上 下
52 / 114
本編

52.両極端だから反発しない

しおりを挟む
 決行すると女王が口にすれば、臣下はその願いを叶えるだけ。ウルリヒは指示を出して準備を整え、武器を磨き部下を選別するルードルフ。数名は先に動くこととなり、カミルは途中で合流となった。

「今後は勝手にカミルを使うな」

「善処しよう」

 善処と聞いてルードルフは頷いた。今後は勝手に利用しないという意味に受け取ったのだ。もし、ここにアンネリースかカミル自身がいたら、騙されたルードルフに頭を抱えるだろう。考えておく、程度の返答だと気づいていない。

 中庭で会議をするのは、屋敷内に複数の間者が入っているから。知って泳がせるウルリヒと、別に情報が漏れても蹴散らせばいいと考えるルードルフは、どこまでも正反対だった。

 表と裏、光と影、善と悪、真逆だからこそ惹かれる。アンネリースは優雅にお茶のカップを口元に運び、上手に唇の動きを隠した。

「失敗しても良いけれど、損傷はゼロでお願いね」

「承知いたしました」

 作戦が途中で破綻した場合の、様々な対応策は想定している。最悪の事態から、脱線する程度まで。何があっても対処でき、予想外だと騒がないよう手配する。ウルリヒは危険の芽を徹底的に潰した。

 友人の有能さと用意周到さを知るから、ルードルフは作戦を疑わない。途中で変更を告げられても、文句ひとつ言わずに従うだろう。その意味で、ウルリヒは信頼を裏切ったことがなかった。

 外から見れば、姫君の優雅なお茶会だ。顔の整った側近は、慣れた作法でお茶を飲む。姫の隣に控える番犬は、大人しく与えられる菓子を食べていた。アンネリースが手ずから食べさせる行為に、ルードルフはすっかり慣れた。抵抗なく大人しく口を開く。

「帰りにムンパールの海岸に寄りたいわ」

「良いと思う」

「特に問題はございません。先に楽しみを設定すれば、皆も頑張れるでしょうから」

 両者の許可を得て、アンネリースは口元を綻ばせた。王宮は焼けてしまったが、民の暮らす街や懐かしい海は無事だ。思い出の詰まった、海岸近くの別宅に立ち寄る予定は楽しみだった。

「準備をさせるわね」

 女王アンネリースが移動する。手が出せない万全の警護体制を誇るスマラグドスの屋敷から、ムンパールであった海へ。その情報はあっという間に周辺国へ広がる。女王自らが囮とも知らず、ルベリウス国の聖職者を喜ばせた。

 美しい真珠姫を手にいれ、その側近を操って富と権力を集約させる。取らぬ獲物の皮を数えるように、まだ収穫前の麦の量を推し量るように。彼らは醜い欲で曇った目で、己に都合の良い未来を見た。





「絶対にボスに言いつけてやる」

 二度目の襲撃を退けたカミルは、ぶつぶつと文句を並べた。積み上げた敵の死体の上に座り、大きく深い息を吐く。スマラグドスの軍が到着するまでに、もう一度くらい襲撃がありそうだ。嫌な予想程よく当たる。もう一度溜め息をつきかけ、呑み込んで我慢した。

「くそっ、俺だけ損した気分だ」

 死体の山から飛び降り、汚れた裾や袖を気にしながら川を探した。合流まであと三日。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。 ※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。  元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。  破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。  だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。  初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――? 「私は彼女の代わりなの――? それとも――」  昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。 ※全13話(1話を2〜4分割して投稿)

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

捨てられ令嬢は、異能の眼を持つ魔術師になる。私、溺愛されているみたいですよ?

miy
ファンタジー
アンデヴァイセン伯爵家の長女であるイルシスは、『魔眼』といわれる赤い瞳を持って生まれた。 魔眼は、眼を見た者に呪いをかけると言い伝えられ…昔から忌み嫌われる存在。 邸で、伯爵令嬢とは思えない扱いを受けるイルシス。でも…彼女は簡単にはへこたれない。 そんなイルシスを救おうと手を差し伸べたのは、ランチェスター侯爵家のフェルナンドだった。 前向きで逞しい精神を持つ彼女は、新しい家族に出会い…愛されていく。 そんなある日『帝国の砦』である危険な辺境の地へ…フェルナンドが出向くことに。 「私も一緒に行く!」 異能の能力を開花させ、魔術だって使いこなす最強の令嬢。 愛する人を守ってみせます! ※ご都合主義です。お許し下さい。 ※ファンタジー要素多めですが、間違いなく溺愛されています。 ※本編は全80話(閑話あり)です。 おまけ話を追加しました。(10/15完結) ※この作品は、ド素人が書いた2作目です。どうか…あたたかい目でご覧下さい。よろしくお願い致します。

モブでも認知ぐらいしてほしいと思ったのがそもそもの間違いでした。

行倉宙華
恋愛
普通の女子大生の私が転生した先は、前世でプレイしていた乙女ゲーム「キングダム・レボリューション」の世界だった。 転生したキャラクターはゲーム中に名前も出てこないモブだけど、全然いい! だって、私は味方や敵もひっくるめて、キングダム・レボリューション、通称ダムレボの世界が大好きなんだもん! しかし、このゲームはネットでは悲恋革命と呼ばれるくらい選択肢を少しでも間違えると問答無用で悲恋へと誘われる。 クリアが極めて困難と言われていた。 おまけに、登場人物それぞれの背景であるトラウマの過去エピソードは重いものばかり。 プレイをすればするほど病むって言われてたっけな。 転生したなら私の願いはただ一つ。 登場人物達には普通に恋をして、失恋とかして、普通に幸せになってもらいたい。 トラウマなんて作らせない! そして、あわよくば顔見知り程度に! そんな物語の進行とか完全無視で、私は登場人物達の幸せを最優先で動いていたんだけど…… これは自分の行いで物語があらぬ方向に進もうとするのを、今度は自分で必死に軌道修正しようとする話である。 「違う! そうじゃない! そこまで望んでないってば!!」

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

処理中です...