86 / 112
85.誰もが醜く汚い面を持っているのよ
しおりを挟む
父の処罰は確定した。次は義母だろう。予想に反せず、国王陛下の口から出たのは義母の名だった。
「あの女の罪はさらに重い」
詳しく説明されるまでもなく、貴族ならば理解できる話だ。父は前侯爵であった母の夫で、伯爵家の次男だった。生まれながらの貴族であり、罪を犯さなければ死ぬまで貴族だったはず。私の爵位継承を認め、素直に身を引いて私の父として生きれば……だけど。
私はアウエンミュラー侯爵だから、その父は当然貴族として扱われる。だが彼は簒奪した。さらに家に平民の女を引き入れたのだ。これは裏切りであり、家を乗っ取ろうとした罪の証拠だった。たとえ父がアウエンミュラーの血を引いていたとしても、平民を後妻に迎えて血を濁らせたら、弟妹は貴族に嫁ぐことが出来ない。
にも関わらず身分を偽って、弟をアダルベルト侯爵令嬢と結婚させようとした。平民の血を高位貴族に混ぜ、失墜を狙った。そう邪推されてもおかしくない状況なのだ。正当なる貴族の後継である私を虐げ、物を奪い、殴り罵った。その罪も重かった。
平民である彼女は、侯爵でもない伯爵家の元次男と結婚したのだから。どこまで行っても平民で、生まれた子も侯爵令息や令嬢になるはずがない。身分を騙り、他の貴族家を騙した。当然ぬるい罰など考えられないわ。
「犯罪奴隷に落とすのはどう? もちろん賠償を受け取るのも拒否するのも、ローザの自由だわ。もし拒否するなら、そうね……孤児院の運営に使わせてもらうけど」
王妃様が提案した罰をじっくり考えてみる。殺してしまえば、そこで終わり。父に厳罰を求めたように、義母も苦しんで欲しい。侯爵家の女主人のように振る舞い、使用人を手荒に扱った。それ以下の扱いをされる犯罪奴隷なら、気が晴れるかしら。
賠償のお金なんて要らないから、寄付してしまえばいいし。ロッテ様の案は素晴らしいものに思えた。犯罪奴隷に自由はなく、賠償額はこちらで決められる。義母が私から奪った母の形見は、一生働いても返せない額になるわ。
「ありがとうございます。ロッテ様の案をお借りしますわ」
「あら、いいの? 素敵。なら弟妹はどうしましょう。一緒に犯罪奴隷にしてしまう?」
次のお茶会のドレスやお菓子を決めるように、ロッテ様はさらりと笑顔で言葉を紡ぐ。その内容が物騒であっても、まったく気にならなかった。私は知っているもの。どんな人でも醜い面や汚い面を隠している。だから二面性を持つのは当たり前だった。それ以上に隠している人もいるでしょう。
「弟二人に関してはそれでいいが、あの妹は義母を煽っていたな」
気に入らないとヴィルが眉を寄せる。あの時、父や義母と一緒になり、積極的に私を貶めようとした。弟達は傍観を選んだが、あの妹はいつだって私を目の敵にしたわね。
「ならばどうする。殺しては満足できないのだろう?」
国王陛下はくすりと笑って、ヴィルへ首を傾けた。決断を委ねる仕草に、少し考えたヴィルがにやりと笑う。その笑みはどこまでも黒くて、でも私は魅力的に思えた。恋は盲目というけれど、愛しても同じなのね。全然怖くないし、嫌いにならないわ。
「呪術をかけてから、犯罪奴隷に落とすとしよう」
呪術の内容をヴィルは語らない。でも想像はついたのでしょうね。国王陛下が「えげつない」と呟いた。それだけ酷い呪術なら、私は何も言うことはないわ。
「あの女の罪はさらに重い」
詳しく説明されるまでもなく、貴族ならば理解できる話だ。父は前侯爵であった母の夫で、伯爵家の次男だった。生まれながらの貴族であり、罪を犯さなければ死ぬまで貴族だったはず。私の爵位継承を認め、素直に身を引いて私の父として生きれば……だけど。
私はアウエンミュラー侯爵だから、その父は当然貴族として扱われる。だが彼は簒奪した。さらに家に平民の女を引き入れたのだ。これは裏切りであり、家を乗っ取ろうとした罪の証拠だった。たとえ父がアウエンミュラーの血を引いていたとしても、平民を後妻に迎えて血を濁らせたら、弟妹は貴族に嫁ぐことが出来ない。
にも関わらず身分を偽って、弟をアダルベルト侯爵令嬢と結婚させようとした。平民の血を高位貴族に混ぜ、失墜を狙った。そう邪推されてもおかしくない状況なのだ。正当なる貴族の後継である私を虐げ、物を奪い、殴り罵った。その罪も重かった。
平民である彼女は、侯爵でもない伯爵家の元次男と結婚したのだから。どこまで行っても平民で、生まれた子も侯爵令息や令嬢になるはずがない。身分を騙り、他の貴族家を騙した。当然ぬるい罰など考えられないわ。
「犯罪奴隷に落とすのはどう? もちろん賠償を受け取るのも拒否するのも、ローザの自由だわ。もし拒否するなら、そうね……孤児院の運営に使わせてもらうけど」
王妃様が提案した罰をじっくり考えてみる。殺してしまえば、そこで終わり。父に厳罰を求めたように、義母も苦しんで欲しい。侯爵家の女主人のように振る舞い、使用人を手荒に扱った。それ以下の扱いをされる犯罪奴隷なら、気が晴れるかしら。
賠償のお金なんて要らないから、寄付してしまえばいいし。ロッテ様の案は素晴らしいものに思えた。犯罪奴隷に自由はなく、賠償額はこちらで決められる。義母が私から奪った母の形見は、一生働いても返せない額になるわ。
「ありがとうございます。ロッテ様の案をお借りしますわ」
「あら、いいの? 素敵。なら弟妹はどうしましょう。一緒に犯罪奴隷にしてしまう?」
次のお茶会のドレスやお菓子を決めるように、ロッテ様はさらりと笑顔で言葉を紡ぐ。その内容が物騒であっても、まったく気にならなかった。私は知っているもの。どんな人でも醜い面や汚い面を隠している。だから二面性を持つのは当たり前だった。それ以上に隠している人もいるでしょう。
「弟二人に関してはそれでいいが、あの妹は義母を煽っていたな」
気に入らないとヴィルが眉を寄せる。あの時、父や義母と一緒になり、積極的に私を貶めようとした。弟達は傍観を選んだが、あの妹はいつだって私を目の敵にしたわね。
「ならばどうする。殺しては満足できないのだろう?」
国王陛下はくすりと笑って、ヴィルへ首を傾けた。決断を委ねる仕草に、少し考えたヴィルがにやりと笑う。その笑みはどこまでも黒くて、でも私は魅力的に思えた。恋は盲目というけれど、愛しても同じなのね。全然怖くないし、嫌いにならないわ。
「呪術をかけてから、犯罪奴隷に落とすとしよう」
呪術の内容をヴィルは語らない。でも想像はついたのでしょうね。国王陛下が「えげつない」と呟いた。それだけ酷い呪術なら、私は何も言うことはないわ。
28
お気に入りに追加
3,634
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
愛されない王妃は、お飾りでいたい
夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。
クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。
そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。
「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」
クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!?
「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」
愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。
ふまさ
恋愛
伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。
「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」
正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。
「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」
「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」
オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。
けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。
──そう。
何もわかっていないのは、パットだけだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる