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27.こんなに立派なのに別邸?
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減速した馬車が、ゆっくりと止まる。御者台から降りる音がして、外からノックされた。こんな丁寧な扱い初めてだけど、これが王族に並ぶ大公家なのね。
ノックに身を起こそうとした私を、アンネが支える。さすがに横たわったままは失礼だわ。そう考えたけれど、ヴィクトール様は違うみたい。
「ローザリンデ嬢、まだ動かないで。アンネもそのままだ」
「「はい」」
私達は二人で同時に返事をして、アンネがまた私を横たえた。扉を開けても顔が見えない位置にアンネが移動し、確認したヴィクトール様が声をかける。
「なんだ」
「お屋敷に到着いたしました」
「わかった」
大公閣下としての口調と、あの丁寧でゆったりした話し方のギャップが凄いわ。従者が動く音がして、内側の鍵が解除される。ここでようやく扉が開いた。
「ローザリンデ嬢、仮の屋敷で申し訳ありませんが、ここで休みましょう」
こくんと頷く。声を出さない方がいいかしら、ふとそう思ったの。だって、ここが大公家所有の屋敷なら……使用人達は私をよく思わないはずよ。当主が、他の公爵夫人を連れ去ってきたんだもの。
でも…… 彼の手を取るしかないわ。私には帰る場所がないから、休める家が必要なの。この馬車を降りるのだって、一人ではきっと無理よ。体がまだ辛いけど、足のケガが完治していないアンネに寄り掛かることも不可能だった。
ずるいのは承知で、この方を利用しましょう。代わりにあなたが私を利用しても、恨まないわ。
黒髪で顔を半分隠したヴィクトール様は、馬車の中で膝を突いて私を抱き上げた。首に手を回して体を預ける。落ちないように、何より誰かの顔を見なくていいように。彼の首筋に顔を埋めた。
「失礼、落とさないから安心して」
囁く声が優しくて、そろりと顔を上げてしまった。銀の瞳がとろりと溶けそうな柔らかさで、私を映し出す。何故だか恥ずかしくなった。でも目を逸らせない。
「ここにあなたを傷付ける者はいません」
こくんと小さく頷く。気持ちは信じきれていなくても、私達がいま頼れるのはヴィクトール様だけ。リヒテンシュタイン公爵家に対抗できる彼に縋るしかないの。
馬車を降りた先の景色に、アンネが息を呑んだ。私も状況を忘れて目を見開く。門の内側に入ってどのくらい進んでいたのか。他の屋敷や隣の家は見えなかった。美しく手入れが行き届いた庭、玄関前の噴水とロータリー、大き過ぎて現実感の薄いお屋敷……これで、本邸じゃないのよね?
玄関前にずらりと並んで出迎える侍従や侍女の数が、怖いわ。こんな数、リヒテンシュタインでも見なかった。下働きまで入れて数えても、この数には届かないのではないかしら。
「お帰りなさいませ、大公様。お部屋の用意が終わっております」
執事らしき身なりのいい男性が、ゆったり頭を下げる。それから彼は、大公ヴィクトール様に抱かれた私に微笑んだ。
「お初にお目にかかります。由緒正しきアウエンミュラー侯爵家のお嬢様をお迎えできますこと。アルブレヒツベルガー大公家の使用人を代表して、歓迎致します。ごゆるりとお寛ぎくださいませ」
ノックに身を起こそうとした私を、アンネが支える。さすがに横たわったままは失礼だわ。そう考えたけれど、ヴィクトール様は違うみたい。
「ローザリンデ嬢、まだ動かないで。アンネもそのままだ」
「「はい」」
私達は二人で同時に返事をして、アンネがまた私を横たえた。扉を開けても顔が見えない位置にアンネが移動し、確認したヴィクトール様が声をかける。
「なんだ」
「お屋敷に到着いたしました」
「わかった」
大公閣下としての口調と、あの丁寧でゆったりした話し方のギャップが凄いわ。従者が動く音がして、内側の鍵が解除される。ここでようやく扉が開いた。
「ローザリンデ嬢、仮の屋敷で申し訳ありませんが、ここで休みましょう」
こくんと頷く。声を出さない方がいいかしら、ふとそう思ったの。だって、ここが大公家所有の屋敷なら……使用人達は私をよく思わないはずよ。当主が、他の公爵夫人を連れ去ってきたんだもの。
でも…… 彼の手を取るしかないわ。私には帰る場所がないから、休める家が必要なの。この馬車を降りるのだって、一人ではきっと無理よ。体がまだ辛いけど、足のケガが完治していないアンネに寄り掛かることも不可能だった。
ずるいのは承知で、この方を利用しましょう。代わりにあなたが私を利用しても、恨まないわ。
黒髪で顔を半分隠したヴィクトール様は、馬車の中で膝を突いて私を抱き上げた。首に手を回して体を預ける。落ちないように、何より誰かの顔を見なくていいように。彼の首筋に顔を埋めた。
「失礼、落とさないから安心して」
囁く声が優しくて、そろりと顔を上げてしまった。銀の瞳がとろりと溶けそうな柔らかさで、私を映し出す。何故だか恥ずかしくなった。でも目を逸らせない。
「ここにあなたを傷付ける者はいません」
こくんと小さく頷く。気持ちは信じきれていなくても、私達がいま頼れるのはヴィクトール様だけ。リヒテンシュタイン公爵家に対抗できる彼に縋るしかないの。
馬車を降りた先の景色に、アンネが息を呑んだ。私も状況を忘れて目を見開く。門の内側に入ってどのくらい進んでいたのか。他の屋敷や隣の家は見えなかった。美しく手入れが行き届いた庭、玄関前の噴水とロータリー、大き過ぎて現実感の薄いお屋敷……これで、本邸じゃないのよね?
玄関前にずらりと並んで出迎える侍従や侍女の数が、怖いわ。こんな数、リヒテンシュタインでも見なかった。下働きまで入れて数えても、この数には届かないのではないかしら。
「お帰りなさいませ、大公様。お部屋の用意が終わっております」
執事らしき身なりのいい男性が、ゆったり頭を下げる。それから彼は、大公ヴィクトール様に抱かれた私に微笑んだ。
「お初にお目にかかります。由緒正しきアウエンミュラー侯爵家のお嬢様をお迎えできますこと。アルブレヒツベルガー大公家の使用人を代表して、歓迎致します。ごゆるりとお寛ぎくださいませ」
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