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62.屋敷の正当な後継者は?

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 豪華な宝飾品は興味がないし、ドレスも見窄らしくなければ構わない。アンネリースは着飾ることを好まなかった。

 美しい外見を得たからこそ、他者がそこだけを褒める状況に飽き飽きしている。外見より苛烈な内面を認めたのは、ルードルフとウルリヒだった。侍女達は真珠姫のイメージが強いようだが、乳母ゲルダはきちんと理解している。

 侯爵家の屋敷は、アンネリースも初めて足を踏み入れた。当主も跡取りも亡くなったと聞いて、複雑な思いを噛み締める。国民の特性なのか、誰も屋敷を荒らさなかった。白い保護布を掛けた家具や絵画は、すべて残されている。

 すべての布を剥いだ侍女達が、屋敷の掃除を始めた。ゲルダと屋敷を回りながら、執務室の前の廊下で足を止める。立派な口髭のある当主が立ち、手前の椅子に奥方が腰掛けた肖像画が飾られていた。当主の隣に立つ若者が跡取りの長男、奥方の手を握る子はまだ幼い。

 今回の戦争に後継が参加したのなら、この肖像画は数年前に描かれたのだろう。そこで、アンネリースは気づいた。

「侯爵家は途絶えたのよね? でも、この肖像画通りなら……」

「ええ、もう一人お子様がおられたようですね」

 ゲルダも同じ点が気になったらしい。二人で顔を見合わせた。戦争で保護者を失い、親戚に引き取られたのか。だとしたら、屋敷を売りに出すのはおかしい。いずれはこの末っ子が受け継ぐ財産だった。

 今回、侯爵家の屋敷を購入するにあたり、正当な後継者が見つかれば返すと明言している。アンネリースはさっと身を翻した。目の前の執務室は現在使われておらず、その二つ先の執事が使う仕事部屋をウルリヒは選んだ。

 足早に近づき、ノックして返事を待つ。いないようだ。ちょうど通りかかった侍女に、ウルリヒの所在を確認した。少し前に庭でルードルフと一緒だった話を聞き、お礼を言って歩く。ゲルダは何も言わず従った。

「ウルリヒ、ルードルフと一緒だったのね。ちょうどいいわ」

 見つけた二人に声をかけ、肖像画の話をした。末っ子がいるはずだと。指摘を受けたウルリヒは調査を約束し、ルードルフも周辺への聞き取りを行うと声を上げた。

「ムンパール国の貴族に関しては、他にも奇妙な点があります。調べてご報告いたします」

「我が国の貴族なのだから、不明な点は聞いてちょうだい。ある程度答えられると思うわ」

 ウルリヒは曖昧な笑みを浮かべて頷いた。どうやら嫌な方の「奇妙な点」みたいね。察したアンネリースは大きく息を吐いた。こうやって過保護にされるのは、気に入らない。

「証拠と推測が一致したら、ぜひ聞いていただきたく」

 不機嫌さを察したように、ウルリヒは条件を提示した。こうなったら話さないだろう。譲歩する姿勢を見せたアンネリースに、ルードルフは別の相談を持ちかけた。

 ルベリウスから送り込まれた者が吐いた情報を元に、いくつかの予測を立てた。戦いに関する立案は、ルードルフも手慣れている。ルベリウス国が攻め込むルートをいくつか予測した。甘い見通しから、厳しい判断まで。アンネリースはその案に複数の指摘をする。

 盛り上がる二人を置いて、ウルリヒは踵を返した。
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