【完結】愛してないなら触れないで

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
84 / 112

83.月光の少女を競ったお相手は

しおりを挟む
 国王陛下が晩餐なんて仰るから! すっごく怖かったわ。どきどきしている私に、ロッテ様が種明かしをしてくれた。

 通常は高位貴族が来たら、晩餐と呼ばれる豪華な食事が並ぶ。フルコースで作法にもうるさい。ただ、国王陛下は大公であるヴィルと食事をする際は、軽食に近いんですって。名前こそ晩餐だけど手づかみだったり、大皿の料理を取り分けたりする。それを聞いて一安心した。対外的な理由で、晩餐と呼ぶだけみたい。

 王宮に上がるため、豪華なドレスは身に纏ってきた。それを汚さず、優雅に綺麗な食事は厳しいわ。私は最低限の礼儀作法を身に付けただけで、国王陛下と食事できるほど完璧ではないから。

「心配するな。学びたいなら教師を用意するが、俺が見る限り問題ない」

 ロッテ様がいるから、かしら。一人称を「俺」で通すのね。大公として振る舞うときはいつもそう。私と二人の時や精霊がいる時は「僕」って言うのに。

 お茶を楽しむ前に、王宮に飾られた絵画を鑑賞した。大公家に私のお母様の肖像があると聞いて、ロッテ様はにっこり笑う。

「知ってるわ、月光の少女でしょう? あの絵は素敵よ。オークションで最後まで競った相手はラインハルトなの」

 ふふっと笑いながら、秘密を明かしてくれた。国王陛下が王妃様のお部屋に飾るつもりで競りに参加し、途中で競りの相手がヴィルと気づいて引いたんですって。

「だって、芸術なんて興味がなくて執事にすべてお任せの大公様が、ご自分で競りに参加されたんですもの。よほど大切なんだろうと思ったそうよ。まさか……モデルの娘さんに興味があったとは、あの人も想像できなかったけれど」

 ロッテ様は揶揄うような口調だけど、ヴィルはまったく気にせず絵を見ている。でも、ちらりと私を覗ったのが可愛いわ。お母様の絵を購入するのに、そんな苦労があったなんて教えてくれないんだもの。

「今の季節は花に囲まれていますわ」

 花の絵画が囲んでいたと教えれば、ロッテ様は「あら、ローザを好きすぎてお母様にも気を使うのね」と驚いた。ちょうどそこで、足を止める。お茶の支度が出来たと告げる侍女の後ろについて、客間の長椅子に腰掛けた。

 入って来られた国王陛下が「時間ぴったりだ」と喜んで、ロッテ様の頬に唇を寄せた。触れるだけのキスを終えると、国王陛下は人払いをする。侍女や騎士もすべて室外に出し、徐に切り出した。

「晩餐の時では、常に給仕がいるから……ここで話しておこう」

 会議で何かあったのかしら。ヴィルを見上げれば、微笑んで私の手を握る。不安がスッと消えた。

「アウエンミュラー侯爵を詐称した奴らの末路だ。どうする? 聞きたくなければ、このまま終わりにする」

 聞きたいかと問われたら、眉を寄せてしまう。だけど、知りたくないわけではなかった。血の繋がる父だった男、そこに寄生した義母や弟妹……。このまま聞かずに過ごすことも出来るけど、いつか後悔するわ。

「聞かせてください」

 気遣わしげなヴィルの手を、今度は私から握り返した。
しおりを挟む
感想 288

あなたにおすすめの小説

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。

田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。 ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。 私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。 王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。

【完結】で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?

Debby
恋愛
キャナリィ・ウィスタリア侯爵令嬢とクラレット・メイズ伯爵令嬢は困惑していた。 最近何故か良く目にする平民の生徒──エボニーがいる。 とても可愛らしい女子生徒であるが視界の隅をウロウロしていたりジッと見られたりするため嫌でも目に入る。立場的に視線を集めることも多いため、わざわざ声をかけることでも無いと放置していた。 クラレットから自分に任せて欲しいと言われたことも理由のひとつだ。 しかし一度だけ声をかけたことを皮切りに身に覚えの無い噂が学園内を駆け巡る。 次期フロスティ公爵夫人として日頃から所作にも気を付けているキャナリィはそのような噂を信じられてしまうなんてと反省するが、それはキャナリィが婚約者であるフロスティ公爵令息のジェードと仲の良いエボニーに嫉妬しての所業だと言われ── 「私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 そう問うたキャナリィは 「それはこちらの台詞だ。どうしてエボニーを執拗に苛めるのだ」 逆にジェードに問い返されたのだった。 ★★★★★★ 覗いて下さりありがとうございます。 女性向けHOTランキングで最高20位までいくことができました。(本編) 沢山の方に読んでいただけて嬉しかったので、続き?を書きました(*^^*) ★花言葉は「恋の勝利」  本編より過去→未来  ジェードとクラレットのお話 ★ジェード様の憂鬱【読み切り】  ジェードの暗躍?(エボニーのお相手)のお話

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...