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73.どちらの顔も立てる案
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ウルリヒから、出費に関する報告を受け取った。ムンティア王国には、まだ税収がない。そのため王家の出費は、すべてウルリヒが賄っていた。といっても、亡びたジャスパー帝国の財産だ。
宮殿は放棄したため、中に残された芸術品や宝物庫の金は公爵に着服された。しかし帝国は、常に財産を複数に分けている。過去の皇帝達は叛逆された場合に備え、別邸や保養地に資産を隠してきた。手付かずの隠し財産を回収したのだ。
総額は、宮殿で所有していた財産の倍近い。過去の皇帝の遺した財の多さに、ウルリヒは苦笑いした。これだけあれば、民がどれだけ豊かに暮らせたか。だが隠されていたからこそ、他国に攻め入ってばかりの先代の軍備で消えずに済んだ。
元ムンパール領からの徴税は、三年間免除が決まっている。今回の王女の帰還から始まる、女王即位、結婚と共に諸手を挙げて歓迎された。
「何か問題が?」
「ええ、何か気づきませんか」
言われてじっくり確認するが、特におかしな点はなさそうだ。首を横に振るルードルフに、親友ウルリヒは溜め息を吐いた。
「足りないのです」
「お金が?」
多少なら出せる、そんな響きにウルリヒは額を手で押さえて呻いた。
「そちらではありません。あなたの出費が載っていないでしょう!」
「当然だ」
何を言い出すんだ、俺はスマラグドスの長だぞ。自分の婚礼にかかる費用は、一族で負担する。それだけの金は稼いできた。個人的な資産もそこそこあるぞ。
捲し立てる友人の口を物理的に手で塞ぎ、ウルリヒは綺麗な顔を歪めて言い聞かせた。
「一族の結婚式ならそれでいいですが、今回はムンティア王国の女王が王配を得る儀式です。ムンティア王国は、夫となる男一人養えないと公言するも同然ですよ」
「……なぜだ?」
全く理解しないルードフルに、切々と話して聞かせる。頭は悪くないのだ。言われれば理解するはず。説教に近い話を最後まで聞いて、ルードルフは眉を寄せた。
「だが……俺も一族の手前、いろいろと困る」
長が結婚式で妻の資産に手をつけた。そう言われるのは不名誉だと溢す。こればかりは慣習や常識の違いなので、否定もできなかった。
天を仰いだウルリヒは、女王に丸投げしようと考えた。そもそも他人の結婚式なのだ。当事者同士で話し合えばいい。無言でルードルフの腕を掴み、同行するよう仕草で促した。慣れているルードルフは、素直に後ろをついていく。
アンネリースを食堂に呼び出し、合流して事情を説明した。ついでに、大金が記された帳簿も公開しておく。じっと話を聞いたアンネリースは、なんでもないことのように笑った。
「簡単よ、ルードルフはお金を出したらいいわ。でも結婚式関連の品を買うのは、この帳簿の金額から払うの。ルードルフの払ったお金を、お祭りのお酒や料理に使ったらどう? 無料で配布するの」
ルードルフは支払ったので、面子が守られる。ムンティア王国も出費を記載できるから、顔が立つ。その上で、浮いたお金を民が飲み食いしたら消えてしまうわ。相殺できるでしょう? 手を叩いて、からりと明るく提案され、ウルリヒは「ではそのように」と受け入れた。満足そうな顔で。
宮殿は放棄したため、中に残された芸術品や宝物庫の金は公爵に着服された。しかし帝国は、常に財産を複数に分けている。過去の皇帝達は叛逆された場合に備え、別邸や保養地に資産を隠してきた。手付かずの隠し財産を回収したのだ。
総額は、宮殿で所有していた財産の倍近い。過去の皇帝の遺した財の多さに、ウルリヒは苦笑いした。これだけあれば、民がどれだけ豊かに暮らせたか。だが隠されていたからこそ、他国に攻め入ってばかりの先代の軍備で消えずに済んだ。
元ムンパール領からの徴税は、三年間免除が決まっている。今回の王女の帰還から始まる、女王即位、結婚と共に諸手を挙げて歓迎された。
「何か問題が?」
「ええ、何か気づきませんか」
言われてじっくり確認するが、特におかしな点はなさそうだ。首を横に振るルードルフに、親友ウルリヒは溜め息を吐いた。
「足りないのです」
「お金が?」
多少なら出せる、そんな響きにウルリヒは額を手で押さえて呻いた。
「そちらではありません。あなたの出費が載っていないでしょう!」
「当然だ」
何を言い出すんだ、俺はスマラグドスの長だぞ。自分の婚礼にかかる費用は、一族で負担する。それだけの金は稼いできた。個人的な資産もそこそこあるぞ。
捲し立てる友人の口を物理的に手で塞ぎ、ウルリヒは綺麗な顔を歪めて言い聞かせた。
「一族の結婚式ならそれでいいですが、今回はムンティア王国の女王が王配を得る儀式です。ムンティア王国は、夫となる男一人養えないと公言するも同然ですよ」
「……なぜだ?」
全く理解しないルードフルに、切々と話して聞かせる。頭は悪くないのだ。言われれば理解するはず。説教に近い話を最後まで聞いて、ルードルフは眉を寄せた。
「だが……俺も一族の手前、いろいろと困る」
長が結婚式で妻の資産に手をつけた。そう言われるのは不名誉だと溢す。こればかりは慣習や常識の違いなので、否定もできなかった。
天を仰いだウルリヒは、女王に丸投げしようと考えた。そもそも他人の結婚式なのだ。当事者同士で話し合えばいい。無言でルードルフの腕を掴み、同行するよう仕草で促した。慣れているルードルフは、素直に後ろをついていく。
アンネリースを食堂に呼び出し、合流して事情を説明した。ついでに、大金が記された帳簿も公開しておく。じっと話を聞いたアンネリースは、なんでもないことのように笑った。
「簡単よ、ルードルフはお金を出したらいいわ。でも結婚式関連の品を買うのは、この帳簿の金額から払うの。ルードルフの払ったお金を、お祭りのお酒や料理に使ったらどう? 無料で配布するの」
ルードルフは支払ったので、面子が守られる。ムンティア王国も出費を記載できるから、顔が立つ。その上で、浮いたお金を民が飲み食いしたら消えてしまうわ。相殺できるでしょう? 手を叩いて、からりと明るく提案され、ウルリヒは「ではそのように」と受け入れた。満足そうな顔で。
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