【完結】愛してないなら触れないで

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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86.どこで間違えたのか――SIDE義母

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 幸せの定義は、お金に困らない生活をすること。貧乏な家庭で育ち、すぐに家を飛び出した。貧乏人はずっと貧乏なまま。酒場で働き始め、すぐに誘われた。大金と引き換えに体を売る。一週間分の給金に該当する額を、男達はぽんと支払った。

 お金を積んでくれたら誰にでも足を開く。そうして生きてきた。不思議と子を孕むことはない。それが意味することを、私は知らなかった。酒場の店主が裏で金を受け取り、私を売春させていたのだ。事実を知っても何ら変わらなかった。だって私にくれる額が減るわけじゃない。

 売春を続ける私は、用事があって昼間の街へ出た。自ら稼ぐことをしなくても、親に庇護され愛される同年代の少女達に憎しみが募る。イライラしながら歩く私は、高そうな身なりの男性とぶつかった。

 彼は侯爵だと名乗り、私を愛人として囲ってくれた。気に入られたことが嬉しく、認められた気がする。一軒家を与えられ、食事や衣服に困らない生活が始まった。その頃、初めて妊娠する。医師の診察を受けて知ったのは、避妊薬を常用させられていた事実だ。

 生まれたのは男児、次は女児、そして男児。子育ても雇い入れた使用人に任せた。少しすると妻が病弱で死にそうだから、君を後妻にすると言う。ついに幸せを掴める。貴族の奥様としての生活に期待した。

 前妻の葬儀が終わってすぐ、私は約束通り迎え入れられる。だが想像と違ったのは、前妻の娘がのうのうと居座っていること。見事な赤毛と整った顔立ち、苦労を知らない美しい指先に見栄えのするドレス。何もかもが気に入らなかった。

 あの子が持つ宝飾品を奪い、ドレスも与えない。食事? そんなもの使用人と同じでいいわ。徐々に娘に使う金を減らす。だが公爵家との婚約話が舞い込んだ。あの娘が嫁ぐには上等すぎると主張したが、どうしてもと先方から押し切られたという。

 仕方がないけれど、支度金は出せないと言ったら、逆にお金をもらえるとか。それならさっさと売るに限る。追い出した後、我が家は潤った資金で豪華な生活をした。

 今回の夜会で酷い目に遭うまで、すべては順調だったのに。豪華な生活、貴族扱いされる気分の良さ、虚栄心も含め何もかも満ち足りていた。

 汚い地下牢で膝を抱えて蹲る。こんなはずじゃなかった。私は幸せになって、誰より豪華な生活をするのよ。なのに……犯罪奴隷に落とすと言われた。

 息子達も一緒に同じ場所で働かされる。貴族令嬢の婿に入って贅沢できるはずだった子も、婚約者を選び始めた子も、どちらも体が壊れるまで働く。鉱山の仕事は事故が多かった。落盤事故で次男の足が潰され、長男は手を失った。それでも解放されることはない。

 息子達が必死に掘った石を砕いて、運ぶのが女達の役割だった。重い石を運ぶため、一日に何度も往復する。それを繰り返して、整えていた爪は割れ、指は潰れて短くなった。丸まった背中で、白髪の増えた頭を揺すって歩く。

 私の人生はどこで間違ったのだろう。
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