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第2章 学校のお披露目が近づいて

17.人材豊富な魔王城でひと騒動

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 魔王城を支える大公4人は、それぞれに役割分担している。幻獣霊王ベールは、魔王軍の頂点に立ち各種族間の調整を行ってきた。精霊女王ベルゼビュートも会計や財務計算の傍ら、辺境地区の見回りを担当している。夫エリゴスとともに、各地で目撃される最も人懐こい大公だ。

 瑠璃竜王ルキフェルは魔法陣の研究に没頭しているが、本来は式典や祭事の手配や記録を担当する。10年に一度発行される魔王史を編纂へんさんする仕事も彼が担当だった。吸血鬼王アスタロトに至っては、魔王の側近としてルシファーの監視をしているが……本来それは仕事ではない。

 武官を仕切るベールと対峙する形で、文官の管理をしていた。日本人のアンナやアベルが持ち込んだ概念で、最近は仕事の分業と権力の分散が図られ、アスタロトの仕事はかなり楽になった。魔王城の使用人を管理するのは侍女長のアデーレと侍従長のベリアルだ。アデーレはアスタロト公爵夫人の肩書きも持つが、普段は魔王城に住みこんでいた。

 魔王城に執事はいないが、実質アスタロトの名を挙げるのが近いか。これらの人々の努力で魔王城の権威は保たれているが、最近加わったのが大公女という4人の少女だ。魔王妃リリスの側近として選ばれ、優秀な彼女らは自らの役割を、魔王城の仕組みの中で新たに作り上げた。

 女性の出産や育児の負担を減らすべく動き出したのは、アスタロト大公とアデーレの義娘ルーサルカだ。学校や保育園の普及を進めるシトリーは、鳥人族ジズで火山地帯を治めるデカラビア子爵夫人になった。

 精霊族の侯爵令嬢ルーシアは婿を取って、各種族のトラブルを解決する保安維持執行官を務める。この地位は彼女自身が申し出て新設された。同時に作られた役職が、法務官だ。魔族は大まかな法は魔王城で定めて公布するが、各種族にも細かな法律や作法がある。それらを覚えて管理し、他種族間の問題解決に乗り出す部署だった。ここに竜族のレライエが所属し、夫の翡翠竜アムドゥスキアスと共に動いている。

 翡翠竜は瑠璃竜王に次ぐ竜族の実力者であると同時に、災害の復興担当官だった。これが魔王城に居室を持つ妻の隣室を貰う条件で引き受けたなど、忘れてしまうほどの適任なのだ。魔力量が豊富な彼は魔法陣を駆使して、様々な災害地の復旧に尽力した。

 これほど豊かな人材の上に立つのが魔王ルシファー、魔王妃リリスの夫婦だ。まだ結婚12年、長寿な魔族からは新婚ほやほやと表現される。騒動を起こすが人気の高い夫婦は、今日もまた騒ぎを起こしていた。

「リリスっ! そっちを消すぞ」

「待って、いいわ」

 ルシファーが火を消す。周囲を真空状態にする方法で消火したのは、ここが魔王城の居室だからだ。水を撒いたら片付けが面倒になる。浄化を使えばいいが、侍女長のアデーレが吸血種族なので危険だった。彼女の安全を考えての魔法陣だが、その直後、部屋の反対側が凍り付く。

「今度はこっち!」

「氷を外へ捨てる」

 魔王城の敷地内で転送や転移が許可されるのは中庭のみ。しかし魔王ルシファーのみ、魔法陣の制約を受けずに転移可能だった。転送で氷を裏庭に放り出す。ちなみに裏庭では、突然現れた氷塊に驚いて転がる管理人の角兎が目撃されたとか……。

 リリスは抱っこした我が子イヴに子守歌を歌うが、ちょっと……忖度なしに表現するなら音が外れている。イヴが歌に反応したのか、きゃっきゃとはしゃぐ。そのたびに魔法を乱発し、部屋が燃えたり凍ったりしていた。先ほどは風刃で髪が少し切れた魔王である。

 眠くなって目を手で擦るイヴが、ようやく魔法の乱発をやめた。ほっとして崩れ落ちるルシファーの後ろで、駆け付けた側近アスタロトが指摘する。

「イヴリース姫を結界で包んだらよかったのでは?」

 言われて「確かに」と呟いたことで、ルシファーは己の逃げ道を失った。きちんと対応しなかった罰として、事件の報告書と顛末書を作らされる。いつものことと見守るリリスの腕の中で、騒動の元凶であるお姫様はすやすやと眠っていた。
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