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71.神を騙る者の末路

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 王族も神殿に利用されている。その噂はまことしやかに伝わり、ルベリウスの民を惑わした。生まれてから信仰し続ける神は、何も応えない。

 我が子に与える食料も残らないほど、重い税金。新たな服を妻に与えることもできない、貧しい生活。ボロを纏い、必死で祈り支えてきた。だが神は助けず、ただ無言だった。その存在を感じることさえない。

 戦争を起こす話が広まり、他国から奪って豊かになれると浮かれたが……そもそも貧しい原因はどこにある? 他国では神々の神託やお告げは、神職でなくとも与えられる。なのに、この国で神託を受けた者がいないのは?

 大神官達は、本当に神の声を聴いているのか。肥え太る神殿の者と、細く見目麗しい王侯貴族。この違いはなんだろう。税金で贅沢をしているなら、王族も太るはずだ。だが……貴族も揃って細身だった。

 学がないとバカにされる平民でも、順番に物事を考える頭はある。計算が得意だったり、読み書きができたりする者もいた。酒場から広がった話は、やがて大きな疑問に行き当たる。

 この国が貧しいのは誰のせいか。他国から奪っても、その利得すら税に取られるのではないか? そもそも、この戦争を仕掛けて勝てるのだろうか。

 豊かになれると焚き付けられた炎は、徐々に鎮火していった。それと比例して、神殿への不満が爆発する。叛逆は神に背くのではない。神殿に背くのだ!

「俺はやるぞ、息子に腹一杯食わせてやりたい」

「あたしだってそうさ。このままじゃ、飢え死にしちまうよ」

「あいつらの指輪一つで、数年は食えるって話はホントらしいぞ」

「神殿を倒せ。神様を解放しろ」

「そうだ、神殿は神様を独り占めしてやがる」

 諜報員として潜り込んだ者が驚くほど、噂は浸透した。危険だからと脱出を決めた諜報の一人が、残ると言い出す。潜伏中に惚れた女ができ、彼女とこの結末を見届ける、と。仲間と別れた男は、人々の波に呑まれて神殿へ向かった。

「食料をよこせ」

「戦争をやめろ」

「税を減らせ」

 様々な要求を口に、大神殿へ押しかける。手に武器はない。平和的な解決を求めたというより、武器になる物が手元になかったのだ。音を鳴らすために持ち出した鍋、それを木製の匙で殴った。その音に合わせ、人々は要求を突きつける。

 答えは、兵士や衛兵による虐殺だった。悲鳴が上がり逃げる人が後続者を押しのける。背中を切られて倒れる女性、彼女に縋って泣く子ども。悲惨な状況を生み出した神殿に対し、最後の理性が切れた。

 各家の柱や窓枠を外し、パンを伸ばす棍棒を手に取り、扉を盾がわりに戦闘が始まる。そこに騎士が加わった。民の後ろから駆けつけた騎士は馬に乗っており、悲鳴をあげた民が道を開ける。中央を走り抜けた騎士達は、剣を抜いて声を張り上げた。

「今こそ正義の時ぞ! 我らに続け」

「っ、騎士様はあたしらの味方だ」

 他の貴族も続々と駆けつけると聞き、王都の民は歓喜した。騎士が切り開く道を行進し、神殿へ乱入する。見つけた神職者を片っ端から殴り倒し、持ってきた縄で縛り上げる。

 最後に、神殿の上層部が隠れた塔へ火が放たれた。炎に耐えかねて飛び降りる神官、窓から何かを叫ぶ大神官、なぜか淫らな姿の女性まで。塔に逃げ込んで助かった者は一人もいなかった。
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