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本編
74.遅れながらも準備は進む
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支払う金額に見合う衣装を用意しなくては! 慌てたルードルフは、一族の巫女シャリヤに連絡を取った。ばぁばと呼ばれる彼女は、一族の生き字引きだ。過去に他国へ嫁いだ豪華な婚礼から、周辺国の情報まで。あれこれと覚えていた。
他国の王族と付き合いのあった先代は、よく公式行事に呼び出された。その際の服装に参考に、刺繍を増やすよう指示が飛ぶ。ゼノを含めたスマラグドスの女達は、大急ぎで民族衣装の仕上げに取り掛かった。
男性の衣装は刺繍を少なめにして、金属の飾りを縫い付ける。それはきらきらと光を弾き、まるで鎧のようだった。慣例の衣装なら、これで構わない。だが他国の王配となるのだ。一族内での結婚と違い、他国に侮られない衣装が必要だった。
刺繍の得意な者が集まり、婚礼衣装の隙間を埋めていく。その間に宝飾品も作られた。ついでとばかり、暴走して複数枚の豪華衣装が作られる。というのも、長のルードルフは武器に金をかけても服は頓着しない。多少破れていても、気にせず着用した。
屋敷で働くゼノ達が何度注意しても、ルードルフは気にしない。その彼が初めて己の外見を気にした! このチャンスに、身支度を整えさせようと考えたのだ。大騒ぎしながら、大量の衣装が縫われていく。
羊の毛を編んだものから、他国で仕入れた生地まで。様々な素材を駆使して、夏用と冬用、それ以外も箱いっぱいに仕上げた。今回は刺繍が間に合わないものの、今後のために追加の衣装も仕上げる予定だ。
「そうそう、ルードルフ。初夜のローブは用意しましたか?」
「なんだ? それは」
聞いておいて良かった。胸を撫で下ろしながら、ウルリヒは友人のために説明する。ジャスパー帝国と元ムンパール王国は、文化が似ている。近隣国という以前に、元は一つの国だったと言われていた。事実は歴史の中に埋もれたが、あり得る話だ。
夫婦である男神と女神が信仰される国は、神話や文化、慣習が近かった。初夜に花嫁が待つ寝室へ向かう花婿は、絹のローブを纏う。聞いたルードルフは唸った。
「スマラグドスは全裸で向かうんだが」
「どこの蛮族ですか」
呆れたと額を押さえ、ウルリヒが項垂れた。事前に確認しなければ、新婚初夜の花嫁が卒倒したかもしれない。最低限、腰回りだけは何かを巻くようにと言い聞かせた。
巫女シャリヤにお伺いを立て、了承を貰ったルードルフは絹のローブを手配する。その際色を相談し、あれこれ迷った末に黒を選んだ。この辺は好みもあるので、ウルリヒも細かく指定しない。
花嫁の準備は着々と進み、遅れながらも花婿が追いついた。こうなれば、結婚式当日を待つばかりである。ようやく親友と君主の結婚式が見られる、とウルリヒは胸を撫で下ろした。
ここで、彼はうっかり確認を一つ忘れている。黒い絹のローブの下に、下着を着用するか否か。当然着用すると思い込んだ元皇帝と逆に、全裸がしきたりの将軍……花嫁が初夜の寝室で悲鳴を上げるまで、誰も齟齬に気づかなかったとか。
他国の王族と付き合いのあった先代は、よく公式行事に呼び出された。その際の服装に参考に、刺繍を増やすよう指示が飛ぶ。ゼノを含めたスマラグドスの女達は、大急ぎで民族衣装の仕上げに取り掛かった。
男性の衣装は刺繍を少なめにして、金属の飾りを縫い付ける。それはきらきらと光を弾き、まるで鎧のようだった。慣例の衣装なら、これで構わない。だが他国の王配となるのだ。一族内での結婚と違い、他国に侮られない衣装が必要だった。
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羊の毛を編んだものから、他国で仕入れた生地まで。様々な素材を駆使して、夏用と冬用、それ以外も箱いっぱいに仕上げた。今回は刺繍が間に合わないものの、今後のために追加の衣装も仕上げる予定だ。
「そうそう、ルードルフ。初夜のローブは用意しましたか?」
「なんだ? それは」
聞いておいて良かった。胸を撫で下ろしながら、ウルリヒは友人のために説明する。ジャスパー帝国と元ムンパール王国は、文化が似ている。近隣国という以前に、元は一つの国だったと言われていた。事実は歴史の中に埋もれたが、あり得る話だ。
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「スマラグドスは全裸で向かうんだが」
「どこの蛮族ですか」
呆れたと額を押さえ、ウルリヒが項垂れた。事前に確認しなければ、新婚初夜の花嫁が卒倒したかもしれない。最低限、腰回りだけは何かを巻くようにと言い聞かせた。
巫女シャリヤにお伺いを立て、了承を貰ったルードルフは絹のローブを手配する。その際色を相談し、あれこれ迷った末に黒を選んだ。この辺は好みもあるので、ウルリヒも細かく指定しない。
花嫁の準備は着々と進み、遅れながらも花婿が追いついた。こうなれば、結婚式当日を待つばかりである。ようやく親友と君主の結婚式が見られる、とウルリヒは胸を撫で下ろした。
ここで、彼はうっかり確認を一つ忘れている。黒い絹のローブの下に、下着を着用するか否か。当然着用すると思い込んだ元皇帝と逆に、全裸がしきたりの将軍……花嫁が初夜の寝室で悲鳴を上げるまで、誰も齟齬に気づかなかったとか。
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