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75.貴族の買い物って戦いなのね
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ヴィルと街に出る約束をした。こんなの初めてで、何を身につければいいか迷う。豪華な装飾品はいらないけど、歩きやすいワンピースがいいかしら。馬車で貴族らしく出かけるなら、ドレスの方が相応しいの? お忍びも含めて、こんな経験はなかった。
誘われてすぐにアンネへ相談する。彼女は貴族出身だし、きっと助けてくれるわ。
「なるほど。でしたらエルマも呼んで、一緒に服を選ぶ準備をしましょう」
服を選ぶのではなく、選ぶ準備? 意味が分からない私は首を傾げた。すぐにエルマが呼ばれ、彼女はひそひそと話して微笑む。それから部屋を出ていった。十分ほどして戻ったエルマは、状況を説明してくれる。
「旦那様は、侯爵様のお洋服や装飾品を購入されるおつもりです。ドレス姿に決まりです」
執事のベルントに尋ねたとか。護衛は先日の夜会で同行したアルノルトが務める。侍女のアンネとエルマも一緒だと聞いて、安心してしまった。
「侯爵様、そこは二人きりがよかったんじゃありませんか」
「そう言いたいけど、貴族らしいお買い物なんてしたことないんだもの。お店の人に勧められたら断れないわ」
エルマの発言に、本音がまろびでる。くすくす笑う二人に嫌な感じはなくて、ほっとしたら肩の力が抜けた。何をそんなに緊張していたのかしら。
「侯爵様に似合う物以外は排除します」
ぐっと拳を握るアンネが頼もしい。でも私に似合うって、どんな色や服なのだろう。自分で選んだことがなくて、与えられた服しか袖を通してこなかった。センスも好みもないわ。
「どんと任せてください」
エルマが茶化した物言いで胸を叩くと、アンネが真似をする。戯けた二人の仕草に笑って、私は大きく頷いた。思いつきで、奥様っぽい口調で返す。
「あなた達に一任します」
「侯爵様、それ……ご当主様って感じです」
「え? 私は結構好きですね。強気な感じがしますから」
好き勝手騒ぎながら、選んでもらったドレスを眺める。トルソーに掛けられたドレスは、薄いピンク。すごく薄い色なので、日を当てると白っぽく見えた。濃桃の刺繍が入って、ピンクに反射しているのかと思うくらい淡い色。
薄氷色と言われる水色の瞳はともかく、赤毛が強烈な印象を残すアウエンミュラーの特徴から、淡い色は身につけてこなかった。真っ赤なドレスや先日の黒いドレス、いつも原色だったのに。
「赤毛が美しいので目を惹きますが、奥様は少しお肌が青白いですから、淡いピンクは映えます。それと当日は髪を結って、ピンクの帽子の中に隠しましょうね」
「ええ、任せる、わ」
一任すると言ったから、抵抗も反論もしないけど。私にそんな色が似合うのかしら。用意されたお飾りは銀細工に鮮やかなサファイアが輝く、小ぶりで上品なデザインばかり。小粒なのに照りがあって質がいいのは一目瞭然だった。
「素敵ね」
「ええ、普段使いにと用意していただきました」
「……これ、を?」
落としたらと思ったら、恐ろしくて身につけられないわ。絶対に高額商品だもの。素人の私に分かるくらい高品質のお飾りは、当然のようにドレスの近くに並べられた。
貴族のお買い物って、見栄が大切なのね。怖いわ。お店の雰囲気に飲まれそうで、私は今から震えてしまった。
誘われてすぐにアンネへ相談する。彼女は貴族出身だし、きっと助けてくれるわ。
「なるほど。でしたらエルマも呼んで、一緒に服を選ぶ準備をしましょう」
服を選ぶのではなく、選ぶ準備? 意味が分からない私は首を傾げた。すぐにエルマが呼ばれ、彼女はひそひそと話して微笑む。それから部屋を出ていった。十分ほどして戻ったエルマは、状況を説明してくれる。
「旦那様は、侯爵様のお洋服や装飾品を購入されるおつもりです。ドレス姿に決まりです」
執事のベルントに尋ねたとか。護衛は先日の夜会で同行したアルノルトが務める。侍女のアンネとエルマも一緒だと聞いて、安心してしまった。
「侯爵様、そこは二人きりがよかったんじゃありませんか」
「そう言いたいけど、貴族らしいお買い物なんてしたことないんだもの。お店の人に勧められたら断れないわ」
エルマの発言に、本音がまろびでる。くすくす笑う二人に嫌な感じはなくて、ほっとしたら肩の力が抜けた。何をそんなに緊張していたのかしら。
「侯爵様に似合う物以外は排除します」
ぐっと拳を握るアンネが頼もしい。でも私に似合うって、どんな色や服なのだろう。自分で選んだことがなくて、与えられた服しか袖を通してこなかった。センスも好みもないわ。
「どんと任せてください」
エルマが茶化した物言いで胸を叩くと、アンネが真似をする。戯けた二人の仕草に笑って、私は大きく頷いた。思いつきで、奥様っぽい口調で返す。
「あなた達に一任します」
「侯爵様、それ……ご当主様って感じです」
「え? 私は結構好きですね。強気な感じがしますから」
好き勝手騒ぎながら、選んでもらったドレスを眺める。トルソーに掛けられたドレスは、薄いピンク。すごく薄い色なので、日を当てると白っぽく見えた。濃桃の刺繍が入って、ピンクに反射しているのかと思うくらい淡い色。
薄氷色と言われる水色の瞳はともかく、赤毛が強烈な印象を残すアウエンミュラーの特徴から、淡い色は身につけてこなかった。真っ赤なドレスや先日の黒いドレス、いつも原色だったのに。
「赤毛が美しいので目を惹きますが、奥様は少しお肌が青白いですから、淡いピンクは映えます。それと当日は髪を結って、ピンクの帽子の中に隠しましょうね」
「ええ、任せる、わ」
一任すると言ったから、抵抗も反論もしないけど。私にそんな色が似合うのかしら。用意されたお飾りは銀細工に鮮やかなサファイアが輝く、小ぶりで上品なデザインばかり。小粒なのに照りがあって質がいいのは一目瞭然だった。
「素敵ね」
「ええ、普段使いにと用意していただきました」
「……これ、を?」
落としたらと思ったら、恐ろしくて身につけられないわ。絶対に高額商品だもの。素人の私に分かるくらい高品質のお飾りは、当然のようにドレスの近くに並べられた。
貴族のお買い物って、見栄が大切なのね。怖いわ。お店の雰囲気に飲まれそうで、私は今から震えてしまった。
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