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第一章

33.自業自得、ってやつだ

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 攻撃が馬車を粉々に砕く。ほとんどの魔石を回収した後でよかった。いくつか転がってしまったが、砕けるほどの威力はないので、後で回収しよう。前転したオレの腕の中には、さきほど治したばかりの狐がいた。

 獣人系ではなく魔獣のようだ。動けない彼女を抱いての戦いは不利だが……相手にそれほどの実力があるかな。立ち上がって、空いている片手を上げる。無事だと知ったエイシェットが、ぐああと唸り声を発した。

 威嚇されたのは、剣士のようだ。オレを背中から攻撃した男は、手に魔法陣の紙を持っていた。魔力を持つ剣士は稀にいる。数は少ないが、魔王討伐の際にも随行していた。

 この男の顔に見覚えはないが、魔力持ちの剣士なら……手持ちの魔法陣が尽きれば魔術は使えない。普通なら魔法陣や魔力切れを待つんだろうが、オレにそんな気はなかった。圧倒的火力と速度を誇る魔法があるのだ。左手に抱いた狐に声をかける。

「しがみついていられるか?」

 きゅーん。愛らしい声で鳴いた狐が、がしっと肩に爪を立てた。置いて戦うと危険だし、人質にされたらマズイ。その意味で、双子の不在が痛かった。思ったより頼って戦ってたみたいだ。しっかり狐がしがみついたのを確認し、オレは右手を収納の左手首に当てる。いま抜いた剣は予備だ。リリィの新作は、さきほど横に置いたままだ。治癒のために手を離してしまった。回収しないとオレが殺されるな。

「貴様っ、人間のくせに魔族の肩を持つのか」

 吐き捨てるような声は低く掠れ、怒りの感情が滲んでいた。魔族に誰か殺されたのか? そりゃそうだろ、こんな非道な行いをしていれば、報いを受けて当然だ。因果応報、必ず自分に返ってくるんだよ。そんなことも気づかぬまま、暴力を振るい続けたなら……。

「あんたは自分の業に足を引っ張られたんだよ。自業自得、ってやつだ」

「うるせえ!!」

 言葉遣いがならず者と変わらないな。呆れながら、正面から突っ込んできた男の突きを弾いた。剣士の地位は騎士より下だが兵士より上、冒険者を名乗る連中の中では上の下くらいか。それなりに稼いだだろう。魔族の命を削って稼いだ分を、お前の安い命で償ってもらうぞ。

 脇を抜けた剣の柄を目掛け、オレは肘打ちを喰らわす。激痛に落とした剣を蹴り上げて武器を奪い、男の首に刃を当てた。男の手が背中に回り、そっと短剣を引き抜く。にやりと笑ったオレは、無造作に刃を引いた。

「ぐぁ……」

 膝から崩れた男の首が半分ほど切れ、倒れる時に顔も切り裂いた。真っ赤な血に濡れた刃に、眉を寄せる。

「やっぱ、これの切れ味はイマイチだな」

 リリィの新作とは比べられない。いまの動きなら、首を完全に切り離す切れ味だったはず。溜め息をついて、粉々になった馬車の破片に歩み寄った。

「風よ、瓦礫を避けてくれ……あ、そっちじゃない。そう、向こうへ飛ばして」

 曖昧な指示に風の精霊が好き勝手に動き、余計に散らかった。まあ、最終的に焼くからいいけどな。見つけた剣を拾い、取り出した鞘に納める。

「あ、悪い。いま下ろすからな」

 人間に狩られたのに、人間にしがみついてるのは嫌だろ? 狐にそう問いかけて下ろすと、困った様子でオレを見る。だが、迎えにきた同族の鳴き声に応えると、そこから一目散に森へ駆けていった。見送ったオレの頭上で、エイシェットが唸る。

「ん? 別に気にしてねぇよ」

 礼をしない狐は無作法だと怒るエイシェットに毒気を抜かれた。人が怒ってると、逆に冷静になる。空中を駆けて飛び乗ったエイシェットに合図を送り、村を完全に焼き尽くした。死体も、建物も、惨劇の後も……炎と煙に包まれて消える。

「もうひとつ、行っとくか」

 まだ潰す村は残っている。付き合うと意思表示した彼女の鱗を撫でて、オレは気持ちを切り替えた。
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