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第三章

103.疑えばキリがない

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 オレが思いついたのは、最悪のシナリオだった。闇堕ち系のラノベに出てきそうな、よくある展開だ。信じられる位置にいる人が、一番の裏切り者だった場合……。

 リリィは魔王城の裏に封じられていた。女神の祠だと聞いてるが、彼女が女神なのか、女神の力で眠らされた「何か」なのかは不明だ。封印されるくらいだから、強大な力を持っていたのだろう。もしかして女神だったなら、彼女が世界の要である可能性もあった。滅ぼせなかったパターンだ。

 何にしろ、彼女を殺すことは得策ではなく、人々はリリィを眠らせた。能力を封じ、出られないように見張り番として魔王が置かれる。魔王の地位にデメリットが多いのは、目覚めるリリィを封じる為の札のような役割だから。封じられる前のリリィと何か関係のある奴が、初代魔王だったのかも。

 リリィを殺せない以上、封じて出口を魔王城で塞いだ。番人を置いて見張り続ける。その番人を殺したのが、異世界人で事情を知らないオレだ。魔王という重石が消えたことで、リリィは蘇った。

「でもリリィは魔王城を守ってる。黒い霧も消してくれた」

 不思議そうに指摘された通り、確かにリリィは魔族のために貢献している。生まれた子が死ぬ原因となる魔力を吸う黒い霧を処分した。だけど、その霧自体がリリィの一部だとしたら? 悪く考えたらキリがない。

 魔王イヴリースの魂が消えていたら、こんな疑問は持たなかった。ヴラゴが命懸けの警告をしなかったら、オレは何も気づかず過ごしただろう。

 ――魔族にとってリリィは、蘇らない方が良かったのか?

 困ったような顔でオレを見つめるエイシェットにとって、リリィは新参者だ。新しく加わった強大な力を振るう魔族でしかなく、オレも突然現れて魔王を倒した男でしかない。力の強い者に従い群れを作るドラゴンの習性では、リリィはボスだった。ドラゴンの誰かが彼女を倒せば、そいつが次のボスだ。

 単純だが、魔族にはその傾向が強い。オレが彼らに受け入れられた要因の一つも、ここにあった。強者である魔王を倒した人間だから……それは覆せない事実なのだ。

「オレが考えすぎなのか?」

 人間が這い出てきた女神の祠、そこがリリィの領域であったなら、人間を転移させるのは容易だっただろう。呼び寄せるだけでいい。オレやエイシェットが留守にした隙に、ヴラゴを倒すために呼んだのだとしたら……。

 そういや、ヴラゴはなぜ死んだ? 死因がわからないのだ。死者の血を嗅ぎ分ける彼が吸うわけはなく、戦ってもオレを倒すほど強い。病やケガも心当たりがないし、そもそも不死と呼べるほど長い寿命を持つ種族だった。

 ……っ! ある事実に気づく。魔王もヴラゴも、その死には共通点がある。おそらくそれこそが鍵だった。

「エイシェット、蝙蝠達の巣の位置がわかるか?」

「うん、二つある」

 大きな洞窟を二箇所使っている。そう言った彼女は、すぐにドラゴンの姿に戻った。当然のように咥える革の手綱、オレは彼女の背中の鱗を叩いて飛び乗る。舞い上がる彼女の背で、仮定に浮かれる自分の気持ちを抑えようと深呼吸を繰り返した。

 まだ、間に合うかもしれない。
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