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53.任せると決めたから信じるわ

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 混乱する私へ、過去に夫だった男が微笑みかける。何も知らない顔で、前世の記憶があるくせに……そう思ったら吐き気がした。それでも戦おうと思えるのは、ヴィルがいるから。

「任せてくれるかな?」

 小さく頷く。必要な部分では私も口を開くけれど、ヴィルに任せるわ。裏切られて傷ついても、また人を信じると決めたから。アンネとヴィルは疑わない。さっき唇に触れた指は、ほんの僅かだけど震えていた。彼は何か知っているのかも知れないわ。前世を口走りかけた私を止めてくれた。

「じゃあ、詳しい話は改めよう」

 何かの約束を取り付けたようにしか見えない、微笑んだ彼の気遣いに「ええ」と同意した。ぎこちなさが残るけど、同じように微笑んで見せる。だって、これから私は解放されるのですもの。悲壮感漂う顔は似合わないわ。

 苛立ったのか、レオナルドがもう一度声を上げた。

「国王陛下、発言をお許しいただきたい」

「許さずとも勝手に発言しておるではないか」

 口調に棘を感じ、レオナルドはぐっと黙った。唇を引き結んでしばらく耐えた後、膝を突いてもう一度願い出た。この辺りは元父と大きく違うわね。

「話せ」

 王妃シャルロッテ様の髪を撫でたり、引き寄せたりと興味なさそうにしながらも許可を出す。国王陛下が発言権を与えないと、いつまでも始まらない。シャルロッテ様が私に視線を向けた。小さく頷いて、なんとか微笑みに近い表情を浮かべる。シャルロッテ様がゆっくり、まるで頷くように瞬いた。それがお返事なのね。

「そちらのアルブレヒツベルガー大公閣下は先日、私の屋敷に乱入して妻を連れ去りました。これは誘拐です。私と妻は教会で永遠の愛を誓い合った夫婦なのです。どうぞお返しくださるよう、お命じください」

「っ!」

 咄嗟に反論しようとしたけれど、ヴィルの指が再び私の唇を押さえた。そうよね、任せると決めたなら口出ししてはいけないわ。

「ラインハルト、いいかい?」

「もちろんだ、我が友よ」

 国王陛下はヴィルとの親密さをアピールするけれど、直接リヒテンシュタイン公爵と対決する気はないみたい。これもヴィルの予定通りかしら。

「あの時にきちんと説明したが、その出来の悪い頭は理解できなかったと見える。順番にもう一度説明してやるから、今度こそ理解しろ」

 傲慢で強気なアルブレヒツベルガー大公。この王国で唯一、国王に意見出来る権力を持ち、独立国家を樹立することも可能な人。私の腰を撫でてるけど、凄い人だった。狼狽えずに身を委ねて待てばいい。元夫が崩れて落ちてくるのを……私はそれで復讐できたら満足よ。

 出来たら、レオナルドの従姉妹だというあの女も処罰したいけど、その辺は後で相談しましょう。今は目の前のレオナルドのことが優先よ。緊張に乾いた喉がごくりと揺れた。
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