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78.馬鹿に説明する愚か者はいない
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公爵令嬢は、公爵本人ではない。当たり前だが、貴族の中で最も地位が高いのは公爵、その次が侯爵だ。令嬢や令息は当主より地位が低い。階級社会に置いて、この順序を間違えるのは教養がない証拠だった。
公爵令嬢と並ぶなら子爵家当主くらいか。3階級落として判断される。これが公爵家の嫡男なら、伯爵家当主と並べて称されるけど。
この辺を理解せず、侯爵と聞いて「格下」と判断したのは、大きな間違いだった。さらに侯爵なのは私であって、ヴィルではない。勘違いするのは彼女の勝手だが、我々は侯爵夫妻ではなかった。大公に無礼を働くのは階級社会で致命的だし、ヴィルの顔も知らないなら、先日の夜会に出ていなかった指摘も事実だろう。
おそらく親であるビッテンフェルト公爵夫妻は、この娘を社交の場に出せなかった。公爵家の名を付けて、どこかへ政略結婚で押し付ける気でいる。だから社交のマナーは嫁ぎ先の判断に委ねるつもりだろう。
元公爵令嬢ならば、ビッテンフェルトの名を汚さない。嫁ぎ先の家が彼女を恥と思えば、外へ出さずに領地で飼い殺しにする。元公爵令嬢の名を利用しようと考えても、この頭の悪さでは使いようがなかった。
アウエンミュラー侯爵家を取り返すため、私は他の貴族令嬢が学ばないような法律を詰め込んだ。貴族家の当主が知るべき教養や法律の知識だ。その基礎があるから、イザベルを哀れだと思う。まるで愛玩動物を可愛がるように、両親は彼女に物と金だけを与えたのね。
「ビッテンフェルト公爵令嬢だったか? 夜会にはなぜ出なかった」
「侯爵風情に話す必要があって?」
「その様子では、家の名に泥を塗るから出せなかったのか。躾けられた愛玩動物以下だな」
大公家の当主であるヴィルと同じ考えだったことを誇ったらいいのか、それとも哀れな令嬢に同情する場面かしら。私は淹れ直された紅茶で喉を湿らせた。
「なんですって!」
「知らないなら教えてやろう。公爵令嬢は子爵家当主と同じ地位だ。侯爵よりかなり下だぞ」
「そんなことないわ! 皆、私にそんなこと言わなかったもの」
「馬鹿に説明する愚か者はいない」
ぴしゃりとヴィルが言い切った。そこでアルノルトが爆弾を落とす。
「我が主君アルブレヒツベルガー大公閣下に対し、口の利き方がなっていません。教えても?」
「構わんぞ」
ヴィルがにやりと笑った。アルノルトの笑みも黒いけど、もしかして……アルノルトは騎士だけど、爵位もあるとか?
「騎士風情が黙りなさい!」
あら。落とした爆弾を無視されたわ。アルブレヒツベルガー大公家の名が出たのに、謝罪のひとつもないなんて。逆にすごいわね。
「黙るのはお前だ。シュトルツ伯爵家当主、アルノルトである」
ああやっぱり、そう思った私はカップをソーサーへ戻した。
「爵位も持たぬ小娘が話しかけて良い道理はない」
そうね。上位の者へ身勝手に話しかけたのも罪だけど、本人は令嬢で爵位がない。極端な表現をすれば、イザベルは公爵の娘というだけであり、貴族の血を引く平民と同じなのよ。嫁いだ先で「夫人」になれば肩書きとして通用するけど。
強い口調と突きつけられた剣先に、イザベルの顔色が青くなっていく。公爵家の娘なら、学ぶ機会や環境はあった。ここまで無知なのは、好き放題にさせた家族と甘えた彼女自身の罪ね。
「では……ビッテンフェルト公爵を呼び出すとしようか」
微笑んだヴィルに、私は息を飲んだ。え? まさか、親を呼んで叱るの?!
公爵令嬢と並ぶなら子爵家当主くらいか。3階級落として判断される。これが公爵家の嫡男なら、伯爵家当主と並べて称されるけど。
この辺を理解せず、侯爵と聞いて「格下」と判断したのは、大きな間違いだった。さらに侯爵なのは私であって、ヴィルではない。勘違いするのは彼女の勝手だが、我々は侯爵夫妻ではなかった。大公に無礼を働くのは階級社会で致命的だし、ヴィルの顔も知らないなら、先日の夜会に出ていなかった指摘も事実だろう。
おそらく親であるビッテンフェルト公爵夫妻は、この娘を社交の場に出せなかった。公爵家の名を付けて、どこかへ政略結婚で押し付ける気でいる。だから社交のマナーは嫁ぎ先の判断に委ねるつもりだろう。
元公爵令嬢ならば、ビッテンフェルトの名を汚さない。嫁ぎ先の家が彼女を恥と思えば、外へ出さずに領地で飼い殺しにする。元公爵令嬢の名を利用しようと考えても、この頭の悪さでは使いようがなかった。
アウエンミュラー侯爵家を取り返すため、私は他の貴族令嬢が学ばないような法律を詰め込んだ。貴族家の当主が知るべき教養や法律の知識だ。その基礎があるから、イザベルを哀れだと思う。まるで愛玩動物を可愛がるように、両親は彼女に物と金だけを与えたのね。
「ビッテンフェルト公爵令嬢だったか? 夜会にはなぜ出なかった」
「侯爵風情に話す必要があって?」
「その様子では、家の名に泥を塗るから出せなかったのか。躾けられた愛玩動物以下だな」
大公家の当主であるヴィルと同じ考えだったことを誇ったらいいのか、それとも哀れな令嬢に同情する場面かしら。私は淹れ直された紅茶で喉を湿らせた。
「なんですって!」
「知らないなら教えてやろう。公爵令嬢は子爵家当主と同じ地位だ。侯爵よりかなり下だぞ」
「そんなことないわ! 皆、私にそんなこと言わなかったもの」
「馬鹿に説明する愚か者はいない」
ぴしゃりとヴィルが言い切った。そこでアルノルトが爆弾を落とす。
「我が主君アルブレヒツベルガー大公閣下に対し、口の利き方がなっていません。教えても?」
「構わんぞ」
ヴィルがにやりと笑った。アルノルトの笑みも黒いけど、もしかして……アルノルトは騎士だけど、爵位もあるとか?
「騎士風情が黙りなさい!」
あら。落とした爆弾を無視されたわ。アルブレヒツベルガー大公家の名が出たのに、謝罪のひとつもないなんて。逆にすごいわね。
「黙るのはお前だ。シュトルツ伯爵家当主、アルノルトである」
ああやっぱり、そう思った私はカップをソーサーへ戻した。
「爵位も持たぬ小娘が話しかけて良い道理はない」
そうね。上位の者へ身勝手に話しかけたのも罪だけど、本人は令嬢で爵位がない。極端な表現をすれば、イザベルは公爵の娘というだけであり、貴族の血を引く平民と同じなのよ。嫁いだ先で「夫人」になれば肩書きとして通用するけど。
強い口調と突きつけられた剣先に、イザベルの顔色が青くなっていく。公爵家の娘なら、学ぶ機会や環境はあった。ここまで無知なのは、好き放題にさせた家族と甘えた彼女自身の罪ね。
「では……ビッテンフェルト公爵を呼び出すとしようか」
微笑んだヴィルに、私は息を飲んだ。え? まさか、親を呼んで叱るの?!
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