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第2章 学校のお披露目が近づいて

23.魔王城高等学院は満員御礼

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 学校長は意外なことにシトリーではない。彼女は学校や保育園を管轄する部署の官僚であり、現場は別の者に任せる予定だった。進み出たのは、ハイエルフのオレリアである。今日は濃紺のワンピースで、アクセサリーも少ない。淡い緑髪をすべて纏めて巻いていた。

「皆さま、本日は「魔王城高等学院」へのご入学おめでとうございます」

 一般的な挨拶から始まり、学校創立の趣旨や禁止事項などを簡単に説明していく。その話を聞きながらルシファーは僅かに首を傾げた。

「名称はいつ決まったんだ?」

「あなたがサボっている間です」

 アスタロトはすでに知っていたらしい。知らぬは魔王ばかりである。まあ、リリスも知らない可能性は残っているが……注目を浴びないよう小声で行われたやり取りは、静かに終了した。これ以上余計な発言をすると、また説教されそうだ。

 魔王城高等学院――立派な名称だが、命名された経緯はいたってシンプルだった。魔王城の近くに立っているから、高等教育を施すから。この二点である。学校か学院かで揉めたが、各種族の子どもが通う教育機関が「学校」と呼称するため、区別するために「学院」が採用された。

 すべてを並べたら、思ったより格式高そうな名称に落ち着いた。魔族ならば年齢も種族も問わず、試験に通れば通うことが可能だ。さらにその下に付属学校が併設され、文字の読み書きや最低限必要とされる礼儀を教える。

 現時点で文字が読み書き出来ない子も、付属学校から通って高等学院を目指すからだ。頭に魔王城と掲げたのは、今後も学校が増える可能性を示唆している。この辺の考え方に多大なる影響を与えたのは、日本人三人だった。来賓の列に並ぶ彼や彼女らの子も、学校から通わせるらしい。

「リリスの頃に作っておけばよかったな」

 そうしたら大公女だけでなく、多くの友人が出来ただろうに。まあ、我が子イヴには間に合ったから良しとするか。過去の己の振る舞いを棚に上げた魔王へ、側近はちくりと痛い一言を返した。

「あなたがリリス様を学校に通わせる姿が想像できません」

 保育園ですらあれほど抵抗し、その後は自分の執務室を改造してまで同室を望んだ。学校を作ったとしても、通わせるなんて想像出来ない。学校内に、魔王の執務室を作るわけにいかないのだから。我が侭を振りかざして、手元に置こうとしたに違いない。

 言い切ったアスタロトに、魔王は沈黙を選んだ。ここで反論すると怖い。しかも反論できる言葉が見つからなかった。自分でもリリスへの執着は激し過ぎると思っている。他人に指摘されるとぐさりと胸に刺さる。

 無駄話をしている間にオレリアの挨拶が終わり、シトリーが来賓代表で壇上に立つ。すでに注意事項も伝えたため、簡単な祝辞だけだった。魔王の挨拶は予定されていないので、微笑んで頷く。

「学校見学を始めます」

 ぎりぎりまで工事が長引いた校舎は、今日が初お披露目だった。わいわいと子ども達が親と手を繋いで校舎へ向かう。一部こちらに挨拶に来た貴族もいたが、ルシファーが追い払った。珍しく「今日は子どもが主役だ。相手が違うぞ」とまともな理由だ。

 満足そうに頷いた側近を従えて、ルシファーも校舎の見学に向かった。ヤンはお転婆ピヨを背中に乗せ、ベルゼビュートは我が子の手を引いている。学校内は親の肩書きや種族での特例はなく、一切の差別が禁止された。

 鱗や尻尾があろうが、希少種だろうと同じ扱いで学ぶ。その精神が気に入ったルシファーは、我が子イヴが大きくなったら通わせると明言した。この一言により、入学希望者が殺到してオレリアが「今年の入学希望者受付は終了」と発表したとか。
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