114 / 135
第三章
114.お前しか頼れない
しおりを挟む
獲物を見つけて急降下するエイシェットの手綱をしっかり握り、捕まえた魔物を捌く手伝いをする。手足や関節が激しく痛むが、かなり慣れてきた。オレ自身が騎士や戦士のような戦い方をするなら、この痛みは致命的だった。魔法なのでイメージと短い詠唱で済むのは幸いだ。
「風、足を切り裂け」
駆ける牛らしき四つ足の動物を狙う。すぱっと足を切った風が舞い戻り、追いかけていたフェンリルが獲物に噛みついた。転がった牛の急所を噛んで仕留めたカインの横で、アベルは猪を生け捕りにして誇らしげに胸を張る。
生け捕りを混ぜるのは、吸血蝙蝠達への土産だった。死んだ動物の血を飲ませるわけにいかない。あれだけ長く巣穴を占拠してしまったのだから、詫びのひとつも必要だろう。地上に降りたエイシェットが、ついでとばかり、尻尾で小型の獲物を叩く。兎に似た動物と小型の鹿だった。
失神した鹿や兎を蔓で縛り上げ、猪の背中に括りつける。それを纏めて爪で掴んだエイシェットの背中から声を掛けた。
「先に行く。悪いが、牛は持ってきてくれ」
自分の獲物はしっかり確保したエイシェットは、ふわりと舞い上がる。左右の足に生け捕りと自分の食事を握り、彼女はご機嫌だった。ぐるると喉を鳴らしながら二周ほど旋回して洞窟へ向かう。洞窟は崖の中腹に穴を開いており、反対側は森の中に抜けていると聞いた。中で二股になり、ヴラゴが安置されたのは行き止まりの左側だ。
「……妙だな」
蝙蝠は昼間は動かない。ほとんどは洞窟などの暗がりで過ごし、睡眠時間に当てるのだ。それが洞窟の入り口であたふたしている数匹の姿が見られた。近づくドラゴンに威嚇し、攻撃を仕掛けようとする。エイシェットに対して、だ。普段なら考えられない状況に、オレは嫌な汗が背中を伝うのを感じた。
「急げ! 蝙蝠はオレが散らす。中に飛び込んでくれ!」
ぐぁああ! 大きな声で威嚇した後、エイシェットは言葉通りに突っ込んだ。蝙蝠の攻撃は鱗を通さない。風の膜を作って弾くオレとエイシェットは、無傷で洞窟に到着した。ふわりと舞うエイシェットが困惑した声を上げる。足元に落ちた蝙蝠の群れ……中にはまだ生きている者もいた。
蝙蝠の上に獲物を置くわけにいかず、ひとまず洞窟の入り口へ積んだ。まだ生きていた獲物にはトドメを差しておく。エイシェットは蝙蝠を踏まないよう、気を遣って浮いている。その背から飛び降り、すぐに人化するよう指示した。
嫌な予感どころじゃない。確実に酷い状況だった。双子が追いつくまで時間がある。
「エイシェット、双子を連れてきてくれ。獲物は諦めてもらえ」
「やだ」
「頼む! お前しか頼れない」
頼られた嬉しさや離れたくない感情、複雑な恐怖心が鬩ぎ合うが、エイシェットはオレの言葉を聞いてくれた。すぐに戻ると言い置いて飛び出す。近くにいる蝙蝠に話を聞こうとするが、ほとんどが重傷か死体だった。
まとめて癒せるか? 今の魔力が満ちた状態で、大量に魔力消費をする治癒を使うことに躊躇う。だが覚悟は出来ていたはず。最悪、痛みでのたうち回る時間ができるくらいだ。魔力はオレが生きている間に使い切ると決めた。全員一緒にこの世界で生まれ変わるのだから。
ひとつ息を吐いて、ずきずきと痛む右手を前に差し出す。魔力を洞窟の空間内に流し、治癒に集中するために目を閉じた。
「風、足を切り裂け」
駆ける牛らしき四つ足の動物を狙う。すぱっと足を切った風が舞い戻り、追いかけていたフェンリルが獲物に噛みついた。転がった牛の急所を噛んで仕留めたカインの横で、アベルは猪を生け捕りにして誇らしげに胸を張る。
生け捕りを混ぜるのは、吸血蝙蝠達への土産だった。死んだ動物の血を飲ませるわけにいかない。あれだけ長く巣穴を占拠してしまったのだから、詫びのひとつも必要だろう。地上に降りたエイシェットが、ついでとばかり、尻尾で小型の獲物を叩く。兎に似た動物と小型の鹿だった。
失神した鹿や兎を蔓で縛り上げ、猪の背中に括りつける。それを纏めて爪で掴んだエイシェットの背中から声を掛けた。
「先に行く。悪いが、牛は持ってきてくれ」
自分の獲物はしっかり確保したエイシェットは、ふわりと舞い上がる。左右の足に生け捕りと自分の食事を握り、彼女はご機嫌だった。ぐるると喉を鳴らしながら二周ほど旋回して洞窟へ向かう。洞窟は崖の中腹に穴を開いており、反対側は森の中に抜けていると聞いた。中で二股になり、ヴラゴが安置されたのは行き止まりの左側だ。
「……妙だな」
