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本編
41.他国を操るより興味深い
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ウルリヒが予測した通り、ルベリウス国が動き出した。宗教国家であるためか、聖戦を口にして盛り上がっているらしい。他国に攻め込むのに、神のご加護を期待する方がおかしい。
黒き男神を信仰するオブシディアンのウルリヒから見ても、パール女神を崇めるアンネリースにしても、ルベリウスの動きは理解できない。自分達の神以外を認めないと言い張り、他国の宗教を根絶しようなどと。愚行にしか思えなかった。
また彼らの動きを支持する神殿を見る限り、ルベリウス国に本当の神様はおられないと呆れる。神々は数えきれないほど存在し、人を見守っている。多神教が当たり前の世界で、唯一神を騙る愚か者は受け入れられなかった。
「だが、唯一神を掲げる彼らの動きは読みやすい」
ウルリヒは口元を緩める。動く敵がわからないなら、こちらで操作すればいい。二カ国あるなら、動きそうな方を予測する。その国が動くよう、仕掛けを施せば終わりだった。
あとは勝手に自滅してくれる。アメシス王国は情報戦に長けていた。ならば、動けなくなる情報を与えればいい。もう少し状況を確認しよう、そう思わせたらこちらの勝ちだった。
逆に、ルベリウス国はもっと簡単に操れた。宗教国家の要である唯一神を突けばいい。損得や利害関係を無視して、暴走を始める。頭に血が上った連中ほど、足元が疎かになる。
人の心の操り方は心得ているが……はてさて、我らが君主である女王陛下とその忠犬である親友はうまくやっているだろうか。窓の外へ目をやり、朝日の眩しさに細めた。
朝食に誘い、二人が寝室から出るのを待つ。皇帝だった頃なら、理由をつけて突撃した。さすがに今はマズいと理性が囁く。そんなウルリヒは、目の前に用意された香辛料たっぷりの羊肉を眺めた。
野菜も用意され、彩りもいい。冷める前に出てきてほしいが、いっそ冷めて温め直すまで引き伸ばされてもおもしろいか。綻んでしまう口元を引き締めたところへ、二人は現れた。
拗ねたように唇を尖らせた女王アンネリースの後ろに、叱られた犬さながら項垂れたルードルフが従う。これは飛びかかって怒られたか。いや、何もしなくて拗ねられた? まさか閨事に失敗したか。
様々な憶測が浮ぶが、ウルリヒは何食わぬ顔で朝の挨拶を切り出す。丸く平たい生地に、煮た豆と肉を挟んでかぶり付く。アンネリースはもう少し上品に、だがルードルフはしょんぼりと肩を落としたまま手を伸ばさなかった。
「ルードルフ、どうした?」
何があった? と尋ねたいが、給仕のゼノや侍女がいる場で口にできない。曖昧に尋ねると、彼は困ったように長い息を吐き出した。魂まで抜けそうなほど暗く、重い溜め息だった。
「ルドが悪いのです」
ムッとした口調ながら愛称を呼ぶ。本気で嫌われる状況ではないようだ。ウルリヒは互いの顔を確認し、アンネリースの肩を持つことに決めた。
「なるほど、ルードルフが何か失態をしましたか。例えば陛下を押し倒したとか」
「いいえ! いいえ、押し倒すほうがマシです」
二度も否定される行為? でも襲っていない。無理やりではないなら、何がそんなに彼女の逆鱗に触れたのか。ウルリヒの興味はさらに掻き立てられた。これは、他国を操るよりずっと楽しい。
黒き男神を信仰するオブシディアンのウルリヒから見ても、パール女神を崇めるアンネリースにしても、ルベリウスの動きは理解できない。自分達の神以外を認めないと言い張り、他国の宗教を根絶しようなどと。愚行にしか思えなかった。
また彼らの動きを支持する神殿を見る限り、ルベリウス国に本当の神様はおられないと呆れる。神々は数えきれないほど存在し、人を見守っている。多神教が当たり前の世界で、唯一神を騙る愚か者は受け入れられなかった。
「だが、唯一神を掲げる彼らの動きは読みやすい」
ウルリヒは口元を緩める。動く敵がわからないなら、こちらで操作すればいい。二カ国あるなら、動きそうな方を予測する。その国が動くよう、仕掛けを施せば終わりだった。
あとは勝手に自滅してくれる。アメシス王国は情報戦に長けていた。ならば、動けなくなる情報を与えればいい。もう少し状況を確認しよう、そう思わせたらこちらの勝ちだった。
逆に、ルベリウス国はもっと簡単に操れた。宗教国家の要である唯一神を突けばいい。損得や利害関係を無視して、暴走を始める。頭に血が上った連中ほど、足元が疎かになる。
人の心の操り方は心得ているが……はてさて、我らが君主である女王陛下とその忠犬である親友はうまくやっているだろうか。窓の外へ目をやり、朝日の眩しさに細めた。
朝食に誘い、二人が寝室から出るのを待つ。皇帝だった頃なら、理由をつけて突撃した。さすがに今はマズいと理性が囁く。そんなウルリヒは、目の前に用意された香辛料たっぷりの羊肉を眺めた。
野菜も用意され、彩りもいい。冷める前に出てきてほしいが、いっそ冷めて温め直すまで引き伸ばされてもおもしろいか。綻んでしまう口元を引き締めたところへ、二人は現れた。
拗ねたように唇を尖らせた女王アンネリースの後ろに、叱られた犬さながら項垂れたルードルフが従う。これは飛びかかって怒られたか。いや、何もしなくて拗ねられた? まさか閨事に失敗したか。
様々な憶測が浮ぶが、ウルリヒは何食わぬ顔で朝の挨拶を切り出す。丸く平たい生地に、煮た豆と肉を挟んでかぶり付く。アンネリースはもう少し上品に、だがルードルフはしょんぼりと肩を落としたまま手を伸ばさなかった。
「ルードルフ、どうした?」
何があった? と尋ねたいが、給仕のゼノや侍女がいる場で口にできない。曖昧に尋ねると、彼は困ったように長い息を吐き出した。魂まで抜けそうなほど暗く、重い溜め息だった。
「ルドが悪いのです」
ムッとした口調ながら愛称を呼ぶ。本気で嫌われる状況ではないようだ。ウルリヒは互いの顔を確認し、アンネリースの肩を持つことに決めた。
「なるほど、ルードルフが何か失態をしましたか。例えば陛下を押し倒したとか」
「いいえ! いいえ、押し倒すほうがマシです」
二度も否定される行為? でも襲っていない。無理やりではないなら、何がそんなに彼女の逆鱗に触れたのか。ウルリヒの興味はさらに掻き立てられた。これは、他国を操るよりずっと楽しい。
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