85 / 135
第二章
85.戻れる場所なんてない
しおりを挟む
自分勝手な怒りで混乱した日から5日、発症者が出たらしい。救援を求める使者が要塞都市を出た後、人の出入りを制限するようになった。慌ただしい動きを見ながら、オレは次の案を考える。
「エイシェット、聞かなくていいから聞いててくれ」
首を傾げる彼女の傍で、アベルは慣れた様子で寝そべった。顔を合わせないよう背中合わせで座り、互いに寄りかかる。この状態は落ち着くし、考え事が捗るんだよな。適度に感じる他者の体温も心地よかった。
「ヴラゴのおっさん達は引き上げた。現時点で潰したのは、アーベルライン国、城塞都市ラウガ、ヴァンク、ドーレク……取り掛かったのはタイバーの貿易拠点となる要塞都市だ」
聞かなくていいの意味としては、相槌以上の話し掛けは不要という意味だ。なんとなく察したらしく、エイシェットは無言で頷いた。揺れが伝わって、状況を察する。
「今から目の前の都市とタイバー国を落としたら、オレの復讐相手って……バルトだけだよな」
「周辺は?」
「ああ、そうだな。今回広めた病か、あとは地震で沈めてもいい。どっちにしろ周辺国は強国バルトに逆らえなくて、手出ししなかった。そこまで憎い対象じゃないんだ」
エイシェットがぐるると喉を鳴らす。不満そうな響きに、彼女の方が過激だと笑う。そんなに気になるなら、周辺国は彼女にくれてもいい。潰すなり、焼き払うなり気が済むようにしたらいい。そう提案したら、途端に機嫌が良くなった。
「バルトを……どうしてやろうか」
病にくれてやる気はない。だが、許す気はさらさらない。ただ殺して地面に飲み込ませても満足できなかった。じゃあ、ドーレク国同様の奴隷にしたら満足できるかと問われたら、それも違う。
もっと他にないのか? 残酷に心を抉り、血で血を洗う地獄を作り出す方法が。ヒントがあれば……と自分がたどった足跡を追い始めた。
「この世界に召喚されて、言葉も通じなかった。得体の知れない連中の中に放り出されて1人、怖かったな。徐々に言葉を覚えて、オレの知る言語との共通点を見つけてさ。意思疎通が出来るようになったら戦いの方法を叩き込まれた」
死にかけるほどの訓練を経ても、大した能力は身に付かない。大量の魔力があるのに魔術が発動しなかった。役立たずを召喚したと罵られたこともあったっけ。
「後でリリィから聞いて理解したんだけど、魔術はこの世界にある理を利用している。だから異世界から来たオレは対象外なんだと。連中はそんなことも知らず、オレを召喚したんだ。身近な、オレの親や友人を対価に使って……」
全部失くしてしまった。家族も友人も、下手すれば学校や街自体が消失したんじゃないか? 身近な人ほど大きな力に変換できると聞いた。顔を知ってる程度でも含まれるとしたら、街ごと変換された可能性もある。もう戻れる場所なんてない。
「こっちの奴らを全員殺しても、その魔力をかき集めたって、死んだ友人や家族は生き返らない」
だから復讐をやめる? その選択肢だけはなかった。どれだけ残酷に殺すか、オレがこの世界で受けた仕打ちをどこまで返せるか。悩む時間はもう長くない。早くしなくては奴らが自滅する。
「……復讐方法、ね。何か思いつけばいいんだけど」
生きてる連中を永遠に苦しめる、地獄みたいな場所があれば放り込んでやるのに。殺してくれと懇願する拷問を思いつけないことが悔しかった。
「エイシェット、聞かなくていいから聞いててくれ」
首を傾げる彼女の傍で、アベルは慣れた様子で寝そべった。顔を合わせないよう背中合わせで座り、互いに寄りかかる。この状態は落ち着くし、考え事が捗るんだよな。適度に感じる他者の体温も心地よかった。
「ヴラゴのおっさん達は引き上げた。現時点で潰したのは、アーベルライン国、城塞都市ラウガ、ヴァンク、ドーレク……取り掛かったのはタイバーの貿易拠点となる要塞都市だ」
聞かなくていいの意味としては、相槌以上の話し掛けは不要という意味だ。なんとなく察したらしく、エイシェットは無言で頷いた。揺れが伝わって、状況を察する。
「今から目の前の都市とタイバー国を落としたら、オレの復讐相手って……バルトだけだよな」
「周辺は?」
「ああ、そうだな。今回広めた病か、あとは地震で沈めてもいい。どっちにしろ周辺国は強国バルトに逆らえなくて、手出ししなかった。そこまで憎い対象じゃないんだ」
エイシェットがぐるると喉を鳴らす。不満そうな響きに、彼女の方が過激だと笑う。そんなに気になるなら、周辺国は彼女にくれてもいい。潰すなり、焼き払うなり気が済むようにしたらいい。そう提案したら、途端に機嫌が良くなった。
「バルトを……どうしてやろうか」
病にくれてやる気はない。だが、許す気はさらさらない。ただ殺して地面に飲み込ませても満足できなかった。じゃあ、ドーレク国同様の奴隷にしたら満足できるかと問われたら、それも違う。
もっと他にないのか? 残酷に心を抉り、血で血を洗う地獄を作り出す方法が。ヒントがあれば……と自分がたどった足跡を追い始めた。
「この世界に召喚されて、言葉も通じなかった。得体の知れない連中の中に放り出されて1人、怖かったな。徐々に言葉を覚えて、オレの知る言語との共通点を見つけてさ。意思疎通が出来るようになったら戦いの方法を叩き込まれた」
死にかけるほどの訓練を経ても、大した能力は身に付かない。大量の魔力があるのに魔術が発動しなかった。役立たずを召喚したと罵られたこともあったっけ。
「後でリリィから聞いて理解したんだけど、魔術はこの世界にある理を利用している。だから異世界から来たオレは対象外なんだと。連中はそんなことも知らず、オレを召喚したんだ。身近な、オレの親や友人を対価に使って……」
全部失くしてしまった。家族も友人も、下手すれば学校や街自体が消失したんじゃないか? 身近な人ほど大きな力に変換できると聞いた。顔を知ってる程度でも含まれるとしたら、街ごと変換された可能性もある。もう戻れる場所なんてない。
「こっちの奴らを全員殺しても、その魔力をかき集めたって、死んだ友人や家族は生き返らない」
だから復讐をやめる? その選択肢だけはなかった。どれだけ残酷に殺すか、オレがこの世界で受けた仕打ちをどこまで返せるか。悩む時間はもう長くない。早くしなくては奴らが自滅する。
「……復讐方法、ね。何か思いつけばいいんだけど」
生きてる連中を永遠に苦しめる、地獄みたいな場所があれば放り込んでやるのに。殺してくれと懇願する拷問を思いつけないことが悔しかった。
1
お気に入りに追加
174
あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています


〈完結〉髪を切りたいと言ったらキレられた〜裏切りの婚約破棄は滅亡の合図です〜
詩海猫
ファンタジー
タイトル通り、思いつき短編。
*最近プロットを立てて書き始めても続かないことが多くテンションが保てないためリハビリ作品、設定も思いつきのままです*
他者視点や国のその後等需要があるようだったら書きます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。


婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる