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72.呪術の使用理由がおかしいわ

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 ロッテ様は侍従を下げて、お気に入りの侍女だけ残した。本当に女性だけのお茶会をするつもりのようだわ。温室は暖かく、とてもよい香りがした。

「何の香りでしょうか」

 知識不足なのは事実だから、素直に尋ねてしまおう。そんな私に、ロッテ様は優しく黄色い花を示した。小さな花が密集して、塊のようになっている。

「あれよ、モクセイというらしいわ」

「素敵ですね、この香りは心地よいです」

「ふふっ、私も好きなの」

 ロッテ様は、無知な私を見下すような話し方をなさらない。だから遠慮は徐々に消えていった。社交界で流行っている物や噂話、新しく手に入れる宝石、夫である国王陛下のこと。様々なお話を聞いて、美味しいお茶と軽食で満たされていく。

「私、こんな素敵な時間は知りませんでした」

 前世を含めても、結婚まで家に閉じ込められてきた。外へ出してもらえたのは、お母様が生きていた頃まで。それ以降は、屋敷の奥で使用人よりひどい扱いを受けた。義母による嫌がらせは年々エスカレートし、アウエンミュラーの豊かな領地は食い荒らされる。それを止められなかった自分が悔しかった。

 本来は貴族令嬢なら、こうやってお茶会をして交流し、家のためになる結婚相手を探す。その自由も与えられなかった。大金と引き換えに売られた私が、惨めに思える。

「そうそう、大公様がラインハルト様に呪術の許可を求めたの、ご存じ?」

「いいえ」

 呪術といえば、アルブレヒツベルガー大公家の代名詞とも言える。他の一族には扱えない、特別な力だった。それを使用する許可? 何に使うのかしら。

「次の夜会で、未来の大公妃を貶す発言をした者に、恐ろしい制裁を加える呪術ですって」

「私の、悪口を?」

「ええ、何でも男性ならアレが使い物にならなくなって、女性は顔が爛れてしまうのだとか」

「っ、それは」

 何とも反応に困るわ。過保護じゃないかしら。それに特別な力を私的なことに使っても構わないの? あとで一族から苦情が出たら困るわ。眉尻を下げた私に、行儀悪く肘をついた王妃様は笑った。

「好きにさせてあげればいいわ。私だって、大切な友人の悪口が聞こえたら、足を蹴飛ばすもの」

「ありがとうございます」

 お礼を言った私の目が潤む。王妃様なら、友人になりたい人は山ほどいる。なのに私を望んでくれる。ヴィルの妻になるから、そんな理由でも嬉しかった。

「大公様のお嫁さんだからじゃないわよ。私はローザ自身が気に入ってるの。出来たら親友になりたいわ」

「光栄、です。私が追いつけたらぜひ」

 一瞬驚いた顔をしたロッテ様は「そんな大層な女じゃないわよ、私」と笑い飛ばした。あなたの隣で微笑む淑女になれたら、美しいあなたの隣に追いつけたら。そんな卑屈さをからりと笑い飛ばしたロッテ様と別れ、再び馬車に揺られる。

 そういえば、次の夜会があるって……いつかしら。聞き忘れちゃったわ。
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