【完結】愛してないなら触れないで

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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23.アウエンミュラーの未婚令嬢

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「正規の手順に従った婚姻を、無効に? そんな横暴がっ!」

「横暴だと? 妻を金で購入する行為はどう説明する。彼女の対価に幾ら払ったか、この場で金額を公表してやってもいいぞ」

 侍女がいる部屋で、という意味ではないわ。おそらく世間に公表するつもり。そうしたら私の結婚が、人身売買と認識される。白い結婚であることも手伝い、白い離婚の申し立てが可能だった。思わず、アンネの手を強く握る。彼女も握り返してきた。

 これだけで通じるくらい、私とアンネの間にある絆は強くなっていた。視線を合わせることがなく、手が触れていなくても、きっと今なら感情を共有できる。起き上がるべきか、このまま待つべきか。迷う私の耳に、再び彼らの会話が入ってきた。

「そんなことをすれば、ローザの名誉が」

「傷つくのは彼女の名誉ではなく、お前の名誉だ。金で買われた女に罪はない。少なくとも、俺や国王ラインハルトはそう口にするさ」

 絶対王政のウーリヒ王国で、罪はないと陛下が口にしたら……誰も何も反論できない。そんな陛下の御名を呼び捨てた? この男性は誰なの? 好奇心が顔を覗かせる。

 ゆっくり身を起こした私を、アンネが支えた。クッションの間に身を沈め、乱れた髪を整えるフリで顔を隠す。手早くアンネが回り込み、私の髪や襟元を直した。

「さっさと廊下に出ろ」

「っ! 扉は開けておきます」

 現時点でまだリヒテンシュタイン公爵夫人である私と、来客の男性を二人で部屋に残すわけにいかない。そんな建前を口にして、レオナルドは外へ出た。傲慢で他人の意見なんて聞かないあの男が、渋々ながらも従う姿に驚く。口元を手で隠した。そうじゃないと、心の声が漏れてしまいそう。

ローザリンデ殿、療養中のの居室へ足を踏み入れる無礼をお詫びいたします」

 レオナルドに対する強気な口調が嘘のように、穏やかな声と表情で客人は頭を下げた。高位貴族が、同位貴族との挨拶に使う会釈だわ。私をアウエンミュラーの名で呼び、未婚令嬢と評した。この方は信じられるのかしら。それとも夫が寄越した敵? 新しい執事ではないと思う。

 アンネは困ったような顔をしていた。判断する材料が少な過ぎるもの。当然よね。私もどう判断したらいいか分からず、一般的な挨拶にとどめた。

「お気になさらず。私の方こそ、このような姿で申し訳ありません。ご尊名を得る栄誉をいただけますか」

 明らかに目上の地位にある黒髪の青年は、眉尻を下げて困ったような顔をする。不思議ね、あんなに高圧的に夫レオナルドを退けたのに。国王陛下を呼び捨てにする方には見えない。ウーリヒ王国の公爵を邪険に扱った姿が嘘のよう。

「アルブレヒツベルガー大公ヴィクトールと申します。麗しきローザリンデ嬢にお目にかかれて光栄です」

 想像以上の肩書きに驚いた私は、目を見開いたまま動けなくなってしまった。そんな雲の上の人が、なぜ私を?
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