【完結】愛してないなら触れないで

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
28 / 112

27.こんなに立派なのに別邸?

しおりを挟む
 減速した馬車が、ゆっくりと止まる。御者台から降りる音がして、外からノックされた。こんな丁寧な扱い初めてだけど、これが王族に並ぶ大公家なのね。

 ノックに身を起こそうとした私を、アンネが支える。さすがに横たわったままは失礼だわ。そう考えたけれど、ヴィクトール様は違うみたい。

「ローザリンデ嬢、まだ動かないで。アンネもそのままだ」

「「はい」」

 私達は二人で同時に返事をして、アンネがまた私を横たえた。扉を開けても顔が見えない位置にアンネが移動し、確認したヴィクトール様が声をかける。

「なんだ」

「お屋敷に到着いたしました」

「わかった」

 大公閣下としての口調と、あの丁寧でゆったりした話し方のギャップが凄いわ。従者が動く音がして、内側の鍵が解除される。ここでようやく扉が開いた。

「ローザリンデ嬢、仮の屋敷で申し訳ありませんが、ここで休みましょう」

 こくんと頷く。声を出さない方がいいかしら、ふとそう思ったの。だって、ここが大公家所有の屋敷なら……使用人達は私をよく思わないはずよ。当主が、他の公爵夫人を連れ去ってきたんだもの。

 でも…… 彼の手を取るしかないわ。私には帰る場所がないから、休める家が必要なの。この馬車を降りるのだって、一人ではきっと無理よ。体がまだ辛いけど、足のケガが完治していないアンネに寄り掛かることも不可能だった。

 ずるいのは承知で、この方を利用しましょう。代わりにあなたが私を利用しても、恨まないわ。

 黒髪で顔を半分隠したヴィクトール様は、馬車の中で膝を突いて私を抱き上げた。首に手を回して体を預ける。落ちないように、何より誰かの顔を見なくていいように。彼の首筋に顔を埋めた。

「失礼、落とさないから安心して」

 囁く声が優しくて、そろりと顔を上げてしまった。銀の瞳がとろりと溶けそうな柔らかさで、私を映し出す。何故だか恥ずかしくなった。でも目を逸らせない。

「ここにあなたを傷付ける者はいません」

 こくんと小さく頷く。気持ちは信じきれていなくても、私達がいま頼れるのはヴィクトール様だけ。リヒテンシュタイン公爵家に対抗できる彼に縋るしかないの。

 馬車を降りた先の景色に、アンネが息を呑んだ。私も状況を忘れて目を見開く。門の内側に入ってどのくらい進んでいたのか。他の屋敷や隣の家は見えなかった。美しく手入れが行き届いた庭、玄関前の噴水とロータリー、大き過ぎて現実感の薄いお屋敷……これで、本邸じゃないのよね?

 玄関前にずらりと並んで出迎える侍従や侍女の数が、怖いわ。こんな数、リヒテンシュタインでも見なかった。下働きまで入れて数えても、この数には届かないのではないかしら。

「お帰りなさいませ、大公様。お部屋の用意が終わっております」

 執事らしき身なりのいい男性が、ゆったり頭を下げる。それから彼は、大公ヴィクトール様に抱かれた私に微笑んだ。

「お初にお目にかかります。由緒正しきアウエンミュラー侯爵家のお嬢様をお迎えできますこと。アルブレヒツベルガー大公家の使用人を代表して、歓迎致します。ごゆるりとお寛ぎくださいませ」
しおりを挟む
感想 288

あなたにおすすめの小説

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。

田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。 ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。 私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。 王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。

【完結】で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?

Debby
恋愛
キャナリィ・ウィスタリア侯爵令嬢とクラレット・メイズ伯爵令嬢は困惑していた。 最近何故か良く目にする平民の生徒──エボニーがいる。 とても可愛らしい女子生徒であるが視界の隅をウロウロしていたりジッと見られたりするため嫌でも目に入る。立場的に視線を集めることも多いため、わざわざ声をかけることでも無いと放置していた。 クラレットから自分に任せて欲しいと言われたことも理由のひとつだ。 しかし一度だけ声をかけたことを皮切りに身に覚えの無い噂が学園内を駆け巡る。 次期フロスティ公爵夫人として日頃から所作にも気を付けているキャナリィはそのような噂を信じられてしまうなんてと反省するが、それはキャナリィが婚約者であるフロスティ公爵令息のジェードと仲の良いエボニーに嫉妬しての所業だと言われ── 「私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 そう問うたキャナリィは 「それはこちらの台詞だ。どうしてエボニーを執拗に苛めるのだ」 逆にジェードに問い返されたのだった。 ★★★★★★ 覗いて下さりありがとうございます。 女性向けHOTランキングで最高20位までいくことができました。(本編) 沢山の方に読んでいただけて嬉しかったので、続き?を書きました(*^^*) ★花言葉は「恋の勝利」  本編より過去→未来  ジェードとクラレットのお話 ★ジェード様の憂鬱【読み切り】  ジェードの暗躍?(エボニーのお相手)のお話

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...