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本編

54.ぽろりと不安要素

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 スマラグドスの傭兵を、世間では「草原の狼」と暗喩する。集団で狩りをして成果を持ち帰る彼らの獰猛さ、勇敢さ、強さを褒める言葉として広がった。

 実際は狼と呼ぶより狩人の方が近い。勇猛果敢な傭兵を纏める長、ルードルフは仕入れた武器を確認していた。顎髭を左手で弄りながら、眉根を寄せる。不満があるように見えるが、持ち込んだお抱え職人は気にした様子がなかった。いつものことだ。

「どうだ? いい出来だと思うが」

「ああ、素晴らしい出来だ」

 草原や荒野を縄張りとするスマラグドスは、常に同じ一族から武器を購入してきた。臨時で別の武器を手に取ることがあっても、愛用の武器はすべて同じ山の民の品を選ぶ。理由は簡単だ。武器としての質の高さに加え、手入れの容易さにあった。

 自分の武器を決めたら、管理も手入れも己自身が行う。これは馬に関しても共通の認識だった。己の命を預けて共に戦う仲間として、馬も武器も自分で管理する。刃こぼれが原因で死んでも自分の責任だし、切れ味鋭い剣で勝てたら自分の手柄だった。

 山肌に穴を開けて暮らすオパリオスの職人は、慣れた様子でヤギ乳を飲み干した。臭いや味の面で、牛より個性的だ。好き嫌いが分かれるが、オパリオスにとっては慣れ親しんだ味だった。

 その後出されたお茶も、しっかり味わう。その間にルードルフは納品された武器の確認を終えた。問題なしと用意した革袋を差し出す。中にぎっしり詰まった金貨を、今度は職人が数え始めた。これに関しては互いを信用しているかどうか、は適用されない。

 逆に信用しているから目の前で確認するのだ。武器の状態、金貨の枚数。どちらも目の前で確認することで、お互いへの信頼を維持する。万が一信用して持ち帰り、何か不備があった方が遺恨を残すためだ。

「こないだ、ずいぶん派手に暴れたらしいな」

「そうでもない。小競り合いだ」

 若手職人の中でも腕のいいザシャは、遠慮なく尋ねた。気を悪くした様子もなく、ルードルフは首を横に振る。先日のセレスタイン国との一戦だろう。あの程度、戦闘に含まれない。言い切った男に、数えた金貨を袋にしまいながらザシャが肩を竦めた。

「隣国の連中がきな臭いぞ」

「ルベリウスか?」

「いや、スフェーンの若様だ」

 取引があるスフェーンの騎士団長が、大量の武器を求めている。実際、オパリオス一族にも声がかかった。その話をさらりと口にする。用意された茶菓子代わりの干し芋を齧り、ザシャは立ち上がった。

「嫌な予感がするから、これは俺の好意だ」

「いつか恩を返す」

「そこは疑わねえから、遠慮なく頼む。注文はいつでも歓迎だぞ」

 からりと笑って、ザシャは踵を返した。まだ戦いが続くと予想するザシャの発言に、考え込むルードルフはしばらくして立ち上がる。大きく息を吐いた。続けて、現実的な呟きをこぼす。

「ウルリヒに相談するか」








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「ルヒ(スマラグドスの戦える侍女さん)」⇒「ゼノ」
ウルリヒと被って読みづらいとご指摘がありましたので、一部名称を変更しました。
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