73 / 112
72.呪術の使用理由がおかしいわ
しおりを挟む
ロッテ様は侍従を下げて、お気に入りの侍女だけ残した。本当に女性だけのお茶会をするつもりのようだわ。温室は暖かく、とてもよい香りがした。
「何の香りでしょうか」
知識不足なのは事実だから、素直に尋ねてしまおう。そんな私に、ロッテ様は優しく黄色い花を示した。小さな花が密集して、塊のようになっている。
「あれよ、モクセイというらしいわ」
「素敵ですね、この香りは心地よいです」
「ふふっ、私も好きなの」
ロッテ様は、無知な私を見下すような話し方をなさらない。だから遠慮は徐々に消えていった。社交界で流行っている物や噂話、新しく手に入れる宝石、夫である国王陛下のこと。様々なお話を聞いて、美味しいお茶と軽食で満たされていく。
「私、こんな素敵な時間は知りませんでした」
前世を含めても、結婚まで家に閉じ込められてきた。外へ出してもらえたのは、お母様が生きていた頃まで。それ以降は、屋敷の奥で使用人よりひどい扱いを受けた。義母による嫌がらせは年々エスカレートし、アウエンミュラーの豊かな領地は食い荒らされる。それを止められなかった自分が悔しかった。
本来は貴族令嬢なら、こうやってお茶会をして交流し、家のためになる結婚相手を探す。その自由も与えられなかった。大金と引き換えに売られた私が、惨めに思える。
「そうそう、大公様がラインハルト様に呪術の許可を求めたの、ご存じ?」
「いいえ」
呪術といえば、アルブレヒツベルガー大公家の代名詞とも言える。他の一族には扱えない、特別な力だった。それを使用する許可? 何に使うのかしら。
「次の夜会で、未来の大公妃を貶す発言をした者に、恐ろしい制裁を加える呪術ですって」
「私の、悪口を?」
「ええ、何でも男性ならアレが使い物にならなくなって、女性は顔が爛れてしまうのだとか」
「っ、それは」
何とも反応に困るわ。過保護じゃないかしら。それに特別な力を私的なことに使っても構わないの? あとで一族から苦情が出たら困るわ。眉尻を下げた私に、行儀悪く肘をついた王妃様は笑った。
「好きにさせてあげればいいわ。私だって、大切な友人の悪口が聞こえたら、足を蹴飛ばすもの」
「ありがとうございます」
お礼を言った私の目が潤む。王妃様なら、友人になりたい人は山ほどいる。なのに私を望んでくれる。ヴィルの妻になるから、そんな理由でも嬉しかった。
「大公様のお嫁さんだからじゃないわよ。私はローザ自身が気に入ってるの。出来たら親友になりたいわ」
「光栄、です。私が追いつけたらぜひ」
一瞬驚いた顔をしたロッテ様は「そんな大層な女じゃないわよ、私」と笑い飛ばした。あなたの隣で微笑む淑女になれたら、美しいあなたの隣に追いつけたら。そんな卑屈さをからりと笑い飛ばしたロッテ様と別れ、再び馬車に揺られる。
そういえば、次の夜会があるって……いつかしら。聞き忘れちゃったわ。
「何の香りでしょうか」
知識不足なのは事実だから、素直に尋ねてしまおう。そんな私に、ロッテ様は優しく黄色い花を示した。小さな花が密集して、塊のようになっている。
「あれよ、モクセイというらしいわ」
「素敵ですね、この香りは心地よいです」
「ふふっ、私も好きなの」
ロッテ様は、無知な私を見下すような話し方をなさらない。だから遠慮は徐々に消えていった。社交界で流行っている物や噂話、新しく手に入れる宝石、夫である国王陛下のこと。様々なお話を聞いて、美味しいお茶と軽食で満たされていく。
「私、こんな素敵な時間は知りませんでした」
前世を含めても、結婚まで家に閉じ込められてきた。外へ出してもらえたのは、お母様が生きていた頃まで。それ以降は、屋敷の奥で使用人よりひどい扱いを受けた。義母による嫌がらせは年々エスカレートし、アウエンミュラーの豊かな領地は食い荒らされる。それを止められなかった自分が悔しかった。
本来は貴族令嬢なら、こうやってお茶会をして交流し、家のためになる結婚相手を探す。その自由も与えられなかった。大金と引き換えに売られた私が、惨めに思える。
「そうそう、大公様がラインハルト様に呪術の許可を求めたの、ご存じ?」
「いいえ」
呪術といえば、アルブレヒツベルガー大公家の代名詞とも言える。他の一族には扱えない、特別な力だった。それを使用する許可? 何に使うのかしら。
「次の夜会で、未来の大公妃を貶す発言をした者に、恐ろしい制裁を加える呪術ですって」
「私の、悪口を?」
「ええ、何でも男性ならアレが使い物にならなくなって、女性は顔が爛れてしまうのだとか」
「っ、それは」
何とも反応に困るわ。過保護じゃないかしら。それに特別な力を私的なことに使っても構わないの? あとで一族から苦情が出たら困るわ。眉尻を下げた私に、行儀悪く肘をついた王妃様は笑った。
「好きにさせてあげればいいわ。私だって、大切な友人の悪口が聞こえたら、足を蹴飛ばすもの」
「ありがとうございます」
お礼を言った私の目が潤む。王妃様なら、友人になりたい人は山ほどいる。なのに私を望んでくれる。ヴィルの妻になるから、そんな理由でも嬉しかった。
「大公様のお嫁さんだからじゃないわよ。私はローザ自身が気に入ってるの。出来たら親友になりたいわ」
「光栄、です。私が追いつけたらぜひ」
一瞬驚いた顔をしたロッテ様は「そんな大層な女じゃないわよ、私」と笑い飛ばした。あなたの隣で微笑む淑女になれたら、美しいあなたの隣に追いつけたら。そんな卑屈さをからりと笑い飛ばしたロッテ様と別れ、再び馬車に揺られる。
そういえば、次の夜会があるって……いつかしら。聞き忘れちゃったわ。
26
お気に入りに追加
3,634
あなたにおすすめの小説
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる