27 / 114
本編
27.気づけたのなら優秀ですよ
しおりを挟む
夫と宣言したアンネリースの態度に、ウルリヒは喜んだ。他国を圧倒する傭兵団を組み込めば、周辺国は容易に戦争を仕掛けられない。
若く美しい女王の国、それもムンパールだった豊かな海と街付きだ。自国に取り込みたいと願う王侯貴族は、こぞって仕掛けてくるだろう。その半数を、猛将ルードルフの名で避けられる。
「そんなに有名なのね」
驚いた顔を見せるアンネリースに、ウルリヒは彼の武勇談の幾つかを語った。兵力で不利であっても、後手に回った状況からでも、天性の戦上手は挽回してきた。大袈裟に聞こえるだろうが、すべて事実だ。
有名な逆転劇となったジェイド国の戦いも、ルードルフが絡んでいた。驚くアンネリースから目を逸らし、ルードルフは居心地悪そうに窓の外を睨む。誇っていい戦歴を、彼は口にしなかった。
不器用で真面目、そう評したウルリヒの言葉を思い出す。確かに裏表のない人だわ。アンネリースの側近になると決めた二人のうち、一人は策略の天才だ。ジャスパー帝国を支配し、その結果を未練なく捨てた。潔さも兼ね備えた稀代の策略家だろう。
ウルリヒの手腕を信用して頼っても、人柄は信頼できない。裏切られる心配をしながら、常に試されながら関係を築く相手だった。その点、ルードルフは裏がない。実直で忠実な犬のような存在だ。
「すべて手のひらの上で、気に入らないわ」
ルードルフに私を下賜した理由は、これね。未来を読んで、私が選ぶ道に柱を立てた。もし女王にならなければ、彼は私を妻として庇護する。今のように国主を目指すなら、懐刀として役立ち、心を預けても受け止める度量を示す男だった。
まるで預言者のようで、胡散臭いウルリヒに悪態をついて睨む。ルードルフは眉を寄せたが、何も言わなかった。
「気づけたのですから、あなたは優秀なのですよ。女王陛下」
不満をぶちまけたアンネリースへ、ウルリヒは黒い笑みを浮かべた。腹心ではなく敵のよう。ただ有能な彼を使いこなせれば、大陸の国家統一も夢ではない。
兄は協調路線を選んだ。各国に呼びかけ、手を取り合って平和を目指す。でも私は知っているわ。兄の理想論は、どうしたって砕かれるの。
隣の誰かより良い暮らしがしたい、高価な物を手に入れたい。そんな欲が人を形作る世界で、善人は踏み躙られてしまう。ならば兄の理想を、私は別の形で叶えましょう。人が人を裏切るなら、その前に手を打って芽を摘めば終わりだった。
国々を一つにまとめ、戦う理由をなくす。叛逆を許さず、公明正大な政を行う。兄以上の理想論だわ。外見の美しさだけで、真珠姫と呼ばれたのではない。彼女の稀有な才能と膨大な知識も、その称号の一部だった。知らない者は誤解し、上部だけで判断したけれど。
「ウルリヒ、ルードルフ。私は国の垣根を取り払い、戦いを排除するわ。それまで支えてちょうだい」
宣言に、二人は静かに深く頭を下げた。
若く美しい女王の国、それもムンパールだった豊かな海と街付きだ。自国に取り込みたいと願う王侯貴族は、こぞって仕掛けてくるだろう。その半数を、猛将ルードルフの名で避けられる。
「そんなに有名なのね」
驚いた顔を見せるアンネリースに、ウルリヒは彼の武勇談の幾つかを語った。兵力で不利であっても、後手に回った状況からでも、天性の戦上手は挽回してきた。大袈裟に聞こえるだろうが、すべて事実だ。
有名な逆転劇となったジェイド国の戦いも、ルードルフが絡んでいた。驚くアンネリースから目を逸らし、ルードルフは居心地悪そうに窓の外を睨む。誇っていい戦歴を、彼は口にしなかった。
不器用で真面目、そう評したウルリヒの言葉を思い出す。確かに裏表のない人だわ。アンネリースの側近になると決めた二人のうち、一人は策略の天才だ。ジャスパー帝国を支配し、その結果を未練なく捨てた。潔さも兼ね備えた稀代の策略家だろう。
ウルリヒの手腕を信用して頼っても、人柄は信頼できない。裏切られる心配をしながら、常に試されながら関係を築く相手だった。その点、ルードルフは裏がない。実直で忠実な犬のような存在だ。
「すべて手のひらの上で、気に入らないわ」
ルードルフに私を下賜した理由は、これね。未来を読んで、私が選ぶ道に柱を立てた。もし女王にならなければ、彼は私を妻として庇護する。今のように国主を目指すなら、懐刀として役立ち、心を預けても受け止める度量を示す男だった。
まるで預言者のようで、胡散臭いウルリヒに悪態をついて睨む。ルードルフは眉を寄せたが、何も言わなかった。
「気づけたのですから、あなたは優秀なのですよ。女王陛下」
不満をぶちまけたアンネリースへ、ウルリヒは黒い笑みを浮かべた。腹心ではなく敵のよう。ただ有能な彼を使いこなせれば、大陸の国家統一も夢ではない。
兄は協調路線を選んだ。各国に呼びかけ、手を取り合って平和を目指す。でも私は知っているわ。兄の理想論は、どうしたって砕かれるの。
隣の誰かより良い暮らしがしたい、高価な物を手に入れたい。そんな欲が人を形作る世界で、善人は踏み躙られてしまう。ならば兄の理想を、私は別の形で叶えましょう。人が人を裏切るなら、その前に手を打って芽を摘めば終わりだった。
国々を一つにまとめ、戦う理由をなくす。叛逆を許さず、公明正大な政を行う。兄以上の理想論だわ。外見の美しさだけで、真珠姫と呼ばれたのではない。彼女の稀有な才能と膨大な知識も、その称号の一部だった。知らない者は誤解し、上部だけで判断したけれど。
「ウルリヒ、ルードルフ。私は国の垣根を取り払い、戦いを排除するわ。それまで支えてちょうだい」
宣言に、二人は静かに深く頭を下げた。
76
お気に入りに追加
452
あなたにおすすめの小説

【完】皇太子殿下の夜の指南役になったら、見初められました。
112
恋愛
皇太子に閨房術を授けよとの陛下の依頼により、マリア・ライトは王宮入りした。
齢18になるという皇太子。将来、妃を迎えるにあたって、床での作法を学びたいと、わざわざマリアを召し上げた。
マリアは30歳。関係の冷え切った旦那もいる。なぜ呼ばれたのか。それは自分が子を孕めない石女だからだと思っていたのだが───

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる