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83.月光の少女を競ったお相手は
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国王陛下が晩餐なんて仰るから! すっごく怖かったわ。どきどきしている私に、ロッテ様が種明かしをしてくれた。
通常は高位貴族が来たら、晩餐と呼ばれる豪華な食事が並ぶ。フルコースで作法にもうるさい。ただ、国王陛下は大公であるヴィルと食事をする際は、軽食に近いんですって。名前こそ晩餐だけど手づかみだったり、大皿の料理を取り分けたりする。それを聞いて一安心した。対外的な理由で、晩餐と呼ぶだけみたい。
王宮に上がるため、豪華なドレスは身に纏ってきた。それを汚さず、優雅に綺麗な食事は厳しいわ。私は最低限の礼儀作法を身に付けただけで、国王陛下と食事できるほど完璧ではないから。
「心配するな。学びたいなら教師を用意するが、俺が見る限り問題ない」
ロッテ様がいるから、かしら。一人称を「俺」で通すのね。大公として振る舞うときはいつもそう。私と二人の時や精霊がいる時は「僕」って言うのに。
お茶を楽しむ前に、王宮に飾られた絵画を鑑賞した。大公家に私のお母様の肖像があると聞いて、ロッテ様はにっこり笑う。
「知ってるわ、月光の少女でしょう? あの絵は素敵よ。オークションで最後まで競った相手はラインハルトなの」
ふふっと笑いながら、秘密を明かしてくれた。国王陛下が王妃様のお部屋に飾るつもりで競りに参加し、途中で競りの相手がヴィルと気づいて引いたんですって。
「だって、芸術なんて興味がなくて執事にすべてお任せの大公様が、ご自分で競りに参加されたんですもの。よほど大切なんだろうと思ったそうよ。まさか……モデルの娘さんに興味があったとは、あの人も想像できなかったけれど」
ロッテ様は揶揄うような口調だけど、ヴィルはまったく気にせず絵を見ている。でも、ちらりと私を覗ったのが可愛いわ。お母様の絵を購入するのに、そんな苦労があったなんて教えてくれないんだもの。
「今の季節は花に囲まれていますわ」
花の絵画が囲んでいたと教えれば、ロッテ様は「あら、ローザを好きすぎてお母様にも気を使うのね」と驚いた。ちょうどそこで、足を止める。お茶の支度が出来たと告げる侍女の後ろについて、客間の長椅子に腰掛けた。
入って来られた国王陛下が「時間ぴったりだ」と喜んで、ロッテ様の頬に唇を寄せた。触れるだけのキスを終えると、国王陛下は人払いをする。侍女や騎士もすべて室外に出し、徐に切り出した。
「晩餐の時では、常に給仕がいるから……ここで話しておこう」
会議で何かあったのかしら。ヴィルを見上げれば、微笑んで私の手を握る。不安がスッと消えた。
「アウエンミュラー侯爵を詐称した奴らの末路だ。どうする? 聞きたくなければ、このまま終わりにする」
聞きたいかと問われたら、眉を寄せてしまう。だけど、知りたくないわけではなかった。血の繋がる父だった男、そこに寄生した義母や弟妹……。このまま聞かずに過ごすことも出来るけど、いつか後悔するわ。
「聞かせてください」
気遣わしげなヴィルの手を、今度は私から握り返した。
通常は高位貴族が来たら、晩餐と呼ばれる豪華な食事が並ぶ。フルコースで作法にもうるさい。ただ、国王陛下は大公であるヴィルと食事をする際は、軽食に近いんですって。名前こそ晩餐だけど手づかみだったり、大皿の料理を取り分けたりする。それを聞いて一安心した。対外的な理由で、晩餐と呼ぶだけみたい。
王宮に上がるため、豪華なドレスは身に纏ってきた。それを汚さず、優雅に綺麗な食事は厳しいわ。私は最低限の礼儀作法を身に付けただけで、国王陛下と食事できるほど完璧ではないから。
「心配するな。学びたいなら教師を用意するが、俺が見る限り問題ない」
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「知ってるわ、月光の少女でしょう? あの絵は素敵よ。オークションで最後まで競った相手はラインハルトなの」
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「だって、芸術なんて興味がなくて執事にすべてお任せの大公様が、ご自分で競りに参加されたんですもの。よほど大切なんだろうと思ったそうよ。まさか……モデルの娘さんに興味があったとは、あの人も想像できなかったけれど」
ロッテ様は揶揄うような口調だけど、ヴィルはまったく気にせず絵を見ている。でも、ちらりと私を覗ったのが可愛いわ。お母様の絵を購入するのに、そんな苦労があったなんて教えてくれないんだもの。
「今の季節は花に囲まれていますわ」
花の絵画が囲んでいたと教えれば、ロッテ様は「あら、ローザを好きすぎてお母様にも気を使うのね」と驚いた。ちょうどそこで、足を止める。お茶の支度が出来たと告げる侍女の後ろについて、客間の長椅子に腰掛けた。
入って来られた国王陛下が「時間ぴったりだ」と喜んで、ロッテ様の頬に唇を寄せた。触れるだけのキスを終えると、国王陛下は人払いをする。侍女や騎士もすべて室外に出し、徐に切り出した。
「晩餐の時では、常に給仕がいるから……ここで話しておこう」
会議で何かあったのかしら。ヴィルを見上げれば、微笑んで私の手を握る。不安がスッと消えた。
「アウエンミュラー侯爵を詐称した奴らの末路だ。どうする? 聞きたくなければ、このまま終わりにする」
聞きたいかと問われたら、眉を寄せてしまう。だけど、知りたくないわけではなかった。血の繋がる父だった男、そこに寄生した義母や弟妹……。このまま聞かずに過ごすことも出来るけど、いつか後悔するわ。
「聞かせてください」
気遣わしげなヴィルの手を、今度は私から握り返した。
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