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47.唯一神は絶対か

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「久しぶりに楽しめそうです」

 食後のお茶を断り、執務室へ引き上げたウルリヒは、楽しそうに口角を上げた。

 手元の書類は、さきほど女王に報告した内容が並ぶ。弱者と強者の対比、国内で起きている騒動、改善を試みて動く者、他国の富を狙う聖職者達。ゾッとするような内容も含まれていた。

 聖王国を名乗るルベリウスの弱者は、当然ながら虐げられる民衆を示す。ただ、彼らに虐げられている自覚がないのが、最大の問題点だった。このままムンティア王国が救いの手を差し伸べても、異教徒だからと跳ね除けられる。下手すれば、唯一神への侮辱行為と勘違いされる可能性もあった。

「唯一神? 祀られた神様が、きちんと存在すれば良いですね」

 各国に潜入する手先となる者から入った情報は、様々な方面に及ぶ。物価や政治情勢、治安はもちろん宗教、嗜好、風習に至るまで。様々な分野の情報が集められてきた。そこに変化や異常があれば、緊急案件として持ち込まれる。今回のように。

 ルベリウスの民が貧しいのは、いつものことだった。税として徴収されるのは、稼いだ額の半分以上。生活がぎりぎりで、貯蓄などない。天災で少しでも収穫量が落ちれば、餓死者が出る有様だった。

 聖職者は贅沢を極め、王侯貴族ですら他国の豪商レベルの生活を余儀なくされる。すべての金銭が神殿に集中し、余る食材を浪費するのが神官達だ。彼らの不正を民に知らせるには、どうすればいいか。

「簡単なことです。誰でも考え付く程度の、けれど実行が難しい策を用いるとしましょう」

 指示書を数枚作成し、呼び鈴で侍従達へ合図を送る。ジャスパー帝国が消えても、ウルリヒが作り上げた仕組みは生きていた。持たせた指示書は、数日で関係者に届く。作戦開の合図は五日後、月が消える夜の暗闇だった。

 民が神殿に従う理由は、唯一神を信仰しているから。だが、その信仰が揺らいだら? 絶対的な妄信を壊すのに、オブシディアンの黒き男神以上に相応しい存在はいない。

 ウルリヒは膝をつき、窓に向かって祈りを捧げる。猛き神として有名だが、公明正大で慈悲深い神だった。麗しのパール女神より、今回の案件では向いている。祈りを捧げる信徒に、黒き男神は応じるのか。

 ウルリヒは応じなくても構わないと考える。なぜなら、所詮は人の世の出来事だからだ。神々が協力してくれたら、よりスムーズに犠牲なく進められるだろう。もし助けがなくとも破綻しないよう、ウルリヒは策を準備するだけだった。

「そういえば、カミルは到着したでしょうかね」

 天井裏に潜む敵に聞こえるよう、少し心配そうな声を作る。囮にする気は無かったが、今の状況なら留守の彼を利用するのも手だ。本人に内緒で護衛はつけてあった。

 わずかに感じる頭上の変化に、ウルリヒは気づかないフリで新たな書類を引き寄せた。納税に関する決め事をさらりと読み、日付の下に署名を施す。次は新しく定めた国境線の書類だった。こちらは一時保留、下から別の書類を取り出して署名した。

 頭上の気配が消えて、やっと手を止める。背もたれのクッションに寄りかかり、天井を見上げた。

「ここまでお膳立てしたのですから、上手に動いてくださいね」
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