が一致しますね」

 殺伐とした彼らの争いに、ルシファーは違和感を覚えた。これらは戦う必要があるのか? 剣と精霊の魔法を駆使して戦うベルゼビュートの強さに首を傾げる。幻獣が持つ特殊な能力を利用して立ち向かうベールや、己の強さを過信して仕掛けるアスタロト。あまりにタイプが違う3人だった。

 協力したらうまく回るだろうに。ふとそう考えついた。誰かを中心に纏まれば、3人は互いの能力を生かして足りない部分を補い合う。それが最高の形だ。その考えが浮かんだこと、それが答えだった。魔の森はそれを望んでいる。

 息をするように魔の森から魔力を借り受け、背に広げた黒い翼に変換していく。剣を合わせるアスタロトとベルゼビュートへ、ベールが襲い掛かろうとした瞬間を狙って、魔力の糸で拘束した。魔法を構築するより早く、本能的に魔力を放った結果だ。

 彼らを絡め取った糸は、目に見えるほど魔力を強く帯びていた。締め付ければ呼吸を奪い、刃に変えれば体をバラバラに切り裂くことも可能だ。その状態で、ルシファーはにっこりと笑った。

「オレの勝ちだ。従え」

「嫌ですね」

 跳ね除けようとアスタロトが魔力を爆発させる。翼や角だけでなく牙まですべて解放したアスタロトの魔力は、まるで棘のようだった。鋭い魔力が周囲に飛び散る。咄嗟に結界を張ったのは、全員同時だった。

 きゃんっ! 魔獣の子がその魔力に当たった。失敗したと顔を歪めたものの舌打ちするアスタロトに、ベールが嫌味を繰り出す。心配そうにしながらも動けないベルゼビュートが、ちらちらと魔狼の子に目を向けた。

 この状態でも互いを牽制し合う3人に、ルシファーの怒りと落胆は大きかった。

「お前達が傷つけ合うのは自由だ。だったら誰も巻き込むな! 巻き込んだものは責任を持って助けろ!」

 敵である彼らに背を向け、ルシファーは地に膝を突く。震える魔獣の子を膝の上に抱き上げた。少し離れた場所で、親が唸る。

「安心しろ、治療するだけだ」

 牙を剥いて攻撃しようとする親狼に説明しながら、子狼の背を掠めた切り傷を癒す。弱肉強食、弱ければ食われて死ぬだけ。そう考えてきた3人の価値観を変える光景だった。いや、この時点では己の変化に戸惑い、原因と目したルシファーへの反発になる。

「戦いの最中に敵に背を向けるなど……っ」

 仕掛けようとした攻撃を避けるでもなく、ルシファーは結界で防いだ。ベルゼビュートの肌を何回も切り裂いた鋭い刃は、甲高い音で弾かれる。目を見開いて魔力を込め直すアスタロトをよそに、傷の治った子を親に返したルシファーは立ち上がった。

「敵に背を向けた? どこに敵がいるのだ」

 お前など敵にもならない。吐き捨てたルシファーの表情は、人形のように感情がなかった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

外れ婚約者とは言わせない! 〜年下婚約者様はトカゲかと思ったら最強のドラゴンでした〜

秋月真鳥
恋愛
 獣の本性を持つものが重用される獣国ハリカリの公爵家の令嬢、アイラには獣の本性がない。  アイラを出来損ないと周囲は言うが、両親と弟はアイラを愛してくれている。  アイラが8歳のときに、もう一つの公爵家で生まれたマウリとミルヴァの双子の本性はトカゲで、二人を産んだ後母親は体調を崩して寝込んでいた。  トカゲの双子を父親は冷遇し、妾腹の子どもに家を継がせるために追放しようとする。  アイラは両親に頼んで、マウリを婚約者として、ミルヴァと共に自分のお屋敷に連れて帰る。  本性が本当は最強のドラゴンだったマウリとミルヴァ。  二人を元の領地に戻すために、酷い父親をザマァして、後継者の地位を取り戻す物語。 ※毎日更新です! ※一章はざまぁ、二章からほのぼのになります。 ※四章まで書き上げています。 ※小説家になろうサイト様でも投稿しています。 表紙は、ひかげそうし様に描いていただきました。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

処理中です...