【完結】愛してないなら触れないで

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
105 / 112
外伝

外伝2-2.素敵なお庭でまさかの?

しおりを挟む
 到着した王宮で、庭園に通された。ここは外部の者は滅多に入れない。国王陛下ラインハルト様が、妻シャルロッテ様の為に造られたお庭だった。私的なスペースとされ、今は王子殿下二人の遊び場になっている。

 以前は薔薇や果樹も植えられた庭だったが、それらはすべて移植された。子どもは何にでも触るし、注意しても忘れてしまう。遊びに夢中になると、よく失敗を繰り返すもの。危険な物を遠ざけるのは親の役割だった。

 子どもの背丈ほどの白い花が満開だ。青や黄色、赤の低い花が花壇の縁を彩った。さすがは王宮の庭師が丹精した庭、とても美しかった。うちはハーブが多いから、花より緑が広がる。もう少しお花を増やそうかしら。

 侍女に勧められ、ソファに腰掛ける。籐で編まれたソファは軽い。しかし腰掛けるとしっかりしており、屋外で使うのに向いていた。子どもがぶつかってもケガしなさそうね。これもまた大公家で検討しましょう。

「アンネ、とても素敵ね」

「ええ、この庭なら子どもがいても安全です」

 伯爵夫人となった今も、アンネは私の侍女を務める。夫のアルノルト様も、騎士として大公家に勤務していた。そのため伯爵家の屋敷は執事に預けっぱなし、時折帰る別荘のような存在になっているとか。それは私達の本邸も同じだけれど。

「お待たせしてごめんなさいね、着替えに手間取ってしまったの」

 ロッテ様の声に立ち上がり、微笑んで一礼する。会釈より少し深い程度。女性同士でカーテシーの披露はない。あれは他国の要人や自分より地位の高い貴族家当主へ向ける、正式な挨拶だった。そのため顔見知りになれば会釈やお辞儀で済ませることも多い。

 連れて来たフィーネとエーレンフリートは、ちょこんと頭を下げた。

「王妃様、お久しぶりです」

 挨拶をしたのはフィーネだ。姉の声に合わせて頭を下げた弟エレンは、すぐに私のスカートの後ろに隠れてしまった。最近人見知りが始まったばかり。その辺は男の子を育てたロッテ様もご存じだった。

「素敵なご挨拶ありがとう、フィーネ。皆で遊んできてはどう?」

 少し先に東屋がある。そこを示せば、アルフォンス王子がフィーネの手を取った。エスコートと呼ぶには気安く、けれど優しく触れる。

「一緒に行こう」

「うん。エレンもおいで」

 きちんと弟の手を掴むフィーネは、姉という立場がお気に入りの様子。するとアルフォンス王子がコルネリウス王子を手招きした。4人は侍女を伴って東屋へ向かう。お菓子や冷たい飲み物も届けられたので、ほっとしてソファに腰掛けた。

「このソファ、いいわね」

「ふふっ、隣国から仕入れたの。欲しいなら手配しておくわ」

「お願いしたいですわ、アンネのところにもいいかしら」

「もちろん」

 夜会で顔を合わせてから、アンネも一緒に招待してくれるロッテ様は、当たり前だと頷く。その気遣いが嬉しい。私の友人が、大切なアンネを友人として扱ってくれた。この出来事は、私達の間の友情を深めた気がする。最初は恐縮していたアンネも徐々に緊張が解けて、今は私に対するようにロッテ様へ接していた。

「本当に羨ましいわ、フィーネちゃんみたいな女の子が欲しい」

 ロッテ様は言葉以上に羨ましいと顔に書いて、そう漏らした。それから視線を向けて、アンネに微笑みかける。

「アンネはもうすぐかしら」

「はい。来月くらいです」

 大きく膨らんだお腹は、もう生まれてきそう。先日もお腹を蹴って暴れて、びっくりしたわ。うちの子は二人とも、あんなに暴れなかったもの。

「もしかして、二人いるのかも」

 ロッテ様がふふっと笑う。この国では双子は歓迎される。豊かに実るイメージと重なるのだとか。滅多に生まれないからこそ、幸運の象徴とされてきた。

「重いし大きいので、その可能性もあると医師から……っ、う……」

 話の途中で、アンネが顔をしかめる。まさか、生まれちゃうの?!
しおりを挟む
感想 288

あなたにおすすめの小説

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。

田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。 ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。 私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。 王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。

【完結】で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?

Debby
恋愛
キャナリィ・ウィスタリア侯爵令嬢とクラレット・メイズ伯爵令嬢は困惑していた。 最近何故か良く目にする平民の生徒──エボニーがいる。 とても可愛らしい女子生徒であるが視界の隅をウロウロしていたりジッと見られたりするため嫌でも目に入る。立場的に視線を集めることも多いため、わざわざ声をかけることでも無いと放置していた。 クラレットから自分に任せて欲しいと言われたことも理由のひとつだ。 しかし一度だけ声をかけたことを皮切りに身に覚えの無い噂が学園内を駆け巡る。 次期フロスティ公爵夫人として日頃から所作にも気を付けているキャナリィはそのような噂を信じられてしまうなんてと反省するが、それはキャナリィが婚約者であるフロスティ公爵令息のジェードと仲の良いエボニーに嫉妬しての所業だと言われ── 「私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 そう問うたキャナリィは 「それはこちらの台詞だ。どうしてエボニーを執拗に苛めるのだ」 逆にジェードに問い返されたのだった。 ★★★★★★ 覗いて下さりありがとうございます。 女性向けHOTランキングで最高20位までいくことができました。(本編) 沢山の方に読んでいただけて嬉しかったので、続き?を書きました(*^^*) ★花言葉は「恋の勝利」  本編より過去→未来  ジェードとクラレットのお話 ★ジェード様の憂鬱【読み切り】  ジェードの暗躍?(エボニーのお相手)のお話

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...