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第一章

45.各個撃破は戦術の基本だ

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 ひとつずつ確実に村を潰し、町を焼いた。魔族の一部からやり過ぎではないかと声が上がったらしいが、直接オレに文句をいう奴は出て来ない。ならば継続だろう。王都から離れた村や町から襲い、内側へ人間を追い込んでいく。大きな円形に広がる国の形は歪だが、どの国も似たような作りだった。

 王城の周囲に王都が出来て、その周りに広がって町や村が出来る仕組みを考えれば当然の結果だ。その周囲から中央へ人間を追い込めば……さあ、何が起きると思う? 後半を地上戦にしたのは、春に刈った麦や米を回収するためだ。そして悲惨さを内部へ伝えて、混乱を引き起こす役割もあった。

「そろそろか」

 王都に直接街道を接する村と町は壊滅させた。人と家が焼けた村は、大地の魔法の通りがいい。灰の効果だろうか、順調に伸びた根が人の営みがあった土地を緑に染めた。若木が芽を出し、雑草と麦が入り混じって生えてくる。殺さず残した家畜は自由を謳歌し、やがて野生化して森の彩りとなるだろう。

「恐怖に慄く連中を狩りに行くぞ」

 にやりと笑ったオレの隣で、エイシェットが頬を擦りつける。ドラゴンの鼻先に手を掛けて、くるっと一回転した。頭の上を越えて、彼女の背に飛び乗る。自ら咥えた手綱の革を引けば、大きな翼が広がって上昇を始めた。

 あっという間に巨大なフェンリルが小さくなる。見慣れた景色だ。彼女の首筋を撫でて、跨った足に力を入れた。ぐっと前傾姿勢を取ったのを確認し、エイシェットが加速する。足元でもカインやアベルが走り出し、参加した少数の魔族が雄たけびを上げた。操られた魔物が高揚した声を発しながら続く。

 じわじわと押し寄せる魔物の恐怖に、都の周辺は大騒ぎだろう。我先に王都へ逃げ込もうとしたはずだ。だが毎日ワイバーンが見回る王都周辺は、近づけば彼らの餌になる。人間を片っ端から襲う飛竜はかなりの脅威だろう。ましてやワイバーンは数が多い。魔術師が何回か攻撃するうちにパターンを覚えて、攻撃をかわすくらいの知恵もあった。

 数の脅威ってのは、使う立場になると便利だな。見えてきた王都の前で、エイシェットに囁いた。

「今日は脅すだけだ。ぐるりと旋回して、ビビらせてやろうぜ」

 ぐぁああ! 一声鳴いたエイシェットが、魔力の膜ぎりぎりを旋回していく。一周し終わる頃、駆け付けたフェンリルの姿が地上に見えた。町まであと10分の距離か。後ろに他種族を連れてなけりゃ、もっと速いんだけど。

 追いつくのを待つか、先に仕掛けるか。迷う時間はなかった。

「大地の盾」

 地上から飛んできた矢を、透明の盾で弾く。防ぐときは風より大地の魔法の方が展開が早く、威力も桁違いだった。キンと甲高い音を立てて、鏃が弾かれる。

「風、拾え」

 回収した鏃をじっくり確認する。魔力が込められた痕跡があった。鏃そのものに細工がないと確認したオレは、再び飛んできた矢を捕獲することにした。エイシェットに膜を強く張った上で下降させ、狙ってきた矢を弾いて拾う。

「なるほど、鏃のすぐ下に魔法陣を付けたのか」

 鏃の硬い金属や石に魔法陣を刻むのは難しい。量産化もしづらいが、紙の魔法陣を矢に巻き付けて飛ばしたのだ。これなら量産化も可能だし、射る前に魔力を込めて準備も可能だった。細工が分かれば、対策は簡単だ。この矢を射かけられて、兄弟同然のカインとアベルがケガをするのも腹立たしい。

「人間らしい小細工だけど、これで終わりだ」

 魔術師がいる場所を狙って、エイシェットに指示を出す。彼女の炎のブレスが舐めるたび、魔法陣は火を噴いて燃え上がった。魔力を流すための図式が出来ている魔法陣は、ドラゴンの炎に含まれた魔力に反応する。過剰に魔力を含ませたブレスなら、暴発して燃え上がらせることも可能だった。

 ぐああ、ぐるる……。上手にできたと自慢げなエイシェットの首に抱き着き、オレは全身で彼女を褒め称えた。

「すごい、見事だ。さすがはエイシェットだな!」

 嬉しそうに舞うドラゴンの銀鱗が光を弾き、足元に到着したフェンリルの号令で蹂躙が始まる。過去に親兄弟を殺された魔族、魔石のために仲間を奪われた魔物……その強い怒りが、人間達を駆除していく。残る町はあと2つ。
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