【完結】左目をやる契約をしたら、極上の美形悪魔に言い寄られています

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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45.名を呼べ、支配させてやる

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 教会は不釣合いな臭いが充満していた。鉄さびた生臭さが嗅覚を麻痺させる。

 天窓から注ぐ光が照らし出すのは、赤く濡れた信者たちと、醜い魔物数匹――すでに繰り広げられた虐殺の跡を前に、オレは十字架を首から外して聖水をかける。

 パリンっ! 派手な音で天窓のガラスが砕けた。

「っ……」

 反射的にガラス片から目を守り、素早く顔を覆う。視線をふさいだ瞬間、叩きつけられた殺気に肌が震えた。十字架を翳したオレの唇から『主よ、守り給え』と言霊が零れ落ちる。

「ぎゃぁあああぁ……」

 醜い悲鳴が空間を引き裂いた直後、憮然とした声が降ってきた。

「まだ、神に祈るのか?」

 魔物を退けた悪魔は、悪びれた様子なく呟く。同族を滅ぼしたことなど、意識の端にも残っていないのだろう。

 十字架を掴む左手へ象牙色の手が重ねられ、オレは青紫の瞳を瞬いた。人より冷たい肌がじわりと温もりを奪いながら左手を包み、不満そうに眉を寄せた美人が顔を寄せる。

「アモル」

「俺を呼び、求めればいい」

 簡単だろう? 司祭たるオレへ、堕天使であり吸血鬼である存在が助けを求めろと命じる。強い意志を示す蒼い瞳がじっと覗きこんでくる居心地の悪さに、つい瞼を伏せた。

「悪魔に屈する気はない」

 吐き捨てたオレの声は迷いが滲んでいて、敏感に感じ取ったアモルの口角が持ち上がる。首にするりと手を回して、オレに抱きついたアモルが唇を耳元に寄せた。

「ならば、俺の名を呼べ。支配させてやる」

 屈せずに支配すればいい。従ってやるぞ――これこそ悪魔の囁きだった。

 ダメだと知りながら、引きずられそうになる。魅力的で逆らいがたい提案に、甘い声色と温もりが馴染んだ肌が追いうちをかけた。流されてしまえば楽になれると唆す悪魔の背に、ふわりと白い羽根が広がる。

「おまえはもともと、こちら側の存在だ」

 切り札のように告げられた言葉の意味が胸に突き刺さった。

 眩暈がする。ひやりと冷たい空気を遮断するように翼が包み込む中で、オレは「こちら……側……?」と掠れた呟きを零すのが精一杯だった。
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