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第一章

26.レンズと尻尾の連携がえげつない

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 魔術師は基本的にエリートに分類される。そのため、自分達の誤爆であっても責められると、理不尽に感じる連中だった。自分達が最強と勘違いし、騎士や兵士を見下す。その騎士達に護衛されてるってのにな。

 そもそも魔法陣を描いて、魔力を流す作業は時間がかかる。魔法のように一瞬で発動しないのだ。今回は事前に大量の魔法陣を用意してきたが、普段はせいぜい1枚か2枚持っていればいい方だった。対人になれば、頭でっかちで融通の効かない魔術師なんて、役に立たないんだが……。

 勘違いと自己顕示欲が肥大した連中は、飛びかかる右翼の連中に向けて魔術を放った。身を守るためとはいえ、一応それ味方だぞ。

 ぐるるぅ? 呆れた様子のエイシェットの呟きに、堪えきれず大笑いする。だって「虫さえ同士討ちはしないのに」って、もう少し喩えがあるだろ。そこへフェンリルである双子の遠吠えが聞こえた。どうやら混ぜてくれと痺れを切らしたらしい。

 仲間同士食い合わせる作戦なので、後半になったら乱入を頼むか。風に指向性を持たせて矢のように言葉を届ける。返事はやはり遠吠えだった。大きな獣の声がするってのに、地上はそれどころではない。

 護衛は魔術師を守らなくてはならないのに、後ろから右翼の兵ごと撃たれた。まさかの背中を攻撃されたことで、護衛騎士まで敵に回す。どれだけ自滅するんだ、おい。これじゃ大きな魔法陣が作動しないぞ。

 楽しそうに旋回するエイシェットに向けた攻撃は止み、身内同士で突き刺したり魔術をぶつけたり。騒ぎが大きくなるにつれ、前方にいた将軍とその周辺のお付きが動き出した。指揮官が動くと沈静化される可能性がある。邪魔するか。

 迷ったのは一瞬だけ。その前に魔術師が足元の魔法陣に魔力を流した。巨大な魔法陣が発動の兆しを見せると、何人かの魔術師が同様に魔力を供給する。じわじわと動き出した魔法陣は、頭上のエイシェットから標的を変え右翼へ向けられた。お前ら、誰と戦うために来たんだよ、まったく。

 こちらを攻撃してくれないと、弾いた攻撃が左翼に当たっちゃった作戦が使えないだろ。エイシェットの首を叩いて注意を引き、彼女に頼む。

「悪いけど、魔術師と右翼の連中に向けて炎を見舞ってくれよ。軽く頭皮を炙る程度な」

 ハゲ量産の計画に、エイシェットは嬉々として乗った。まず右翼へ炎を飛ばし、それから足元の魔術師を襲う。当初の敵を思い出した魔術師が、魔法陣の発動先を変更していく。途中で変更すると歪むんだぞ。他人事ながら呆れた。そもそも頭上のドラゴンを狙う魔法陣を、無理矢理右翼の兵に向けようとした。挙句に発動直前にまた頭上へ戻そうとする。

 魔法陣とはそこまで都合の良い存在じゃないんだが……まあ、今回に限っては助かる。まるで魔術師の無茶のせいで、攻撃対象が定まらなかったように見えるはずだった。

 魔力を使ってレンズのような膜を張った。このレンズに当たった攻撃を、左翼へ飛ばすための装置だ。透明なので、地上から気付かれる可能性は低いだろう。人間はオレと違い、魔力を感知する能力を磨いてないからな。

「死ね、ドラゴン!」

 叫んだ魔術師の言葉通り、エイシェットに向かって雷撃のような強い光が放たれた。イメージとしてはレーザー銃かな。それをレンズに当てて、向きを変える。くるっと一回転したエイシェットが、尻尾でレンズに触れた。直後に、弾いた攻撃が左翼を蹂躙する。レンズなので、角度を調整するだけで広範囲に被害を与えた。

「うわっ、えげつな……」

 これは巨神兵だ。最悪じゃん。飛び散る人影を見ながら、エイシェットを労った。

「ありがとうな。お前の尻尾のお陰で本物っぽく見えたぞ」

 彼女の銀色の鱗で、尻尾が攻撃を弾いたように見えたのだ。タイミングを合わせて回ったエイシェットの首に抱きついて褒めていると、もう待てないと遠吠えに急かされた。だから、後少し待てっての。
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