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35.意外とアイツを許してるのか
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「用がなければ来てはいけないのか?」
揚げ足を取るようなアモルの疑問に、オレは肩を竦めて切り返す。
「用もない悪魔が、悪魔祓いに会いに来るのはおかしいだろ」
「なるほど……」
素直に頷いたアモルが、ふと気付いたようにラウムへ視線を向けた。穏やかな緑色の瞳に惹かれたのか、手を伸ばして頬に触れる。その仕草は、以前オレの瞳を欲しがったときに似ていた。
アモルがまた変なことを言い出すのでは? と心配になり、オレが口を開こうとした瞬間、アモルは伸ばした手をすっと引っ込めた。その指先を握りこむようにして、僅かに眉を顰める。
「……お前、何者だ?」
「オレと同じ悪魔祓いで、ラウムという」
一般人に名乗る時と同じように平然と対応するラウムを見つめながら、アモルは少しだけ俯き、すぐに顔を上げた。僅かに口元に浮かんだ笑みが深められ、はしゃいだ様子でオレを振り返る。
「どうした?」
小首をかしげるオレへ、アモルは嬉しそうに抱きついた。反射的に受け止めてしまい、咄嗟に首を庇うように身を引く。さすがにラウムの前で、公然と血を吸われるのはマズい……そんなオレの懸念をよそに、悪魔は無邪気に何かを喜んでいた。
「用なく来たが……意味はあった」
「よかったな」
アモルの嬉しそうな姿につられて、つい……オレも笑顔を作った。その頬に手を滑らせたアモルの指が、目の縁をなぞるように動く。柔らかな動きの指先は冷たくて、肌が粟立つような感覚が走った。
「また来る」
さっさと立ち上がったアモルに「いや、また来るのは問題が」と呟くオレの三つ編みを掴んで引っ張り、すっと顔を近づけた。整った顔立ちは笑みを浮かべ、黒髪がさらりと頬に触れる。
「緑の瞳もいいが、やはりお前の紫の方が好きだ」
まるで愛の告白のように柔らかく響いた声の直後、アモルはふわりと消えていた。
反射的に捕まえようとした指先が宙を掴み、がっかりする自分に複雑な思いを抱く。オレのため息を聞きながら、隣のラウムがくん……と鼻をすする仕草を見せた。
「以前の残り香の主、か」
「ああ……」
「随分と情熱的な求愛だったな」
からかうラウムの言葉に赤くなりそうな頬を誤魔化しながら、いつもの笑顔を作る。
「冗談、アイツにそんな気はないだろうさ」
その言葉にラウムは目を見開くが、何も言わずにふわりと表情を和らげた。普段のオレならば「オレにそんな気はない」と答えただろうに、相手の立場で発言したことに気付いていない。つまり、オレ自身はあの美しい悪魔に対して敵意ではなく、好意に近い感情を持っているということだ。
それを自分の言葉で自覚してしまい、苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。失敗した。余計なことを言わなければ気づかなかったのに。他人の感情には敏感だが、自分について鈍感を通り越して無知を晒すオレを知るラウムが肩を竦める。
やっぱり気づかれたよな。複雑な心境を誤魔化す溜め息を吐く。
「仕事に戻ろう」
「さすがに熱心なことで」
茶化しながら肩を竦めて隣に並んだオレは、慣れた所作で編み髪を背に放った。その仕草で、さきほど黒髪の悪魔が三つ編みに触れたことを思い出す。オレの髪を、ラウムを含めた他人に触らせることはなかった。
ふいを突かれたにしても、あっさりと三つ編みを引っ張らせたオレの態度は怒りや不快感ではなく、呆れを含んだ柔らかなもので……。
オレ、意外とアイツを許してるのか。距離を詰められたことに不快感を抱かないのは珍しい。さきほどアモルが触れた頬をそっと自らの指で辿って苦笑した。
揚げ足を取るようなアモルの疑問に、オレは肩を竦めて切り返す。
「用もない悪魔が、悪魔祓いに会いに来るのはおかしいだろ」
「なるほど……」
素直に頷いたアモルが、ふと気付いたようにラウムへ視線を向けた。穏やかな緑色の瞳に惹かれたのか、手を伸ばして頬に触れる。その仕草は、以前オレの瞳を欲しがったときに似ていた。
アモルがまた変なことを言い出すのでは? と心配になり、オレが口を開こうとした瞬間、アモルは伸ばした手をすっと引っ込めた。その指先を握りこむようにして、僅かに眉を顰める。
「……お前、何者だ?」
「オレと同じ悪魔祓いで、ラウムという」
一般人に名乗る時と同じように平然と対応するラウムを見つめながら、アモルは少しだけ俯き、すぐに顔を上げた。僅かに口元に浮かんだ笑みが深められ、はしゃいだ様子でオレを振り返る。
「どうした?」
小首をかしげるオレへ、アモルは嬉しそうに抱きついた。反射的に受け止めてしまい、咄嗟に首を庇うように身を引く。さすがにラウムの前で、公然と血を吸われるのはマズい……そんなオレの懸念をよそに、悪魔は無邪気に何かを喜んでいた。
「用なく来たが……意味はあった」
「よかったな」
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「また来る」
さっさと立ち上がったアモルに「いや、また来るのは問題が」と呟くオレの三つ編みを掴んで引っ張り、すっと顔を近づけた。整った顔立ちは笑みを浮かべ、黒髪がさらりと頬に触れる。
「緑の瞳もいいが、やはりお前の紫の方が好きだ」
まるで愛の告白のように柔らかく響いた声の直後、アモルはふわりと消えていた。
反射的に捕まえようとした指先が宙を掴み、がっかりする自分に複雑な思いを抱く。オレのため息を聞きながら、隣のラウムがくん……と鼻をすする仕草を見せた。
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「ああ……」
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「冗談、アイツにそんな気はないだろうさ」
その言葉にラウムは目を見開くが、何も言わずにふわりと表情を和らげた。普段のオレならば「オレにそんな気はない」と答えただろうに、相手の立場で発言したことに気付いていない。つまり、オレ自身はあの美しい悪魔に対して敵意ではなく、好意に近い感情を持っているということだ。
それを自分の言葉で自覚してしまい、苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。失敗した。余計なことを言わなければ気づかなかったのに。他人の感情には敏感だが、自分について鈍感を通り越して無知を晒すオレを知るラウムが肩を竦める。
やっぱり気づかれたよな。複雑な心境を誤魔化す溜め息を吐く。
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ふいを突かれたにしても、あっさりと三つ編みを引っ張らせたオレの態度は怒りや不快感ではなく、呆れを含んだ柔らかなもので……。
オレ、意外とアイツを許してるのか。距離を詰められたことに不快感を抱かないのは珍しい。さきほどアモルが触れた頬をそっと自らの指で辿って苦笑した。
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