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56.そうだな、滅ぼしちゃおう!
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「それで、どうする? セイル」
直球で問いを投げかけた旧友ラウムへ、オレは軽く首をかしげた。
「何が?」
「……神を滅ぼすのか?」
キメリエスが補完した問いに目を見開き、長い三つ編みの穂先を指でまわす。考え事をする仕草はどこか幼く感じられた。そんなオレの三つ編みを横からさらい、きゅっと掴んだアモルが抱きつく。不安そうなアモルの頬に触れながら、オレは決めた。
「そうだな……滅ぼしちゃおう!」
簡単そうに告げた魔王へ、周囲の悪魔達は笑みを浮かべながらひとつ頷いた。
銀色の刃を手首に走らせる。
記された一線から流れる赤が、大地にじわり吸い込まれた。光が走るように、赤い血は円を描き出す。その動きは淀みなく、もともと刻まれていたように魔方陣を浮かびあがらせた。
「セイル……ここ」
しゃがみ込んだアモルが一部を指差す。魔方陣の文字を指差し、黒髪の吸血鬼は小首をかしげた。
「間違ってるぞ」
「え? あ、本当だ。時間軸違うわ」
同じようにしゃがみ込んで、指先で文字を修正する姿は――お世辞にも格好いいとはいえない。「『魔王』の肩書きが嘘のようだ」と頭を抱えるキメリエスと、「相変わらず」と苦笑いするラウムへ、オレは手招きした。
「キメリエスは北、アモルが南、ラウムは東を頼む」
ひとり足りない。誰もがそう思うが、口にすることはなかった。
今の彼は神の側の存在で、かつて袂をわかった存在だ。西へデスサイズを置き、オレは魔方陣の中央でひとつ息を吐いた。ゆっくり目を伏せるオレの髪がふわりと揺れ、続いて裾が風にはためく。
『我が名をもって、契約を履行せよ』
オレが人柱となったことで凍結された、古の契約が甦る。
周囲の風の色が変わった気がした。冷たい風が吹き、ついで暖かな風が戻ってくる。見回した風景は、何も変わらないように思われた。だが、見えない変化は確実に広がっていく。
世界の理――かつて人柱となる前、潜ませた仕掛けが世界を変革する。力ある存在だけが気付く歪みを正す契約が、じわりと侵食した。
「これでよし、っと」
魔方陣が消えるのを待って、ふわり宙を舞ったアモルがオレの隣に戻る。当たり前のように、傷になった手首を持ち上げて舌を這わせた。滲んでいた血を舐めとるたびに、傷が消える。
「……っ」
「痛かったか?」
気遣うような口調ながら、楽しそうに笑うアモルは唇についた血を舐め取る。無邪気な恋人を引き寄せて、その黒髪にキスを降らせた。まだ記憶は途切れ途切れで混乱しているが、アモルを大切に思う気持ちが溢れる。
「どうする?」
これからの展開を尋ねるキメリエスへ、オレはゆったり向き直った。抱きついたアモルを咄嗟に支え、ラウムとキメリエスに視線を合わせる。三つ編みの穂先を掴んだアモルが小首をかしげた。
「神を滅ぼすなら、かつての『神』が必要だぞ」
今の唯一神を滅ぼせば、悪魔も人も滅びる。創造した存在に引きずられる法則は絶対のもので、覆せるのは新たな創造主しかいなかった。そして、かつての『古代神』は喪われている。
アモルの指摘に、キメリエスが同意した。
「隠れた古代神を見つけねばなるまい」
「いや……それなら問題ない」
あっさり悪魔達の懸念を否定したオレの口元が弧を描く。自信ありげな笑みに、ラウムが眉を顰めた。
「どういうことだ?」
さきほどの魔方陣と契約の履行に関係があるのか? 尋ねる眼差しを受け、オレはデスサイズへ視線を落とす。僅かに震える相棒を引き寄せ、その柄に唇を寄せた。