蝙蝠は昼間は動かない。ほとんどは洞窟などの暗がりで過ごし、睡眠時間に当てるのだ。それが洞窟の入り口であたふたしている数匹の姿が見られた。近づくドラゴンに威嚇し、攻撃を仕掛けようとする。エイシェットに対して、だ。普段なら考えられない状況に、オレは嫌な汗が背中を伝うのを感じた。
「急げ! 蝙蝠はオレが散らす。中に飛び込んでくれ!」
ぐぁああ! 大きな声で威嚇した後、エイシェットは言葉通りに突っ込んだ。蝙蝠の攻撃は鱗を通さない。風の膜を作って弾くオレとエイシェットは、無傷で洞窟に到着した。ふわりと舞うエイシェットが困惑した声を上げる。足元に落ちた蝙蝠の群れ……中にはまだ生きている者もいた。
蝙蝠の上に獲物を置くわけにいかず、ひとまず洞窟の入り口へ積んだ。まだ生きていた獲物にはトドメを差しておく。エイシェットは蝙蝠を踏まないよう、気を遣って浮いている。その背から飛び降り、すぐに人化するよう指示した。
嫌な予感どころじゃない。確実に酷い状況だった。双子が追いつくまで時間がある。
「エイシェット、双子を連れてきてくれ。獲物は諦めてもらえ」
「やだ」
「頼む! お前しか頼れない」
頼られた嬉しさや離れたくない感情、複雑な恐怖心が鬩ぎ合うが、エイシェットはオレの言葉を聞いてくれた。すぐに戻ると言い置いて飛び出す。近くにいる蝙蝠に話を聞こうとするが、ほとんどが重傷か死体だった。
まとめて癒せるか? 今の魔力が満ちた状態で、大量に魔力消費をする治癒を使うことに躊躇う。だが覚悟は出来ていたはず。最悪、痛みでのたうち回る時間ができるくらいだ。魔力はオレが生きている間に使い切ると決めた。全員一緒にこの世界で生まれ変わるのだから。
ひとつ息を吐いて、ずきずきと痛む右手を前に差し出す。魔力を洞窟の空間内に流し、治癒に集中するために目を閉じた。
1
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
罠自動解除の加護が強すぎて無能扱いされ追放されたんだが、ま、どうでもいいか
八方
ファンタジー
何もしていないように思われている盗賊職のアルフレッド。
加護《罠自動解除》が優秀で勝手に罠が解除されていくのだ。
パーティーメンバーはそのことを知らない。
説明しても覚えていないのだ。
ダンジョン探索の帰り、ついにパーティーから追放されてしまう。
そこはまだダンジョン内。
何が起きても不思議ではない。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~
夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】
「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」
アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。
理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。
もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。
自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。
王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると
「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」
オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが……
アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。
そして今日も大きなあの声が聞こえる。
「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」
と
魔王を倒した勇者
大和煮の甘辛炒め
ファンタジー
かつて世界に平和をもたらしたアスフェン・ヴェスレイ。
現在の彼は生まれ故郷の『オーディナリー』で個性的な人物達となんやかんやで暮らしている。
そんな彼の生活はだんだん現役時代に戻っていき、魔王を復活させようと企む魔王軍の残党や新興勢力との戦いに身を投じていく。
これは彼がいつもどうりの生活を取り戻すための物語。
⭐⭐⭐は場面転換です。
この作品は小説家になろうにも掲載しています
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる