9 / 112
08.奥様のご無事が最優先よ――SIDEアンネ
しおりを挟む
落下する奥様を咄嗟に支えて、受け止めきれずに数段落ちる。このまま私が引っくり返ったら、奥様がケガをしてしまうわ。
「左、あし……」
訴える奥様の声を心に刻み、無理やり足を下へ伸ばし踏ん張った。どこかで堪えなくては、たとえこの足が折れたとしても。奥様に傷を残すわけにいかない。捻った足も、打ち付けた腰も痛かった。でもやっと止まったわ。
21段の階段が弧を描いていたことが幸いした。直線だったら、間違いなく下まで落ちたはず。ほっとしながら、奥様の体を確認していく。青い唇で震える奥様の白い顔が気になった。
先ほど、左足と仰ったけど……? 見た目に異常はなさそうだが、挫いているのかしら。そこへ駆けつけた侍従や侍女が騒ぎ始める。階段を降りて近づく執事を見た瞬間、ぞくりとした。何がおかしいのか、分からないまま奥様を抱き締める。
彼を近づけてはいけない。それは本能的な恐怖だった。奥様を守る私の本能に近い部分が、執事を拒絶する。震えながら口を開こうとした私に、慌てた様子の旦那様の声が届いた。
「どけっ! 何をしている!! すぐに部屋に運んで医者を呼ぶんだ」
階段を駆け登る旦那様が膝を突き、奥様の様子を確かめる。血の気が引いた顔色と青い唇に異常を察したらしい。抱き上げて私を振り返った。
「お前は無事か? 歩けるならついて来い」
「はいっ!」
右足が痛むが、奥様から離れる選択肢はない。だって、あの執事が怖い。他の侍女や侍従も信用できなかった。この屋敷で奥様を守るのは私の役目よ。
ぐっと力を込めて立ち上がった。誰かが悲鳴を上げたが、無視する。少し血が流れてるのは知ってるけど、そんなの大したことない。奥様の方が心配だった。右足を引き摺って続く。旦那様に抱き上げられた奥様の姿に、悔しさが込み上げた。
まだあの女がいないのに仕掛けられたなんて。前世ではなかった。奥様を抱き上げる筋力がないことを、心の底から悔やむ。侍女ではなく騎士なら……奥様をすぐに支えて抱き上げることが出来た。この細い腕で、どこまでやれるかしら。
奥様の部屋の扉を開け、奥様はベッドに横たえられた。ここで昨夜の寝室ではなく、奥様が使用した客間であることに安堵する。目が覚めた時、きっとこの部屋の方が好ましいはず。侍女により運ばれた湯や水とタオルを受け取る。
水に浸して絞ったタオルで、奥様が気にしておられた左足を冷やそうとして……私は動きを止めた。
「っ! 何、これ」
さっきまで何もなかったのに、奥様の左足は倍ほどの太さに腫れていた。紫色に染まった肌が痛々しい。
「医者だ! 急げ! それから、今日屋敷に出入りした者をすべて書き出して報告しろ。早くしないか」
旦那様の叱咤が飛び、指示に侍女長や侍従長が駆け出した。執事が一礼して部屋を出ようとする。その姿に、私は階段での恐怖と違和感の正体に気づいた。
「左、あし……」
訴える奥様の声を心に刻み、無理やり足を下へ伸ばし踏ん張った。どこかで堪えなくては、たとえこの足が折れたとしても。奥様に傷を残すわけにいかない。捻った足も、打ち付けた腰も痛かった。でもやっと止まったわ。
21段の階段が弧を描いていたことが幸いした。直線だったら、間違いなく下まで落ちたはず。ほっとしながら、奥様の体を確認していく。青い唇で震える奥様の白い顔が気になった。
先ほど、左足と仰ったけど……? 見た目に異常はなさそうだが、挫いているのかしら。そこへ駆けつけた侍従や侍女が騒ぎ始める。階段を降りて近づく執事を見た瞬間、ぞくりとした。何がおかしいのか、分からないまま奥様を抱き締める。
彼を近づけてはいけない。それは本能的な恐怖だった。奥様を守る私の本能に近い部分が、執事を拒絶する。震えながら口を開こうとした私に、慌てた様子の旦那様の声が届いた。
「どけっ! 何をしている!! すぐに部屋に運んで医者を呼ぶんだ」
階段を駆け登る旦那様が膝を突き、奥様の様子を確かめる。血の気が引いた顔色と青い唇に異常を察したらしい。抱き上げて私を振り返った。
「お前は無事か? 歩けるならついて来い」
「はいっ!」
右足が痛むが、奥様から離れる選択肢はない。だって、あの執事が怖い。他の侍女や侍従も信用できなかった。この屋敷で奥様を守るのは私の役目よ。
ぐっと力を込めて立ち上がった。誰かが悲鳴を上げたが、無視する。少し血が流れてるのは知ってるけど、そんなの大したことない。奥様の方が心配だった。右足を引き摺って続く。旦那様に抱き上げられた奥様の姿に、悔しさが込み上げた。
まだあの女がいないのに仕掛けられたなんて。前世ではなかった。奥様を抱き上げる筋力がないことを、心の底から悔やむ。侍女ではなく騎士なら……奥様をすぐに支えて抱き上げることが出来た。この細い腕で、どこまでやれるかしら。
奥様の部屋の扉を開け、奥様はベッドに横たえられた。ここで昨夜の寝室ではなく、奥様が使用した客間であることに安堵する。目が覚めた時、きっとこの部屋の方が好ましいはず。侍女により運ばれた湯や水とタオルを受け取る。
水に浸して絞ったタオルで、奥様が気にしておられた左足を冷やそうとして……私は動きを止めた。
「っ! 何、これ」
さっきまで何もなかったのに、奥様の左足は倍ほどの太さに腫れていた。紫色に染まった肌が痛々しい。
「医者だ! 急げ! それから、今日屋敷に出入りした者をすべて書き出して報告しろ。早くしないか」
旦那様の叱咤が飛び、指示に侍女長や侍従長が駆け出した。執事が一礼して部屋を出ようとする。その姿に、私は階段での恐怖と違和感の正体に気づいた。
46
お気に入りに追加
3,645
あなたにおすすめの小説

呪われた指輪を王太子殿下から贈られましたけど、妹が盗んでくれたので私は無事でした。
田太 優
恋愛
王太子殿下との望まない婚約はお互いに不幸の始まりだった。
後に関係改善を望んだ王太子から指輪が贈られたけど嫌な気持ちしか抱けなかった。
でもそれは私の勘違いで、嫌な気持ちの正体はまったくの別物だった。
――指輪は呪われていた。
妹が指輪を盗んでくれたので私は無事だったけど。

結婚式間近に発覚した隠し子の存在。裏切っただけでも問題なのに、何が悪いのか理解できないような人とは結婚できません!
田太 優
恋愛
結婚して幸せになれるはずだったのに婚約者には隠し子がいた。
しかもそのことを何ら悪いとは思っていない様子。
そんな人とは結婚できるはずもなく、婚約破棄するのも当然のこと。

男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。
田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。
ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。
私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。
王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります
すもも
恋愛
学園の卒業パーティ
人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。
傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。
「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」
私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる