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56.凱旋パレードは華やかに
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セレスタインが属国になり、ジャスパー帝国は分割されていく。世界が変貌する中、一部の民は歓喜に湧いた。
連れ去られた最後の王族である美姫が、凱旋するのだ。直接戦いに勝ったなくとも、民にとって大勝利だった。パレードが行われると聞き、人々は街道を整備する。平らに直した街道周辺では、草を抜いてゴミを片付ける作業が無償で行われた。
どの宿も地方からの客で溢れ、活気に満ちている。敗戦国になり、帝国に搾取される暗い未来が訪れると嘆いた日々が嘘のようだ。
美しい馬車はパレード用に屋根を外し、白馬に引かれて旧ムンパール王都に入った。この街は今後、ムンパールの名を冠する都市となる。ムンティアの首都として発展させる予定だった。
沿道を埋め尽くす人の多さに驚きながら、真珠姫の名を叫ぶ民に手を振る。微笑みを讃え、優雅に、美しく見えるよう。指先まで気遣って、アンネリースは民の歓迎に応えた。馬はすべてスマラグドスから提供され、馬車はウルリヒが運んできた。白い車体に金飾りが施され、艶やかな印象を与える。
「俺はいない方がいいと……」
隣でぐずぐず呟いて身を屈めようとするルードルフの背を、どんと叩く。アンネリースは一言、命じた。
「私の夫らしく堂々となさい」
「……努力する」
睨みつけられ、慌てて言葉を訂正した。
「すまない、頑張る」
再び微笑みを取り戻したアンネリースは、詰めかけた国民に天使の笑顔を振り撒く。そんな彼女の腕が、しっかりとルードルフに絡められた。馬車が揺れれば、ルードルフが支える。その姿に、民は表情を明るくした。
「真珠姫様、お幸せに」
「ご結婚おめでとうございます」
「新しい女王陛下と夫君を歓迎します」
一緒に歓声の対象になっていると気づき、ルードルフは驚いた。てっきり、自分は排除対象であり警戒されるのだと。前向きな言葉に気持ちが上向く。ぎこちなく微笑みを作り、アンネリースを真似て手を振ってみた。まさかの大歓声が上がる。
びくりと肩を震わせたルードルフに、アンネリースはくすくすと笑った。
「心配しないで。皆は悪く思わないわ」
勤勉で前向き、誰かを陥れようなどと考えない。それがムンパールの民であり、今後守っていく人々なのだと伝えた。実際には、悪い者もいる。盗みを働いたり、他人を騙したり、そういった者がいないとは言わない。
それでも、穏やかで優しい民なのだと理解してほしかった。彼らは外見でルードルフを恐れることはあっても、嫌悪して排除はしない。アンネリースと一緒にいることで、頼れる猛将として受け入れる日も来る。そう伝えて、パレードに同行させた。
彼女の言葉通り、民はルードルフにも手を振る。スマラグドスやルードルフの名を高々と叫ぶ。
「本当に、素晴らしい民だ」
ルードルフの口から溢れた称賛に、アンネリースは笑みを柔らかく変化させた。
「そうよ、自慢の民なの」
誇らしげなその声に、ルードルフは一瞬表情を曇らせた。しかし取り繕って、沿道の人々へ応える。
「やはり伝説が足りませんね」
後ろの馬車で呟くウルリヒは、どうしたものかと考えを巡らせた。良案が出るのは、少し先のことだろう。
連れ去られた最後の王族である美姫が、凱旋するのだ。直接戦いに勝ったなくとも、民にとって大勝利だった。パレードが行われると聞き、人々は街道を整備する。平らに直した街道周辺では、草を抜いてゴミを片付ける作業が無償で行われた。
どの宿も地方からの客で溢れ、活気に満ちている。敗戦国になり、帝国に搾取される暗い未来が訪れると嘆いた日々が嘘のようだ。
美しい馬車はパレード用に屋根を外し、白馬に引かれて旧ムンパール王都に入った。この街は今後、ムンパールの名を冠する都市となる。ムンティアの首都として発展させる予定だった。
沿道を埋め尽くす人の多さに驚きながら、真珠姫の名を叫ぶ民に手を振る。微笑みを讃え、優雅に、美しく見えるよう。指先まで気遣って、アンネリースは民の歓迎に応えた。馬はすべてスマラグドスから提供され、馬車はウルリヒが運んできた。白い車体に金飾りが施され、艶やかな印象を与える。
「俺はいない方がいいと……」
隣でぐずぐず呟いて身を屈めようとするルードルフの背を、どんと叩く。アンネリースは一言、命じた。
「私の夫らしく堂々となさい」
「……努力する」
睨みつけられ、慌てて言葉を訂正した。
「すまない、頑張る」
再び微笑みを取り戻したアンネリースは、詰めかけた国民に天使の笑顔を振り撒く。そんな彼女の腕が、しっかりとルードルフに絡められた。馬車が揺れれば、ルードルフが支える。その姿に、民は表情を明るくした。
「真珠姫様、お幸せに」
「ご結婚おめでとうございます」
「新しい女王陛下と夫君を歓迎します」
一緒に歓声の対象になっていると気づき、ルードルフは驚いた。てっきり、自分は排除対象であり警戒されるのだと。前向きな言葉に気持ちが上向く。ぎこちなく微笑みを作り、アンネリースを真似て手を振ってみた。まさかの大歓声が上がる。
びくりと肩を震わせたルードルフに、アンネリースはくすくすと笑った。
「心配しないで。皆は悪く思わないわ」
勤勉で前向き、誰かを陥れようなどと考えない。それがムンパールの民であり、今後守っていく人々なのだと伝えた。実際には、悪い者もいる。盗みを働いたり、他人を騙したり、そういった者がいないとは言わない。
それでも、穏やかで優しい民なのだと理解してほしかった。彼らは外見でルードルフを恐れることはあっても、嫌悪して排除はしない。アンネリースと一緒にいることで、頼れる猛将として受け入れる日も来る。そう伝えて、パレードに同行させた。
彼女の言葉通り、民はルードルフにも手を振る。スマラグドスやルードルフの名を高々と叫ぶ。
「本当に、素晴らしい民だ」
ルードルフの口から溢れた称賛に、アンネリースは笑みを柔らかく変化させた。
「そうよ、自慢の民なの」
誇らしげなその声に、ルードルフは一瞬表情を曇らせた。しかし取り繕って、沿道の人々へ応える。
「やはり伝説が足りませんね」
後ろの馬車で呟くウルリヒは、どうしたものかと考えを巡らせた。良案が出るのは、少し先のことだろう。
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