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73.赦されない罪の重さに――SIDEレオ

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 まだ子どもだったあの日、茶会で見初めた赤毛の美しい少女は、俺の妻となった。代替わりした先代アウエンミュラー侯爵の夫は、実の娘が金の卵を産む鶏だと知らない。彼女を得れば、自然と領地もすべて手に入るのだ。

 アウエンミュラー侯爵家は歴史が古く、王家の血を絶やさぬために作られた公爵家より格が高い。こんなこと、知っている貴族の方が少ないはずだ。血筋ではなく、己の才覚を持って先祖が築いた地位で、アウエンミュラーを凌ぐ家はなかった。

 ウーリヒ王国で確固たる地位を得たければ、アウエンミュラーの温情に縋れ――他国に伝わる諺も嘘ではない。それだけの信用と歴史を持つ家門だった。これでリヒテンシュタインが頭一つ抜きん出た。3つある公爵家の中で頂点に立ったも同然。

 彼女を得たいと告げた茶会の日、父は笑いながら「お前は目利きだ」と褒めた。その理由がここにある。息子の願いを叶えることは、リヒテンシュタインを繁栄に導く。俺が父と同じ立場でも、同様の決断を下した。

 ――アウエンミュラーの至宝を手に入れろ。その言葉通り、俺は彼女を手に入れた。前世はそれでよかったのに。領地で起きた疫病の対応に追われ、ようやく戻れば大切な「アウエンミュラー」が死んでいた。絶望が広がるが、従姉妹の腕に抱かれた希望に気づく。

 アウエンミュラーの名を継ぐ唯一の子だ。同時にリヒテンシュタインの血を受け継ぐ我が子エーレンフリート。そこで前世の記憶は途切れた。どのような人生を送ったのか、希少な一族の血を引いた子がどのように育ったのか。まったく覚えていない。

 やり直しに気づいたのは、結婚式の前日だった。何も知らないローザは従順で、俺は今度こそ彼女を守り抜こうと誓った。産まれる我が子が、王家とアウエンミュラーを繋ぐ。この功績で、王位継承権を持つ自分の立場がより高まることを期待した。

 いつからだろう。最初に出会った時は違った。美しいあの子が欲しかっただけ。父にアウエンミュラーの価値を教わり、従順な彼女を支配することに溺れた。囚われの姫を救う英雄の気分だ。そんな自分に酔い、気づけば……支配することが目的になった。

 よくいうことを聞くペットのように、管理して従わせることに高揚する。ローザが嫌がろうと、自分がしたければ押し倒す。無理やり抱くことも昂ったし、言うことを聞かない彼女を言い負かす時間も楽しかった。

 前世で死なせてしまったことを悔やみ、償いたいと思った時期もある。だが執事に傷つけられ部屋に閉じこもったローザは、哀れで可愛かった。そう、この状態こそが正しいのだと思う。ローザリンデは美しいガラス細工と同じ、保護してケースに飾り愛でるのが正しい。

 この生活に不満があっても、ローザには逃げる場所がなかった。徐々にエスカレートした俺は、偶然目にした光景に浮気を疑い、剣で首を……はたと我に返る。鞘を払い剣を抜いた? 俺がいつ? 今生で彼女を傷つけた覚えはない。前世は領地から帰ったら死んでいたのに? 記憶が混じり合って混乱する。吐き気がした。焼けた離れの光景が脳裏をよぎる。

 俺は、何回ローザを追い詰めたのか。前世だと認識した記憶はいつから、どこから間違っていた? 俺は二度、もしかしたらそれ以上、彼女を殺しているのかも知れない。

 冷たい牢の中、訪れたヴィクトールの瞳に宿る怒りの炎に焼かれる。そうか、これが罰か。呪術を刻まれた手のひらを握り込み、俺は狂うことも許されなかった。腐る体の奥に刻まれた憎しみと、恐怖を抱いて今日もただ、呼吸を繰り返すのだ。

 赦されなくとも贖罪を続けるために。
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