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63.大切なお話があります
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アンネと一緒に寝坊をして、飛び起きた。まさか、お昼まで寝ちゃうと思わなかったの。明け方まで話していたし、少し休むだけのつもりで。目が覚めたら、お日様の位置が高くて驚いたわ。
「ごめんなさいね、アンネを付き合わせてしまったの」
顔を洗う水を運んでくれた侍女へ、先に言い訳をする。これでアンネが叱られる可能性は減るでしょう? いくら私の専属侍女でも、同室で夜更かしして、起きられなかったなんて、きっと叱られてしまうわ。そんな私へ、大公家の侍女エルマは微笑んだ。
「ご安心ください、お嬢様。事情はお伺いしております。本日はアンネも休日扱いですので、ゆっくりしてくださいませ。旦那様より、夕食をご一緒出来ないかとお誘いがございました」
いかが致しましょう。そう問うて返事を待つ彼女へ頷く。
「ご一緒しますとお伝えください」
この大公家の人は、執事も侍女も温かい。柔らかな物腰で穏やかに話し、無理に私を動かそうとしなかった。過去の公爵家は酷かったけれど、今回はそうでもなかったわ。きっと私やアンネが動いたからね。
もし、前世でも私が歩み寄っていたら……何か違ったのかしら。少しばかりの後悔が動く。国王陛下は処罰の裁量をヴィルに委ねたから、その辺のお話もしなくては。
運んでもらった軽食を食べ終え、アンネと庭に出た。気持ちと同じ、晴れた空が心地よい。日差しも強過ぎず、ちょうどよかった。
木陰を選んで座ろうとしたら、庭師にベンチを勧められた。私が座ろうとした少し先の、茂みで隠れる場所だった。これは気付けないわ。でも目隠しになっているから落ち着ける。礼を言ったら、嬉しそうだった。そうよね、貴族の令嬢や夫人でも何かしてもらったらお礼を言う。お互いに気持ちよく過ごせるはず。
午後をゆっくり過ごしていたら、侍女達に捕まった。風呂で磨かれ、香油やクリームを塗られ、まるで私が夕食の食材みたい。用意されたドレスは美しい光沢の絹がふんだんに使用された、淡いクリーム色だった。赤毛が映えると大喜びの侍女エルマの話では、ヴィルが用意してくれたのだとか。
夕食を一緒に食べるだけなのよね? 婚約者の段階で、こんなにしてもらったら申し訳ないわ。着替えて化粧をして髪を結う。当たり前の淑女の支度なのに、私には驚きの連続だった。いつの間にか、休みのはずのアンネまで加わっている。
「お美しいです、お嬢様」
「完璧です」
「旦那様も見惚れること間違いないです」
口々に褒められて、鏡の中の女性に見惚れる。こんなに変わるのね。前世でも着飾ったのなんて、結婚式くらいだった。驚いて目を見開く私は、感動してエルマやアンネに礼を繰り返す。嬉しそうな彼女達に見送られ、執事ベルントに案内された先は食堂だった。
すでにヴィルは待っている。自宅で夕食なのに、どうして盛装なのかしら。私に贈ったドレスに合わせてくれたのかもしれない。ひらひらしたレースやフリルが多用されたドレスのお礼を言って、付けてもらったお飾りを気にしながら席に着く。
「大切な話があります」
緊張した面持ちで切り出すヴィルへ、私は淡いピンクに染めた唇を噛む。なんだか、怖いわ。
「ごめんなさいね、アンネを付き合わせてしまったの」
顔を洗う水を運んでくれた侍女へ、先に言い訳をする。これでアンネが叱られる可能性は減るでしょう? いくら私の専属侍女でも、同室で夜更かしして、起きられなかったなんて、きっと叱られてしまうわ。そんな私へ、大公家の侍女エルマは微笑んだ。
「ご安心ください、お嬢様。事情はお伺いしております。本日はアンネも休日扱いですので、ゆっくりしてくださいませ。旦那様より、夕食をご一緒出来ないかとお誘いがございました」
いかが致しましょう。そう問うて返事を待つ彼女へ頷く。
「ご一緒しますとお伝えください」
この大公家の人は、執事も侍女も温かい。柔らかな物腰で穏やかに話し、無理に私を動かそうとしなかった。過去の公爵家は酷かったけれど、今回はそうでもなかったわ。きっと私やアンネが動いたからね。
もし、前世でも私が歩み寄っていたら……何か違ったのかしら。少しばかりの後悔が動く。国王陛下は処罰の裁量をヴィルに委ねたから、その辺のお話もしなくては。
運んでもらった軽食を食べ終え、アンネと庭に出た。気持ちと同じ、晴れた空が心地よい。日差しも強過ぎず、ちょうどよかった。
木陰を選んで座ろうとしたら、庭師にベンチを勧められた。私が座ろうとした少し先の、茂みで隠れる場所だった。これは気付けないわ。でも目隠しになっているから落ち着ける。礼を言ったら、嬉しそうだった。そうよね、貴族の令嬢や夫人でも何かしてもらったらお礼を言う。お互いに気持ちよく過ごせるはず。
午後をゆっくり過ごしていたら、侍女達に捕まった。風呂で磨かれ、香油やクリームを塗られ、まるで私が夕食の食材みたい。用意されたドレスは美しい光沢の絹がふんだんに使用された、淡いクリーム色だった。赤毛が映えると大喜びの侍女エルマの話では、ヴィルが用意してくれたのだとか。
夕食を一緒に食べるだけなのよね? 婚約者の段階で、こんなにしてもらったら申し訳ないわ。着替えて化粧をして髪を結う。当たり前の淑女の支度なのに、私には驚きの連続だった。いつの間にか、休みのはずのアンネまで加わっている。
「お美しいです、お嬢様」
「完璧です」
「旦那様も見惚れること間違いないです」
口々に褒められて、鏡の中の女性に見惚れる。こんなに変わるのね。前世でも着飾ったのなんて、結婚式くらいだった。驚いて目を見開く私は、感動してエルマやアンネに礼を繰り返す。嬉しそうな彼女達に見送られ、執事ベルントに案内された先は食堂だった。
すでにヴィルは待っている。自宅で夕食なのに、どうして盛装なのかしら。私に贈ったドレスに合わせてくれたのかもしれない。ひらひらしたレースやフリルが多用されたドレスのお礼を言って、付けてもらったお飾りを気にしながら席に着く。
「大切な話があります」
緊張した面持ちで切り出すヴィルへ、私は淡いピンクに染めた唇を噛む。なんだか、怖いわ。
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