72 / 112
71.私は何も知らないのね
しおりを挟む
着飾って馬車に乗る。貴族令嬢なら経験するごく当たり前の風景だけど、私には新鮮だわ。最低限しか外へ出してもらえなかったから。馬車に乗り込むと、向かいへアンネが座った。侍女は同伴してもいいみたい。
ロッテ様のお手紙に、ヴィルは同席させないと書いてあった。ふふっ、女性同士のお話があるんですって。こんな経験初めてで楽しみだわ。
今日の装いはヴィルが用意してくれた。黒いドレスは、銀の刺繍がグラデーションを作る美しいプリンセスライン。ドレスの腰までは刺繍で生地が見えなくなるほど。所々に宝石も縫い止められていた。膨らんだスカートは、上に行くほど刺繍が多く、膝下はほとんど刺繍がなく黒い。艶のある絹の光沢が広がる裾は、細く銀のレースが揺れた。
派手じゃないかしら。そう呟く私に、ヴィルは微笑んで首を横に振った。未婚女性なら着飾るのは当然だし、大公の婚約者が地味なドレスで登城すれば逆に噂になるよ。そう言われたら、納得してしまう。
首飾りは迷ったけれど、婚約指輪と合わせたダイアを選んだ。私の瞳に合わせたアクアマリンも用意してもらったの。でも、婚約指輪とお揃いだから、ヴィルがいない場所でも彼を感じられる物を身につけたかった。
耳飾りまでつけると豪華すぎるので、お飾りはシンプルにした。黒に銀のドレスが目立つから、このくらいでいいわ。赤毛に薄氷色の瞳をもつ私が着ると、黒いドレスはすごく華やかになった。
馬車の窓から見える景色は目新しくて、近づく王宮に目を輝かせる。綺麗だわ。白い壁に青い屋根、蔦は緑で薔薇も咲いていた。
「王宮って近いのね」
リヒテンシュタイン公爵の屋敷も近かったけど、こんなに早く着かなかったわ。
「王都にある貴族のお屋敷は王宮の外ですが、大公家は王宮の敷地内ですから」
「……そう、なの?」
知らなかったわ。王宮の敷地って広いのね。あの広大な屋敷を飲み込んで、さらに馬車で移動するほど距離があるなんて。アンネは大公家で働くようになり、同僚や執事ベルントから色々と学んでいるらしい。私の方が知らないわね。
「到着します、侯爵様」
「アンネと二人の時に、侯爵様と呼ばれると不思議な感じ」
ふふっと笑い合い、馬車から降りる。手を貸した警護の騎士に礼を言い、案内に訪れた侍従の後を歩いた。庭園の間を抜ける道は景色も良く、今日は天気もいいから気持ちがいいわ。案内されたサバトリーは鳥籠の形をしていた。
中に入った私は、整えられた美しい庭園に目を見開く。思わず声が漏れた。
「素敵」
「褒めていただいて嬉しいわ。来てくれたのね、ローザ」
「お招きいただき、ありがとうございます。ロッテ様」
挨拶を交わし、美しい花々に囲まれた温室の中央へ進んだ。ソファとテーブルが並ぶ緑に囲まれた鳥籠は、とても居心地がいい。よく見たら、珍しい色の鳥が放たれていた。
「すごいですね」
「これ、先代のアルブレヒツベルガー大公がプレゼントしてくださったらしいわ。ヴィクトール様のお父様ね」
まぁ。後でヴィルに尋ねてみましょう。帰ってからの楽しみができたわ。
ロッテ様のお手紙に、ヴィルは同席させないと書いてあった。ふふっ、女性同士のお話があるんですって。こんな経験初めてで楽しみだわ。
今日の装いはヴィルが用意してくれた。黒いドレスは、銀の刺繍がグラデーションを作る美しいプリンセスライン。ドレスの腰までは刺繍で生地が見えなくなるほど。所々に宝石も縫い止められていた。膨らんだスカートは、上に行くほど刺繍が多く、膝下はほとんど刺繍がなく黒い。艶のある絹の光沢が広がる裾は、細く銀のレースが揺れた。
派手じゃないかしら。そう呟く私に、ヴィルは微笑んで首を横に振った。未婚女性なら着飾るのは当然だし、大公の婚約者が地味なドレスで登城すれば逆に噂になるよ。そう言われたら、納得してしまう。
首飾りは迷ったけれど、婚約指輪と合わせたダイアを選んだ。私の瞳に合わせたアクアマリンも用意してもらったの。でも、婚約指輪とお揃いだから、ヴィルがいない場所でも彼を感じられる物を身につけたかった。
耳飾りまでつけると豪華すぎるので、お飾りはシンプルにした。黒に銀のドレスが目立つから、このくらいでいいわ。赤毛に薄氷色の瞳をもつ私が着ると、黒いドレスはすごく華やかになった。
馬車の窓から見える景色は目新しくて、近づく王宮に目を輝かせる。綺麗だわ。白い壁に青い屋根、蔦は緑で薔薇も咲いていた。
「王宮って近いのね」
リヒテンシュタイン公爵の屋敷も近かったけど、こんなに早く着かなかったわ。
「王都にある貴族のお屋敷は王宮の外ですが、大公家は王宮の敷地内ですから」
「……そう、なの?」
知らなかったわ。王宮の敷地って広いのね。あの広大な屋敷を飲み込んで、さらに馬車で移動するほど距離があるなんて。アンネは大公家で働くようになり、同僚や執事ベルントから色々と学んでいるらしい。私の方が知らないわね。
「到着します、侯爵様」
「アンネと二人の時に、侯爵様と呼ばれると不思議な感じ」
ふふっと笑い合い、馬車から降りる。手を貸した警護の騎士に礼を言い、案内に訪れた侍従の後を歩いた。庭園の間を抜ける道は景色も良く、今日は天気もいいから気持ちがいいわ。案内されたサバトリーは鳥籠の形をしていた。
中に入った私は、整えられた美しい庭園に目を見開く。思わず声が漏れた。
「素敵」
「褒めていただいて嬉しいわ。来てくれたのね、ローザ」
「お招きいただき、ありがとうございます。ロッテ様」
挨拶を交わし、美しい花々に囲まれた温室の中央へ進んだ。ソファとテーブルが並ぶ緑に囲まれた鳥籠は、とても居心地がいい。よく見たら、珍しい色の鳥が放たれていた。
「すごいですね」
「これ、先代のアルブレヒツベルガー大公がプレゼントしてくださったらしいわ。ヴィクトール様のお父様ね」
まぁ。後でヴィルに尋ねてみましょう。帰ってからの楽しみができたわ。
36
お気に入りに追加
3,634
あなたにおすすめの小説
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる