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第2章 学校のお披露目が近づいて

20.飾り立てることは大粒の宝石と同じ

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 魔族の子どものお披露目は5歳前後である。その理由に、赤子の生存率が低いことが挙げられた。5歳頃から生存率が高まるため、即位記念祭に合わせて、子ども達の年齢を四捨五入してお祝いするのが恒例だった。回数が限られるお祝いの席は、3歳の子もいれば8歳になった子もいる。

 リリス自身も4歳の時に、通っていた保育園を会場とした祝いを受けていた。

「今回はルシファーの子どもだから、顔見せですって」

 言われた通りに伝えるリリスは、我が子の頬を撫でた。まだ手のひらで包めるほど小さな頬は温かい。ぷにぷにと手触りを楽しむリリスが笑う。親の顔を見て笑う月齢ではないが、銀の大きな瞳は確かに母親のリリスを見つめていた。

「顔見せ? そんな慣習はないが、まあいいか」

 行事が好きな民は喜ぶだろう。各地から駆け付ける魔族も転移魔法陣があるため、移動が容易だ。ここ2年ほど祭りもなかったし、まあいいか。深く考えずにルシファーは頷いた。

 以前は不定期に人族が勇者と称して襲ってきたが、そういった騒動もなくなった。魔族は基本的にお祭り好きで、屋台や行商も多い。公共事業もちょうど一段落したので、ここらで金を使う理由が必要だった。税を集めるだけで散財しない執政者として罵られるわけにいかない。

 大公が認める理由が出来たなら、それに乗っかって騒ぐのが正しい。開校日に「顔見せイベント」を告知すればいいか。

「それなら、可愛いイヴをさらに飾らないといけないな」

「私はピンクがいいわ」

「宝石類は重いか? でも飾りたいから……砕くのも有りだな」

「なしです」

 ぼそっと即答で否定される。私室に移動した途端、思わぬ反論がありルシファーは眉を寄せた。膝に乗せた嫁リリスと我が子イヴを守るような態勢で振り返る。

「ベール?」

「宝石を砕くのはおやめください。イメージが悪いです」

 遠回しに成り上がり者のようで感じが悪いと指摘された。むっとした顔でルシファーが「じゃあどうするんだよ」と意見を求める。

「イヴリース姫はお可愛らしいのですから、素のままでよいでしょう?」

 一般的な社交辞令に近い言葉だが、ベールの提案にルシファーは顔を綻ばせた。視線を向けた先に、愛らしく美しい妻リリス。穏やかな笑みを浮かべた彼女の腕に抱かれ、可愛い愛娘イヴが大きな瞳で見上げてくる。

「可愛い……」

 威厳も何もない魔王の本音に、リリスがにっこり笑う。釣られたようにイヴの顔も緩んだ。まるで笑ったようなタイミングと表情に、めろめろの魔王が抱き着いた。苦しいくらい抱き締めて頬ずりし、機嫌よくリリスの黒髪にキスを降らせる。

 同じ黒髪のイヴは感染予防で結界を重ねているため、その上からのキスで落ち着いた。

「衣装に宝石を散りばめたらどうか」

 どうしても飾りつけと言うと宝石から離れないルシファーに、ベールは呻いた。この厄介な思い込みを生んだ原因に心当たりがある。それも痛いほどに、自分の胸を突き刺す。魔王らしくを目標に育てたアスタロトとベールが、まだ若いルシファーに威厳を持たせるため飾り立てたことがある。

 動けない重いと不満を漏らすが、ルシファーは顔がいい。魔力量を表す純白の外見も手伝い、色がついた宝石が映える存在だった。必要以上に飾り物を乗せ、絡め、嵌めた。その結果が、この勘違いである。祭りなど目立つ催事では、必ず宝石をぎらぎらに飾るものと覚えてしまった。

 今まではそれで弊害はなかった。飾り立てる対象はルシファー本人だけなのだから。側近は主君より目立たないためと理由付けし、地味にしていたから余計に……隣に立つ妻リリスを飾り立てることに目覚めた。それでも制御しながら誤魔化してきたが、ここに娘イヴリースが加わると……。

「一度方向性を検討した方がいいでしょうか」

 過去の過ちを認めるのは勇気がいる。それでも今後の弊害と天秤にかけた上で、幹部会議の招集を決めたベールであった。
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