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第三章

101.ドラゴンと魔王の死の謎

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 距離を置くと気持ちは落ち着く。冷静になって考え、ひとつの仮定に至った。6本の杭が呪詛であるなら、あれほどの対策をしないと封じられないという意味だ。圧倒的な強さを誇った魔王イヴリース、だが彼は竜ではない。

「あの竜、死んでる」

 泣きじゃくりながら、エイシェットは断言する。あれは死体の温度だと。彼女の鼻は死臭を嗅ぎ取っていた。抱き寄せて並んで座る。

 死体を食い止める呪詛の杭、死んだはずの魔王の魂をどこから……?

 こういった蘇りの話はヴラゴが詳しそうだが、彼は死んでしまった。何が本当で何が嘘なのか。目にしたものや触れて感じたものさえ信じられない。

「くそっ、意味がわかんねえ」

 ごろんとその場で寝転がった。エイシェットが甘えるようにしがみ付いた。

 あの黒竜の中に、本当にイヴリースがいるとしたら考えられる触媒は何だ? 首を刎ねられて呼吸も脈も停止した。そこまではこの手で確認している。倒れた体はそのまま放置し、首だけを持ち帰った。

 そう、首はバルト国にある。ヴラゴを追い詰めた黒い血は、死人の血だった。彼が取り返そうとし、判断を誤るほど執着した死人は、イヴリースだろう。魔王の血を使ったから魔力を触媒に、死人の血という特殊条件が吸血種を追い詰めた。

 木漏れ日を手で遮りながら、ぶつぶつと考えを声に出していく。

「ヴラゴは死人の血だと言い切った。この時点で魔王の死は確実だ」

 生きているなら、死人の血ではない。黒く濁った魔王の血を保管する国もバルトだ。オレが持ち帰った首と血を利用したなら、あの魔術師か? 賢者を名乗る狡猾な男、あいつにそんな知恵があるとは思えない。

 賢く知識があるのは間違いない。いわゆる学校の勉強が出来るタイプの優等生だった。だから応用が効かない。加工する技術も、積み重ねた経験もないのに、あの呪詛を組み上げた? それこそあり得ない、そう言い切れた。

 王族も貴族も誰かを出し抜くことに長けているし、騙し騙されの宮廷を泳ぎ切る実力はある。だが戦いに関してはズブの素人だった。あいつらがこんな作戦を練れるわけがない。

 おかしい。オレは何かを見落としている。そもそも魔王はなぜ死んだ? 召喚されたオレの魔力量が多かったのは事実だが、あの時点で魔法は使えなかった。魔術の仕組みも理解できず、ただ力任せに剣を振るうだけ。だが剣道部だったわけでも有段者でもない高校生の剣技なんて、高が知れていた。付け焼き刃の技術が通用するほど、魔王が弱いなら、騎士団で十分対処できたのだから。

 オレでなければならない理由があるはずだ。考え込むオレの隣で、独り言を聞くエイシェットがきょろきょろと周囲を見回した。それから首を傾げる。

「どうした?」

「リリィの匂い、でもいない」

 ドラゴンはトカゲや蛇と同じく嗅覚に優れている。死体の血を嗅ぎ分けたり、獲物を探すときにも活用した。以前ならオレへ移り香という可能性もあるが、ここ最近は距離があった。魔力を探るために集中するが、リリィの魔力はない。

 気の所為か。エイシェットもオレも疲れているんだ。少し休もう。そう告げたオレに、エイシェットは不満そうに頬を膨らませた。
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