【完結】愛してないなら触れないで

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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76.本当に戦場みたいになってきたわ

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 お店は、アルブレヒツベルガー大公家の貸切になっていた。心配した分、気が抜けてしまう。女性物のドレスを扱う店は、王妃シャルロッテ様御用達なのだとか。紹介された店なので、対応もよかった。

 感じのいい店で、気心の知れたアンネや優しいエルマと服を選ぶのは楽しい。大貴族との取引が多いため、店の女主人であるミセス・カサンドラは礼儀もしっかりしてた。奥に用意された個室でヴィルと並んで、運ばれたドレスを選ぶ。

「そんなにたくさんは……」

「いや、店を全部買い占めたいのを我慢しているんだから、せめて気に入ったものを全部購入するのは許して欲しいな」

 ヴィルにそう言われて、それならと頷いたけど。やっぱり数が多すぎるわ。それに私が買ってもらう立場なのに、許すのも私なのはおかしくない?

「これも貰おう、あとは淡い色のドレスがもっと欲しい」

「かしこまりました」

 ロッテ様の紹介で、大貴族である大公が欲しいと言えば、店にある商品はなんでも出てくるだろう。淡い色を中心として、新たなドレスが運ばれてきた。こういう店で購入した経験がないから、私はよく分からないけれど。アンネとエルマが私のサイズを伝えて仕立て直すらしい。

 仮仕立ての状態で展示されるドレスは、この場で試着はしない。考えてみたら、貴族令嬢が着飾るのに1時間以上かかるのだ。それを店内で数着も試されたら、一日が終わってしまう。納得しながら、ドレスのデザインを眺めた。

 リボンやレース、フリルの位置も変更が出来ると提案されるが、すべてアンネ達に任せる。だって分からないんだもの。用意されたお茶に口をつけ、私を見つめて微笑むヴィルに頬を染めた。

 と、店頭が騒がしい。誰かが甲高い声で騒ぎ、それを宥める声が重なる。だが押し切られたのか、喧騒は近づいてきた。

「ちょっと! 私を誰だと思っているの! 失礼よ」

「本日は貸切でございます」

「どきなさい! マダムはこの部屋?」

「おやめください」

 止めきれずに叫ぶような声が聞こえ、隣の部屋の扉を開けた音にびくりと肩が揺れた。護衛で付き添ったアルノルトが前に出る。と同時に、アンネとエルマが私達の前に立った。壁になるつもりみたい。

「何でしょう、大切なお客様がいらしているのに」

 マダム・カサンドラが眉を寄せ、廊下へ向かう。ドアを開いて外を窺った彼女は、乱暴に入ってきた女性に突き飛ばされた。後ろへたたらを踏んで裾に躓いたマダムが甲高い悲鳴をあげる。

「失礼」

 一言告げ、アルノルトは片手でマダム・カサンドラを受け止めた。よく見れば、剣は鞘を払っている。抜き身の刃がぎらりと光った。さっきの失礼って、マダムに触れることじゃなくて剣を抜いたことかも。

 ヴィルに肩を抱かれて、守るように覆い被さる彼の香りを吸い込んだ。何も心配いらないわ。ヴィルがいるもの。自分に言い聞かせた私が顔を上げると、そこには気の強そうな金髪のご令嬢が仁王立ちしていた。
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