【完結】左目をやる契約をしたら、極上の美形悪魔に言い寄られています

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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59.愛する子らを失っても

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*****SIDE レティシア


「私を殺すのですか?」

 突然現れた魔王を毅然と見上げる姿に、恐怖心はない。堂々と立つ私の前で、セイルはゆっくり首を横に振った。黒いローブを捌いて膝をつき、目の前の女神に敬意を表する。私はそんな役割を望んだことはないのに……。

「いいえ、お還しする為に伺いました」

「……還す?」

 怪訝そうな私の問い返しに、アモル、キメリエス、ラウムが姿を見せた。セイルの後ろで同様に膝をつく上級悪魔や堕天使の様子に、私は諦めの表情で微笑む。

 これで『終わり』なのだと……そして『また始まる』のだろう。世界はどこまでも澄み渡り、美しくも残酷に人の願いを切り捨てる。もう、何もかも手遅れと言い切られた。

「……そう、ですか」

 愛する子らを失っても、私は生きなければならない。いや死ぬことが許されない。女神であるより、ただの人の子でありたかった。でも、もう幕が下りてしまうのね。止める手段はなかった。

 最初に動いたのはセイルだった。呼び出したデスサイズを小さなナイフのような形状に直すと、その刃を己の首に押し当てる。

「レディの前で失礼するぜ」

 ウィンクして茶化した直後、躊躇いなくその刃を引いた。吹き出た血がレティシアの白いドレスを汚す。踏み出した彼女の靴は赤く塗れ、がくりと崩折れたセイルの手からナイフを奪ったアモルが続いた。友の手から拾い上げたナイフでラウムがわが身を切り裂き、キメリエスは己の胸につきたてる。

 4人が倒れる床の上、哀しく切ない思いが広がる。衣の裾を捌いて、ゆっくり膝を折った。そこへ姿を見せた顔なじみの影がかかる。

「あなたたちも……?」

 腰の上まで血で汚したドレスで項垂れる女神の部屋で、クルスとリリトは一礼する。

「申しましたでしょう? レティシア様、気持ちは常にお側におりますわ」

 キレイに笑ったリリトが赤く染まった刃で己の首を刺し、最後にクルスが心臓に刃を埋め込んだ。赤に彩られた衣で、女神は誰もいなくなった場で涙を零す。頬を伝った雫が赤に落ちて混じったとき、世界は色を失い……新たな光が生まれた。
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