【完結】左目をやる契約をしたら、極上の美形悪魔に言い寄られています

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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47.男を抱けるか? ※微

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「これで、お前は俺のものだ」

 悪魔らしからぬ、本心から幸せだと告げる笑みでアモルが手を伸ばす。反射的に受け止めたオレの首にするりと白い手が絡みついた。

 ああ、囚われた。そう思う反面、どこかでほっとしている。ここまで誠意を見せて歩み寄る奴が、この悪魔以外にいたか? 人外に等しい強い力を持つことは、誰かを救うことが出来る。その反面、仲間からも異端だと罵られ避けられるのが常だった。

 いまのように強さを装う術を覚えるまでは、悪魔退治で負った傷の痛みを隠して泣いた。誰も触れようとしない、穢れを纏う自分が悪いのだと……それをクルスが必死で払拭しようと働きかけても、結局人間は弱い自分より優れた者を認めはしない。

 悪魔祓いの仕事に就いたオレは、悪魔同様の扱いを受けた。ラウムも口にしないが、似たような経験をしているだろう。触れる冷たい指先は肌を粟立たせるのに、それでも触れてくれるのはこの悪魔だけ。欲しい物を与えようとしたのは、アモルだけだった。

「同時に、お前はオレの物だろう?」

 悪魔を所有する悪魔祓いなど、この世界で初だろう。濡れたような黒髪はわずかに緑を帯びて光り、象牙色の肌は柔らかい。オレが知るどの生き物より美しく、魅惑的な外見と仕草で誘う。堕ちろと言われたら断るが、彼をこちら側に堕としたらどうなる? 青く澄んだ瞳が細められた。

「セイル……ずっと待っていた」

 彼の口にしたずっとの長さが、ひどく重く響く。オレと知り合ったあの教会より前に、知っているのだろうか。接吻けを強請るアモルが腕を引き寄せ、オレは逆らずに目を閉じた。触れた唇はわずかに冷たいのに、口の中に誘い込む舌は甘く温かい。

「俺におまえを食わせろ」

 淫魔のように妖艶に誘う悪魔に、これが彼の手管かと納得した。人の精気を食らうのだろう。だから男の姿で男を誘う。より魅惑的に見える姿も仕草もすべて身について、すでに彼の一部なのだ。ならば食らっても、食らわれても同じだった。

 契約したこの身は彼の物だ。死体が転がる教会は、祭壇のマリアまで返り血で汚れていた。なのに、手前に敷かれた赤い絨毯の上で、オレは禁忌を犯す。悪魔と契約し身体を重ねる行為が、どれほどの裏切り行為か知った上で、アモルが示した100年の対価を払わなければならない。

 するりと肩から衣を落とすアモルの肌は、暗い教会の中で白く輝いて見えた。血の臭いが充満した屋内が、なぜか心地よく感じる。他に生きた者がいない教会のステンドグラスが、鮮やかな光を祭壇へと降らせていた。

「……男を抱けるか?」

 尋ねたアモルの表情に、ごくりと唾を嚥下した。オレが抱く、のか?

「たぶん」

 初めてだけど。そう告げずとも、不安が滲んだ声にアモルの唇が弧を描いた。わずかに牙が覗く。オレの腰の上に馬乗りになったアモルは、身に着けた服をすべて脱いでしまった。寝転がったオレの困惑をよそに、アモルは勝手に首や肩に接吻ける。

「ん……」

 吸い上げて肌に痕を残しているのだろう。ちくりと痛みが走るが、すぐに舌が痛みを消した。数回繰り返した後、アモルが牙を剥いた。捕食時のみ伸びる牙を突き立て、オレの首に埋めていく。ずぐりと痛みが走り、すぐにむず痒い感覚に変わった。

 夢中になって血を吸うアモルの黒髪に、伸ばした手を乗せた。なんだか、かわいそうな気がする。圧倒的な力を持つ上位の堕天使が、こうして人の血を浅ましく啜らねばならぬ姿――神の与えた罰ならば、重すぎるのではないか。

 黒髪を撫でる手が重く感じられ、いつもより多く吸われた事実に思い至った。これ以上は……動けなくなる。そう考え、止めようとしたオレの身体が大きく揺れた。冷たい何かが流れ込む感覚に、別の衝動が重なる。そこからは獣と変わらなかった。
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