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85.誰もが醜く汚い面を持っているのよ

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 父の処罰は確定した。次は義母だろう。予想に反せず、国王陛下の口から出たのは義母の名だった。

「あの女の罪はさらに重い」

 詳しく説明されるまでもなく、貴族ならば理解できる話だ。父は前侯爵であった母の夫で、伯爵家の次男だった。生まれながらの貴族であり、罪を犯さなければ死ぬまで貴族だったはず。私の爵位継承を認め、素直に身を引いて私の父として生きれば……だけど。

 私はアウエンミュラー侯爵だから、その父は当然貴族として扱われる。だが彼は簒奪した。さらに家に平民の女を引き入れたのだ。これは裏切りであり、家を乗っ取ろうとした罪の証拠だった。たとえ父がアウエンミュラーの血を引いていたとしても、平民を後妻に迎えて血を濁らせたら、弟妹は貴族に嫁ぐことが出来ない。

 にも関わらず身分を偽って、弟をアダルベルト侯爵令嬢と結婚させようとした。平民の血を高位貴族に混ぜ、失墜を狙った。そう邪推されてもおかしくない状況なのだ。正当なる貴族の後継である私を虐げ、物を奪い、殴り罵った。その罪も重かった。

 平民である彼女は、侯爵でもない伯爵家の元次男と結婚したのだから。どこまで行っても平民で、生まれた子も侯爵令息や令嬢になるはずがない。身分を騙り、他の貴族家を騙した。当然ぬるい罰など考えられないわ。

「犯罪奴隷に落とすのはどう? もちろん賠償を受け取るのも拒否するのも、ローザの自由だわ。もし拒否するなら、そうね……孤児院の運営に使わせてもらうけど」

 王妃様が提案した罰をじっくり考えてみる。殺してしまえば、そこで終わり。父に厳罰を求めたように、義母も苦しんで欲しい。侯爵家の女主人のように振る舞い、使用人を手荒に扱った。それ以下の扱いをされる犯罪奴隷なら、気が晴れるかしら。

 賠償のお金なんて要らないから、寄付してしまえばいいし。ロッテ様の案は素晴らしいものに思えた。犯罪奴隷に自由はなく、賠償額はこちらで決められる。義母が私から奪った母の形見は、一生働いても返せない額になるわ。

「ありがとうございます。ロッテ様の案をお借りしますわ」

「あら、いいの? 素敵。なら弟妹はどうしましょう。一緒に犯罪奴隷にしてしまう?」

 次のお茶会のドレスやお菓子を決めるように、ロッテ様はさらりと笑顔で言葉を紡ぐ。その内容が物騒であっても、まったく気にならなかった。私は知っているもの。どんな人でも醜い面や汚い面を隠している。だから二面性を持つのは当たり前だった。それ以上に隠している人もいるでしょう。

「弟二人に関してはそれでいいが、あの妹は義母を煽っていたな」

 気に入らないとヴィルが眉を寄せる。あの時、父や義母と一緒になり、積極的に私を貶めようとした。弟達は傍観を選んだが、あの妹はいつだって私を目の敵にしたわね。

「ならばどうする。殺しては満足できないのだろう?」

 国王陛下はくすりと笑って、ヴィルへ首を傾けた。決断を委ねる仕草に、少し考えたヴィルがにやりと笑う。その笑みはどこまでも黒くて、でも私は魅力的に思えた。恋は盲目というけれど、愛しても同じなのね。全然怖くないし、嫌いにならないわ。

「呪術をかけてから、犯罪奴隷に落とすとしよう」

 呪術の内容をヴィルは語らない。でも想像はついたのでしょうね。国王陛下が「えげつない」と呟いた。それだけ酷い呪術なら、私は何も言うことはないわ。
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