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本編
66.寿命が縮まります
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「いい加減になさってください。寿命が縮まります」
駆けつけた孫に叱られた。途中で誰かに読まれてもいいよう、緊迫性を持たせた手紙を出した。それを間に受けてしまったらしい。
「お前も王なら、そのくらいは……」
「お義祖父様、そう仰らないで。本当に驚きましたのよ」
即位の前に結婚した王妃が嗜める。飛び上がるほど驚いて、机に膝をぶつけた話をしながら、彼女は穏やかに取り持った。
「やはり、ルイーズでなければギルベルトの妻は務まらんな」
この気の利きようは、我が妻コンスタツェに匹敵する。うんうんと頷くエアハルトに対し、ギルベルトはべったりと長椅子に懐いていた。
久しぶりの孫との邂逅、それも前王妃の不調を見舞うとあれば、使用人もすべて遠ざける理由になる。人払いをした部屋で、孫は祖父に目配せした。窓際に寄り、外へ視線を向ける。並んで立った二人は、互いを見ることなく話を始めた。
ギルベルトのはとこに当たるムンティア王国の女王アンネリースへ、今後の計画を知らせるように。できれば直接顔を合わせる方がいい。今後のことを考えて動け。そんな指示が次々と口から出た。
後を任せたのだから、口出しはマズい。そう思っていたエアハルトも、面と向かって話し始めれば小言めいた口調になる。真剣に聞いていたギルベルトは、徐々に頬が緩むのを自覚していた。引退しても現役さながら、元気で何より。
「お祖父様、ご忠告に感謝しますが……遠回しに連絡は試みています」
すでに宰相ウルリヒへ挨拶を兼ねて、使者を送った。そう聞いて、祖父は孫の肩を叩いた。
「よくやった! それでこそわしらの孫だ」
「先ほどは愚鈍な孫と言われたような気がしますが?」
からかうように笑うと、王妃ルイーズがほほほと声を立てた。
「陛下、いい加減になさいませ。会えて嬉しいと素直に伝えないと、後悔いたしますよ」
行く時からそわそわしていて、祖母が心配で馬車の中で足を揺らし、何度もルイーズに注意された。屋敷につくなり飛び降りて、執事の案内も待たずに玄関の扉を開ける。国王にあるまじき振る舞いをしておいて、いまさら表面を取り繕っても遅い。
「やはり女性が強い国は安定するのね」
ベッドに寄りかかったコンスタンツェは、夫を手招きした。疑問もなく近づいたエアハルトの手を握り、頬へ当てる。膝をついて従う前国王を自慢するように、コンスタンツェは顎を逸らした。
「ルイーズ、夫は妻がいないと戦えない生き物なの。長生きして役目を終えたら……私のように夫を取り戻すといいわ」
それまでは、従順で賢く夫を立てる人生も悪くないわよ? でも言うべきことは裏でびしっと、ね。遠慮してはいけないの。言い聞かせる義祖母は、まるで母のような忠告をくれた。
「承知いたしました。コンスタンツェ様」
戦争の回避と危険を遠ざける手配が終わっているなら、これ以上の心配は無用だ。若者に任せよう。祖父母は穏やかな顔を取り戻し、孫夫婦を交えてゆったりと二日間を過ごした。
この先に待ち受ける嵐のような日々を乗り越える、その準備期間のように。
駆けつけた孫に叱られた。途中で誰かに読まれてもいいよう、緊迫性を持たせた手紙を出した。それを間に受けてしまったらしい。
「お前も王なら、そのくらいは……」
「お義祖父様、そう仰らないで。本当に驚きましたのよ」
即位の前に結婚した王妃が嗜める。飛び上がるほど驚いて、机に膝をぶつけた話をしながら、彼女は穏やかに取り持った。
「やはり、ルイーズでなければギルベルトの妻は務まらんな」
この気の利きようは、我が妻コンスタツェに匹敵する。うんうんと頷くエアハルトに対し、ギルベルトはべったりと長椅子に懐いていた。
久しぶりの孫との邂逅、それも前王妃の不調を見舞うとあれば、使用人もすべて遠ざける理由になる。人払いをした部屋で、孫は祖父に目配せした。窓際に寄り、外へ視線を向ける。並んで立った二人は、互いを見ることなく話を始めた。
ギルベルトのはとこに当たるムンティア王国の女王アンネリースへ、今後の計画を知らせるように。できれば直接顔を合わせる方がいい。今後のことを考えて動け。そんな指示が次々と口から出た。
後を任せたのだから、口出しはマズい。そう思っていたエアハルトも、面と向かって話し始めれば小言めいた口調になる。真剣に聞いていたギルベルトは、徐々に頬が緩むのを自覚していた。引退しても現役さながら、元気で何より。
「お祖父様、ご忠告に感謝しますが……遠回しに連絡は試みています」
すでに宰相ウルリヒへ挨拶を兼ねて、使者を送った。そう聞いて、祖父は孫の肩を叩いた。
「よくやった! それでこそわしらの孫だ」
「先ほどは愚鈍な孫と言われたような気がしますが?」
からかうように笑うと、王妃ルイーズがほほほと声を立てた。
「陛下、いい加減になさいませ。会えて嬉しいと素直に伝えないと、後悔いたしますよ」
行く時からそわそわしていて、祖母が心配で馬車の中で足を揺らし、何度もルイーズに注意された。屋敷につくなり飛び降りて、執事の案内も待たずに玄関の扉を開ける。国王にあるまじき振る舞いをしておいて、いまさら表面を取り繕っても遅い。
「やはり女性が強い国は安定するのね」
ベッドに寄りかかったコンスタンツェは、夫を手招きした。疑問もなく近づいたエアハルトの手を握り、頬へ当てる。膝をついて従う前国王を自慢するように、コンスタンツェは顎を逸らした。
「ルイーズ、夫は妻がいないと戦えない生き物なの。長生きして役目を終えたら……私のように夫を取り戻すといいわ」
それまでは、従順で賢く夫を立てる人生も悪くないわよ? でも言うべきことは裏でびしっと、ね。遠慮してはいけないの。言い聞かせる義祖母は、まるで母のような忠告をくれた。
「承知いたしました。コンスタンツェ様」
戦争の回避と危険を遠ざける手配が終わっているなら、これ以上の心配は無用だ。若者に任せよう。祖父母は穏やかな顔を取り戻し、孫夫婦を交えてゆったりと二日間を過ごした。
この先に待ち受ける嵐のような日々を乗り越える、その準備期間のように。
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