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57.悪くないが詰めが甘い

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 ムンティア王国がパレードを行う。その話が伝わったルベリウス国は準備を始めた。

 パレードが行われる日は、民が一ヶ所に集結する。裏を返せば、ちょっとの騒ぎで台無しにできた。小さな騒ぎを大きく見せて混乱を引き起こし、その隙に攻め込む。無理そうなら騒ぎを起こすだけに留め、女王の面子を潰すだけでいい。

 国を興したばかりの今、貴族も揃っていないだろう。結束できない状況で、民の人気取りに失敗すれば……女王は勝手に転落する。そこを恩着せがましく拾ってやればいい、と簡単に考えた。

 情報の詳細を確認せず、画策された裏がないか調べず、策も一つしか用意しない。そんな状況で乗り込んだ男達は、あっさりと捕まった。裏を読んで、その先も予測したウルリヒに敵うはずがない。

「策としては悪くないのですが、裏取りが甘いですね。我が主君を軽んじる態度も、腹立たしい。その上、私やルードルフを舐めすぎでは?」

 パレード終了後、ウルリヒは購入したばかりの屋敷の地下で笑う。ムンパールの侯爵の屋敷は、当主の死亡で売りに出された。すでに夫人はなく、一人息子も父親同様、先日の戦で他界していた。

 渋い顔をしてなかなか同意しなかった女王アンネリースも、このまま朽ち果てるよりはと頷く。いずれ家督を継ぐ親族が見つかれば、引き渡す条件をつけて入手した。王宮が焼けて使用できないのだから、拠点として一時的に利用する。

 貴族の屋敷は、必ず地下室が作られてきた。理由としては、食料や酒の貯蔵庫や武器保管室、罪人の牢が挙げられる。屋敷への侵入者はもちろん、領主の館ならば領内での犯罪者や盗賊を管理するため、牢は必需品だった。

 地下牢へ放り込んだ不届な仕掛け人達を眺め、ウルリヒは左手を燭台へ伸ばした。その炎で遊ぶように、ゆらゆらと動かす。

「ルベリウス国では、さぞ怒っているでしょうね。あなた方に命じた人物ですよ。ああ、言わなくて結構。聖職者の方々の告発は、教義に反するのでしょう? そんな無粋な真似は要求しません」

 無理に喋る必要はない。敵は分かっていると示し、ウルリヒは燭台を手に立ち上がった。護衛の兵士がちらちらと視線を送る。その眼差しに「気の毒に」と同情が見てとれた。

「人は暗闇に何を視るのか、三日後にお会いするまで正気を保ってくだされば……お帰りいただいて構いません。頑張ってくださいね」

 優しい言葉に聞こえるが、残酷な宣言だった。水の入った瓶が一つ、三つのパン。罪人に支給されたのは、それだけだ。本来なら尋問を行うのだが、敵の正体も手段も判明しているため、必要ない。だが解放する理由もなかった。

 整った顔に浮かんだ笑みは、残酷なほど美しい。彼らの脳裏に焼き付けるように、ウルリヒは優雅に一礼した。

 護衛の兵士を連れて去っていく後ろ姿が、遠ざかるたびに暗くなる。牢内に暗闇が訪れた。通路に設置された燭台の灯りを消しながら、護衛は宰相に付き従った。

 唯一神への信仰で魂を縛った罪人達は、平然と無言で見送る。だが徐々に灯りが遠ざかり、やがて暗闇が訪れると理解した。美しい顔をした悪魔の所業を、その身で思い知る。

 何もない暗闇への恐怖、幻覚や幻聴による錯乱、狂う時間感覚、叫んでも届かない祈り。絶対であるはずの神が救いの手を差し伸べないことに、彼らが絶望するまで二日とかからなかった。
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