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37.非力な羊たちを救いたまえ
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アモルが現れた日から、徐々に魔物が絡む事件が増えていた。急増したと表現するには足りず、けれど明らかに魔物の数は増えてレベルも高くなっている。
このままではマズイ、神の加護を願うほど……人間はあまりに非力だった。
普段なら別行動の2人が呼ばれたのは、国外にも名を馳せる大きな教会の礼拝堂だ。多くの灯りに照らし出される床には、細切れになった複数の獣が転がっていた。丁寧に掃除された床を濡らす魔物の体液がぬらぬらと不気味に光を弾く。
「その女性を離せ」
言葉が通じないかもしれないな……そんな皮肉な考えがちらりと脳裏を過ぎる。師の形見である十字架を左手に掲げ、右手で十字を切る。その先で唸る魔物へ言霊をたたき付けた。
『神の御名において、災厄を退けたまえ』
目を見開いた女性の頬を赤い血が伝っていく。人をすり抜けて魔物のみを切り裂いた風の刃がおさまる前に、オレは血まみれの床を踏み出す。倒れこむ彼女をぎりぎりで受け止めるが……その瞳に生気はなかった。
「セイル、こちらは終わった」
背後から声をかけた友人を振り返り、彼女を床に横たえる。
地方のさびれた教会ならともかく、信者の多い都会の大きな教会に魔物が入り込むのは珍しかった。信者が多く出入りする教会は、彼らの無意識下の信仰心によって結界に似た状況を作り出す。低レベルの魔物が入り込むことは不可能だが、今回は数が多かった為か。あっさりと結界を突破した奴らに数人の信者が殺された。
派遣された時は、すでに礼拝堂は血の海だった。犠牲者は5人ほど。最後の犠牲者となった女性は身重で、腹部を切り裂かれた姿から胎児の生存も絶望的だ。
礼拝堂の裏にある神父たちや孤児たちの部屋を確認してきたラウムの黒いローブも、血に濡れて臭気を放っていた。聞きたくない惨状が広がっていたのは想像に難しくなく、オレは目の前の死体に手を伸ばす。
目を見開いて死んだ人は、苦しんだ証拠だと聞く。彼女の零れそうに大きな目を伏せてやり、隣の少年の目も同様に伏せた。何も言わずにその作業をこなし、血を含んで重いローブをさばいて立ち上がる。
「なんとか、しなくちゃな」
自分に言い聞かせるようなオレの言葉は、彼らしか生者のいない礼拝堂の鉄さびた空気を震わせた。
たとえ、自らの身を犠牲にするとしても――滲んだオレの決意に、ラウムは同意も否定もできずに視線をそらす。
……ああ、『彼』は弱者を見捨てることが出来ないのだ。また同じ結末を招いてしまう。危惧する友人の前で、オレは泣き出しそうな顔を赤い手で覆った。
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