「コイツが鍵だ。古代神を甦らせる――」
直球で問いを投げかけた旧友ラウムへ、オレは軽く首をかしげた。
「何が?」
「……神を滅ぼすのか?」
キメリエスが補完した問いに目を見開き、長い三つ編みの穂先を指でまわす。考え事をする仕草はどこか幼く感じられた。そんなオレの三つ編みを横からさらい、きゅっと掴んだアモルが抱きつく。不安そうなアモルの頬に触れながら、オレは決めた。
「そうだな……滅ぼしちゃおう!」
簡単そうに告げた魔王へ、周囲の悪魔達は笑みを浮かべながらひとつ頷いた。
銀色の刃を手首に走らせる。
記された一線から流れる赤が、大地にじわり吸い込まれた。光が走るように、赤い血は円を描き出す。その動きは淀みなく、もともと刻まれていたように魔方陣を浮かびあがらせた。
「セイル……ここ」
しゃがみ込んだアモルが一部を指差す。魔方陣の文字を指差し、黒髪の吸血鬼は小首をかしげた。
「間違ってるぞ」
「え? あ、本当だ。時間軸違うわ」
同じようにしゃがみ込んで、指先で文字を修正する姿は――お世辞にも格好いいとはいえない。「『魔王』の肩書きが嘘のようだ」と頭を抱えるキメリエスと、「相変わらず」と苦笑いするラウムへ、オレは手招きした。
「キメリエスは北、アモルが南、ラウムは東を頼む」
ひとり足りない。誰もがそう思うが、口にすることはなかった。
今の彼は神の側の存在で、かつて袂をわかった存在だ。西へデスサイズを置き、オレは魔方陣の中央でひとつ息を吐いた。ゆっくり目を伏せるオレの髪がふわりと揺れ、続いて裾が風にはためく。
『我が名をもって、契約を履行せよ』
オレが人柱となったことで凍結された、古の契約が甦る。
周囲の風の色が変わった気がした。冷たい風が吹き、ついで暖かな風が戻ってくる。見回した風景は、何も変わらないように思われた。だが、見えない変化は確実に広がっていく。
世界の理――かつて人柱となる前、潜ませた仕掛けが世界を変革する。力ある存在だけが気付く歪みを正す契約が、じわりと侵食した。
「これでよし、っと」
魔方陣が消えるのを待って、ふわり宙を舞ったアモルがオレの隣に戻る。当たり前のように、傷になった手首を持ち上げて舌を這わせた。滲んでいた血を舐めとるたびに、傷が消える。
「……っ」
「痛かったか?」
気遣うような口調ながら、楽しそうに笑うアモルは唇についた血を舐め取る。無邪気な恋人を引き寄せて、その黒髪にキスを降らせた。まだ記憶は途切れ途切れで混乱しているが、アモルを大切に思う気持ちが溢れる。
「どうする?」
これからの展開を尋ねるキメリエスへ、オレはゆったり向き直った。抱きついたアモルを咄嗟に支え、ラウムとキメリエスに視線を合わせる。三つ編みの穂先を掴んだアモルが小首をかしげた。
「神を滅ぼすなら、かつての『神』が必要だぞ」
今の唯一神を滅ぼせば、悪魔も人も滅びる。創造した存在に引きずられる法則は絶対のもので、覆せるのは新たな創造主しかいなかった。そして、かつての『古代神』は喪われている。
アモルの指摘に、キメリエスが同意した。
「隠れた古代神を見つけねばなるまい」
「いや……それなら問題ない」
あっさり悪魔達の懸念を否定したオレの口元が弧を描く。自信ありげな笑みに、ラウムが眉を顰めた。
「どういうことだ?」
さきほどの魔方陣と契約の履行に関係があるのか? 尋ねる眼差しを受け、オレはデスサイズへ視線を落とす。僅かに震える相棒を引き寄せ、その柄に唇を寄せた。
「コイツが鍵だ。古代神を甦らせる――」
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