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55.情報の点が繋がる
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報告書らしき書類に向けていた視線を上げ、ウルリヒはルードルフの話を優先させた。山の民オパリオスの情報は、嘘がない。スマラグドス同様、嘘を吐く必要がなかった。
スフェーン王国はアンネリースの祖母の故郷だ。王妹だった祖母が隣国ムンパールに嫁ぎ、友好の証として子孫を繋いだ。先日も、先王となったエアハルトが妻コンスタンツェと滞在した。その孫ギルベルトは若いが有能で、アンネリースのはとこに当たる人物である。
彼らが他国へ攻め込む準備をしている。そう告げられれば、懸念が浮かぶのが普通だった。だがウルリヒは口元を緩め、手にしたペンで書類に署名をする。そのまま書類処理を数枚続けた。慣れているルードルフは、怒るでも急かすでもなく眺める。
これは軽んじての行為ではない。考えを纏める間、なぜか別の作業を行うのは彼の癖だった。頭の片隅で考えながら、他の作業に着手する。ルードルフは勝手に来客用の椅子に腰かけ、友人の手が止まるのを待った。
「先日の情報と重なりましたね」
点と点が繋がったと呟くウルリヒは、目の前に積まれた書類を乱暴に押しのけた。そのまま外へ出ていく姿は、自由気ままな猫のようだ。廊下を通り、中庭へ降りたウルリヒが足を止めた。くるりと振り返る。ルードルフが付いて来るのが当然と言わんばかりに。
「既に報告があったのか?」
「少し違う内容ですが、ここで繋がると思わなくて」
にこにこと笑う彼は、手元にある情報を繋げた話を聞かせた。スフェーン王国の若き王ギルベルトの動き、これから動く周辺国の予測、その対策に至るまで。一気に語り尽くし、ルードルフに一つの命令を与えた。
「アリスの承諾は?」
「私が取り付けておきます。安心して動いてください」
ウルリヒが請け負ったなら、ルードルフに否やはない。噂を広めるため動くウルリヒの後押しをするべく、実行部隊を集めに向かった。
国同士の利害関係はドライで、そこに感情は含まれない。いや、愚かな王が頂点に立てば感情で動くことはあるが。驚くほど冷徹に残酷に感情を切り捨てる。ウルリヒはその算段が、一般の王よりさらに厳しかった。
「さて、どう伝わるでしょうか」
わざわざスフェーン王国が疑われる情報を、あの耳だらけの執務室で報告させた。重要な情報なのだからと渋るルードルフを視線で制し、間者の耳に入れる。動き出す連中の追跡は手配済みで、その行先も見当が付いていた。
害虫を駆除するなら、一度にすべて殺す必要がある。中途半端に行い、知恵や抵抗力を付けさせるのは逆効果だった。滅ぼすなら根本から、僅かな希望も残さず狩り取る必要があった。ジャスパー帝国を掌握した時と同じだ。
「久しぶりで胸が高鳴ります」
ふふっと楽しそうに呟き、ウルリヒは中庭の花を一輪手折った。美しい花を顔に近づけ、香りを胸に吸い込んで微笑む。休憩中に見える彼の頭の中は、フル回転で悪だくみを組み立てていた。
スフェーン王国はアンネリースの祖母の故郷だ。王妹だった祖母が隣国ムンパールに嫁ぎ、友好の証として子孫を繋いだ。先日も、先王となったエアハルトが妻コンスタンツェと滞在した。その孫ギルベルトは若いが有能で、アンネリースのはとこに当たる人物である。
彼らが他国へ攻め込む準備をしている。そう告げられれば、懸念が浮かぶのが普通だった。だがウルリヒは口元を緩め、手にしたペンで書類に署名をする。そのまま書類処理を数枚続けた。慣れているルードルフは、怒るでも急かすでもなく眺める。
これは軽んじての行為ではない。考えを纏める間、なぜか別の作業を行うのは彼の癖だった。頭の片隅で考えながら、他の作業に着手する。ルードルフは勝手に来客用の椅子に腰かけ、友人の手が止まるのを待った。
「先日の情報と重なりましたね」
点と点が繋がったと呟くウルリヒは、目の前に積まれた書類を乱暴に押しのけた。そのまま外へ出ていく姿は、自由気ままな猫のようだ。廊下を通り、中庭へ降りたウルリヒが足を止めた。くるりと振り返る。ルードルフが付いて来るのが当然と言わんばかりに。
「既に報告があったのか?」
「少し違う内容ですが、ここで繋がると思わなくて」
にこにこと笑う彼は、手元にある情報を繋げた話を聞かせた。スフェーン王国の若き王ギルベルトの動き、これから動く周辺国の予測、その対策に至るまで。一気に語り尽くし、ルードルフに一つの命令を与えた。
「アリスの承諾は?」
「私が取り付けておきます。安心して動いてください」
ウルリヒが請け負ったなら、ルードルフに否やはない。噂を広めるため動くウルリヒの後押しをするべく、実行部隊を集めに向かった。
国同士の利害関係はドライで、そこに感情は含まれない。いや、愚かな王が頂点に立てば感情で動くことはあるが。驚くほど冷徹に残酷に感情を切り捨てる。ウルリヒはその算段が、一般の王よりさらに厳しかった。
「さて、どう伝わるでしょうか」
わざわざスフェーン王国が疑われる情報を、あの耳だらけの執務室で報告させた。重要な情報なのだからと渋るルードルフを視線で制し、間者の耳に入れる。動き出す連中の追跡は手配済みで、その行先も見当が付いていた。
害虫を駆除するなら、一度にすべて殺す必要がある。中途半端に行い、知恵や抵抗力を付けさせるのは逆効果だった。滅ぼすなら根本から、僅かな希望も残さず狩り取る必要があった。ジャスパー帝国を掌握した時と同じだ。
「久しぶりで胸が高鳴ります」
ふふっと楽しそうに呟き、ウルリヒは中庭の花を一輪手折った。美しい花を顔に近づけ、香りを胸に吸い込んで微笑む。休憩中に見える彼の頭の中は、フル回転で悪だくみを組み立てていた。
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