【完結】左目をやる契約をしたら、極上の美形悪魔に言い寄られています

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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39.理由を言え。聞いてやる

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*****SIDE ラウム

 足音を響かせて歩くレンガの道を、裏路地へ曲がる。この先は左に曲がれば細い路地、右はすぐに行き止まりになる。迷うことなく右へ曲がって、大きな壁を前に立ち止まった。

 顔の半分、右目を髪で覆い隠すおれは、壁に寄りかかってひとつ息を吐いた。

「キメリエス」

 ずっと呼ぶことを禁じてきた名を口にする。目を伏せて待てば、すぐに白い手が頬に伸ばされた。そっと頬を辿って目元をなぞり、耳まで流れて髪に触れる。愛しいのだと言葉にしなくても伝わってきて、ゆっくりと目を開いた。

 穏やかな緑の瞳に映るのは、黒髪を後ろでひとつに括った美人の姿。何度も夢に見るほど愛しく、だからこそ隣に立つことを自らに禁じたのは自分自身だった。

「探したぞ」

「すまなかった」

 なじる響きに誘われて、不満を示すように尖った唇に指先を当てる。キメリエスがふわりと笑みを浮かべ、その指に軽く歯を立てる。戯れに似た行為に、口元が緩んだ。

 まさに悪魔の誘惑だった。蠱惑的な唇が薄く開き、接吻けを強請る。数えるのもやめた長い年月を塞ぐように、唇を重ねた。舌を絡め、キメリエスの牙が舌を切り裂くのを許す。滲んだ血を音を立てて啜り、彼はようやく離れた。赤い舌がペロリと唇の血を舐めとる。

 甘い……互いに交換し合った感情が舌の上でとろりと溶けた。

「理由を言え。聞いてやる」

 黒髪の悪魔の傲慢な促しに、悪魔祓いの頂点に立つ黒いローブを捌いて跪いた。美しい悪魔の手に唇を押し当てる。他の同業者に見られたら、裏切りを疑われる行為だ。それでも愛した男に許しを請うおれに躊躇いはない。

「セイルだ」

 原因は彼だと一言で告げれば、キメリエスはすべてを察したように柳眉を顰めた。

 愛情でも同情でもない。ただ純粋に必要だったのだと知っているから、最後には諦めのため息を吐き出す。

「あの……馬鹿が」

 すでに動いているアモル、セイルを傍らで見守ったおれ、元の形を望んで変革を促すキメリエス。

 何も知らず、己を知らぬセイルを罵る。彼は知っていて、思い出せぬ状況を作り出して己を守った。かつて置かれた状況なら仕方ないと思う反面、キメリエスの中で苛立ちが募っていく。

「キメリエス」

 許してやれと穏やかな声音に促され、黒髪の悪魔は無言で頷いた。
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